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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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#13 ふたりきりになれないなら

舞踏会から数日後。


「あぁ、もう!どいつもこいつも、エスターに買収されてるじゃないか!!」

ラスが怒っているのは、うちの使用人も、ラスのところの使用人も、いつの間にかエスターに掌握されてしまっていたこと。

「あいつ。どんな手を使って買収したんだ?金か、物か、家族の雇用の斡旋か…。それとも、弱みを握ったのか!?」

エスターと使用人がどんなやり取りをしたのかは、わからないけれど。私とラスが、ふたりきりで部屋にいると、誰かしら必ず部屋を訪ねてくるのよ。それが、私の家でも。ラスの家でもね。『結婚式までは、部屋にふたりきりでいさせない。』という、エスターからの指示を完璧にこなしているのよ。あんまりにも見事な連携に、思わず拍手しちゃったわ。みんな、楽しんでいるように見えなくもないけれど…。

「王宮でも、俺たちがふたりきりで部屋にいることを、誰かがエスターへ知らせたんだ。どこもかしこも、あいつの手の者ばかりだ!」

「さすが、エスターよね。」

「リアは平気なのか??」

「だって。結婚式までなのよ??会えないわけじゃないし。きっと、あっという間よ。」

「あと数ヶ月もあるんだぞ!?長いだろ。」

「ラスは、王都で頼まれていることがあるから、忙しくしているうちに時間が過ぎるわよ。ほらほら。もう時間でしょ。今日も頑張ってね。」

頭をなでてあげたら、機嫌が直ったみたい。ラスは、私の頬に、いってきますのキスをすると、自分の頬を私の顔の前に差し出し、いってらっしゃいのキスをせがんだ。

「いってくるよ。」

「いってらっしゃい。」

頬にキスをされたラスは、ご機嫌で出かけて行ったわ。

王都へ滞在している間、ラスは、私のお父様と、宮廷医のお祖父様のもとを訪ね、薬の効果や副作用、新薬の話をしたり。ラスのお父様と、王都で診療にあたるルーカス様を手伝い、診療所まで来られない人のところへ往診したりと、忙しい日々を送っているの。王都には、領地とは比べられないほどたくさんの人が暮らしているから。

エヴァンス家の人たちは、患者さんを選んだりしない。貴族も庶民も平等に診てくれるため、領地でも、王都でも、彼らの力は頼りにされているのよ。その中でも、ラスの治癒能力は高いから、たくさんの患者さんを診ることが出来るの。ラスを指名する貴族も少なくないわ。患者さんの中には、ラスに好意を寄せる令嬢もいる。病気を治してもらったら、恋心を抱いてしまう気持ちはよくわかるわ。その病いが重いほど、辛い症状から解放され、感謝と好意が大きくなるわよね。…私が、そうだもの。

ラスのおかげで病気が治ったと、感謝の声が聞こえる度にね、思うの。ラスの力を、私がひとり占めしちゃダメだって…。


ラスが忙しくしている一方で私は、エスターに誘われてお茶会へ参加していた。

ひとつ目は、ご夫人たちとのお茶会。

エスターのお店の商品の感想や、新商品について意見を話し合うのだそうよ。テーブルには、数種類の小瓶が並べられていて、ひとつずつ感想や改善点があげられていく。持続性。香りについて。使い心地。テクスチャー等など…。小瓶の中身のゼリーを触りながら、あーだこーだと話し合うご夫人たちに圧倒されてしまう。そして。新商品の妊活ゼリーの話になったら、熱量がさらに増したのよ。

様々な意見やアイデアが飛び交う中、私はひとり口を閉ざしている。お茶会へ来る前に、ラスとエスターから扇子を渡されたの。それでね。扇子で口元を隠して、話しちゃダメだって念を押されたのよ。その上、エスターは、『お茶会で沈黙するのは慣れてるでしょ?』なんて言ってきたんだから。

沈黙を強いられたひとつ目のお茶会は、ただただ商品の説明を聞いて終わったわ。


ふたつ目は、同年代の婦人たちとのお茶会。

集まったのは、新婚や、結婚を間近に控えた子たち。この日も、テーブルにあの小瓶が並べられていたわ。違うのは、娼婦の方を講師に招いて、夜の生活について指南してもらう点。男女の体について。小瓶に入ったゼリーの使い方。体位。男の人の悦ばせ方など。新婚の子たちは、前のめりになって真剣に聞いている。対して、まだ結婚していない子たちは、想像しては顔を青くしたり赤くしたり、想像出来ないときは首を傾げたりしている。

私はというと…。今日もまた、扇子で口元を隠し、黙っているようにと釘を刺されていた。それに、講師の方のお話に反応していけないとも言われているの。だから話を聞いていて、ラスもそうだったとか、そうしたら喜ぶのかなと思っても、あまり反応しないように、右に左に首を傾げるだけにとどめたわ。

お茶会の最後には、講師の方からお試し用として小瓶をプレゼントされた。私や、エスターにもね。この小瓶は、エスターが経営するお店の商品なのに。それに、講師の方は、この商品を卸している娼館で働いているの。

どうやらエスターは、このお茶会では、これが自分のところの商品だということは秘密にしたいみたい。講師のおすすめという体で、気に入ったらお店で購入してもらうつもりなんだわ。

ちなみにエスターの話では、国王陛下と皇后様も愛用しているそうなの。


お茶会での言いつけを守ったつもりでいた私は、帰りの馬車で、エスターに叱られている…。前回も今回のお茶会も、しゃべらないように頑張ったのに。

「そもそも。リアに、反応するなって言う方が間違いだったのね…。」

「反応してないわよ!?」

そう言ったら、大きなため息をつかれてしまったわ。

「扇子を持たせて、手と口の動きを止めたから油断したわ。あなたね。目の動きだけでも、わかりやすい反応をしていたわよ。」

「め…目の動きで??」

「そうよ!新婚の子たちでさえ首を傾げていた話にも、『なるほど!!』とか『それ知ってるわ!』ってリアの目は反応していたんだからね。思ったことが顔に出ちゃうのはわかっていたけど、盲点だったわ。」

そんなにわかりやすく顔に出ているなら、それって、貴族としてどうなのかしら…。

「でも。目の動きだけでわかるのは、私とエスターの付き合いが長いからじゃない?他の人には、気づかれていないわよ。」

「今日の話に、一番興味津々だったのはリアだって、講師の子は気づいていたと思うわ。けど、そうね。みんな、話を聞くのに夢中でまわりを見る余裕はなかったから、気づいていないはずだわ。」

そうよ。私だけじゃない。みんなだって、興味を示していたんだから。

「今日のお茶会でも、小瓶が並んでいたけれど。前々から、計画していたの?」

「ええ。結婚式の前に、少しでも知識を持った方がいいと思ったの。初夜で、リアが困らないようにって。この小瓶もね、結婚式にプレゼントするつもりでいたのよ。それなのに…。あのバカ犬が、待てを出来なかったせいで、計画が狂っちゃったじゃない!!」

「ごめんね??エスターが、そこまで考えてくれていたのに…。」

「もう!ほんとに仕方ないんだから。あのダメ犬。」

「エスターが、バカ犬とかダメ犬って言うから、

ラスが、『わん』って鳴いたの思い出しちゃったわ。『わん』って鳴くなんて、おかしいわよね??」

「そうね。あいつ、頭がおかしいわよね。」

…その返答に、思わず凍りついてしまったわ。

悪いけど、"氷の令嬢"って、私じゃなくて絶対にエスターの方だと思うわ。だって、一瞬にして場の空気を凍らせちゃうんだもの…。


それからまた別の日には、お隣のエヴァンス邸で、ルーカス様の奥様のスカーレット様とティータイムを楽しんだ。

他のお茶会と違って気を遣わなくていいし、しゃべって叱られることもないから楽しいわ。私よりふたつ年が上で、以前から優しくしてもらっているスカーレット様とのティータイムは穏やかなひとときなのよ。

そんなスカーレット様に、沈黙を強いられたお茶会の話をしたら笑われたわ。

「それは、きっと。リアちゃんが余計なことを言っちゃうからよね。ならいっそ、口を閉ざしていてって思ったのでしょうね。ほら。口は災いの元って言うじゃない??リアちゃんの言葉って、場を凍らせちゃうもの。」

「えぇっ!?それは、エスターのことでしょう??」

「あの子の場合は、意図的によね。リアちゃんは昔から、トゲトゲしてない言葉でも、その場にいる人たちをフリーズさせちゃうの。"ここで、そんなこと言っちゃうの!?"ってね。」

「あっ…。だから、ラスは気をつけるように念を押したのかしら??『人前で、婚前性交なんて言うなよ。』って…。」

「………。」

スカーレット様が、ティーカップを持ったままフリーズしてしまった。

「スカーレット様??」

「誰がリアちゃんにそんな言葉を…。せめて交渉…。いえ、そういうことじゃないわね…。あのね。こういうところよ?リアちゃんが、"氷の令嬢"なんて、呼ばれちゃうの。まわりを凍らせてしまうから。」

また新たに、氷の令嬢と呼ばれる理由が増えたわ…。確かに、たった今。私の言葉は、スカーレット様をフリーズさせてしまった。

「なら…。もしかして、あれもかしら??令息たちに向かって、『悪い虫さん』って言ってしまったの。あのとき、彼らもポカンとして固まっていたわ。」

「ふふっ。『悪い虫さん』って。"さん"をつけるあたりが、リアちゃんらしいわね。」

悪い虫の話には、みんな笑ってしまうのね。ラスもエスターも、そういえば、ウィルバート様も笑っていたわね。

「リアちゃんの天真爛漫なところはね、長所ではあるのだけれど…。思ったことをなんでも口に出しがちじゃない??だから。ラスちゃんとエスターちゃんは、リアちゃんに話しちゃダメって言ったのでしょうね。」

ふたりは、私の言葉選びを信用出来ないから、お茶会で話したらダメだと言ったのね。それと。社交の場で、私が冷めた態度をとっていた方が都合がいいと言っていたラスの思惑も、妙に納得したわ。しゃべらず、ツンツンしていれば人も寄って来ないものね。

思えば。私って昔から、貴族の令嬢らしくないって言われてきたのよね…。うちの領民や、エヴァンス侯爵領とアンダーソン伯爵領の領民にも…。


「スカーレット様。ごきげんよう。お邪魔します。」

「あら、エスターちゃん。いらっしゃい。」

エスターが、エヴァンス邸を訪ねて来た。きっと。うちの使用人に、私がここにいると聞いて来たのね。

「お子様の誕生、おめでとうございます。これ、私からの出産祝いです。」

「わぁー。ありがとね。開けてみてもいいかしら?」

スカーレット様はエスターに確認すると、プレゼントを開封した。

「このベビー服、かわいい。どこのお店で買ったの??」

エスターがプレゼントしたベビー服を見て、はっとした。

「もしかして。このベビー服って、ラスがお願いしていた新しい事業?」

「まだ、試しに数着つくってみただけよ。だから、スカーレット様。着せてみて、感想や意見を教えてくださいね。」

「相変わらず、ちゃっかりしてるわね。」

「よろしくお願いしますね。こっちのプレゼントは、スカーレット様にです。」

エスターは、もうひとつプレゼントを用意していた。スカーレット様へは、新製品の化粧水と、ケープコート。

「あら、このケープコート。ベビー服のポンチョとおそろいだわ。あぁー、なるほどね。親子でこれを着て、歩く広告塔になれってことね。それから。化粧水の使い心地も広めればいいのかしら?」

「さすが、スカーレット様。説明しなくても私の意図を汲み取ってくださるので、話しがはやくて助かりますわ。」

エスターは、スカーレット様へ拍手をおくる。

「うふふっ。もう、慣れたわよ。」

王都には、エスターのお店の商品を広めてくれる人たちが何人もいて。スカーレット様も、そのうちのひとりなの。ふたりが、ベビー服を赤ちゃんにあてて意見を出し合っている様子を、私は複雑な気持ちで見ていた。首がすわるようになったばかりの赤ちゃんに、エミリオの姿を重ねてしまう。私はあんなふうに、エミリオを抱くことが出来るのかしら。それから。エスターは、エミリオにも服をプレゼントしてくれるかしら…。

「賑やかな声が聞こえると思ったら、ふたりとも来てたんだね。いらっしゃい。」

「あら、あなた。おかえりなさい。ほうら、パパが帰って来たわよ。」

ルーカス様が帰って来て、スカーレット様と赤ちゃん、家族三人が揃った。三人の姿を羨ましい気持ちで見ていて、ルーカス様に確認したかったことを思い出した。

「そうだわ。ルーカス様に聞きたいことがあったのです。8年前に私が王都で体調を崩したとき、ラスがルーカス様に嫉妬したって本当ですか??」

「あぁー。そんなこともあったなぁ。『リアに会えて、ずるい!!』って。俺は診察に行ってただけなのに。しかも、俺が嘘をついて、会わせないようにしてるって疑ってきたんだぞ。けどまぁ、リア絡みのあいつの嫉妬なんて日常茶飯事だからな。8年前どころじゃなく、もっとずっと昔からなんだ。」

「…ずっと昔って、いつからですか??」

「はじめは…、ラスが5歳くらいのときだったかな。突然あいつが、『リアは、僕のだから!!兄さんには渡さない!』って言ってきて。我が弟のことながら、何考えているんだかさっぱりわからなかったな。」

『リアは、僕のだから』って…。そんなに小さいときから言っていたの!?今は、『俺のだから』に変わっているけれど。

「ほんとラザラスって、リアのことになると思い込みが激しくなるのよね。リアの前では、必死に格好つけているけど、実際はおバカなんだから。」

「確かに、あいつは格好つけてるけど。ふたりだって夜会では別人じゃないか。エスター嬢は何匹分も猫をかぶってるし、リアは背伸びし過ぎなくらい大人ぶった態度だし。それから。普段、ひとりずつ会うと普通なのに。君たちは、三人集まると馬鹿なことばかりやらかすのは、なぜなんだろうな?」

「あら、心外ですわ。"馬鹿なこと"とは一体なんのことですの?」

「そうだな…。怪我した犬を助けようとしていたはずが、リアが噛まれたら、ラスとエスター嬢でその犬を追いかけ回し、怪我を悪化させたり。免疫力の向上に温泉がいいと聞いて、温泉を掘り当てようとした結果、深い落とし穴をいくつもつくったり。あと。同年代の令息たちと取っ組み合いの喧嘩をしたときは、さすがに心配になったよ。」

「あれは、リアの気を引こうとして、リアをバカにしたあいつらが悪いのよ!!あとで、私とラザラスが言い返しに行ったときに、手を出してきたのも向こうが先だったんだから!!」

「君の口には勝てないから、手が出てしまったんだろう。けど、彼らも。まさか、令嬢に返り討ちにされるとは思わなかっただろうな。当時のラスの力では治癒出来ず、俺に泣きついてきたっけ。」

エスターは、なにかを思い出したようで、笑っている。でも私は、笑えないわ。当時のラスの治癒の力で治せないなんて…。それに。うさぎとリスを追いかけたときと同じなのだと、気づいてしまったの。"馬鹿なこと"のきっかけは、いつも私なのよ…。

「犬は、私が噛まれたから。温泉は、私の免疫力向上のため。それから、取っ組み合いの喧嘩をした令息たちって、悪い虫さんたちなんでしょ??馬鹿なことの原因は、いつも私のせいなんじゃない!?」

「リアのせいじゃないわ。言ったでしょ??私とラザラスが、勝手にやってることだって。」

エスターの言葉と同時に、ルーカス様とスカーレット様が拍手と歓声を上げた。

「ふたりの行動の意味を推し測れるようになるなんて、天真爛漫なリアちゃんも、大人になったわね。」

「ふたりがやらかしている原因が自分だと、やっと気づいたか。あんまりにもお花畑な子だから、どうしようかと思っていたんだ。ラスとエスター嬢の暴走を止められるのは、リアだけだからな。頼むぞ。」

ラスとエスターを止めるのは、私だってムリだわ…。あの令息たちの反応を見てから、ふたりがどうやって追い払ったのか気になっていたのよ。まさか、取っ組み合いの喧嘩だったなんて…。それで、エスターに対して怯えていたのね。喧嘩をしたことも、怪我をさせてしまい、ルーカス様に治してもらっていたことも知らなかったわ。

「ところで。向こうが先に手を出したって、ラスとエスターは怪我をしなかったの?」

私が問いかけると、なぜかみんなが押し黙ってしまった。

「…昔のことだし大丈夫よ??それに。私とラザラスは、ただのすり傷だったから。」

「すり傷はできたのね?」

ラスとエスターが、あの令息たちに傷つけられたと聞いて、8年も前のことでも、ものすごく腹が立ってきた。

「相変わらず、リアちゃんは怒ると怖いわね。あなたの怒った声もまた、場の空気を凍らせちゃうのよ。でも。ラスちゃんと、エスターちゃんが傷つけられたことが、許せないのよね?リアちゃんも、ふたりのことが大切だものね。」

「普段は穏やかだから、怒ると余計に怖く感じるんだよな。リアも、ふたりのためなら人が変わるから。」

「私ね。リアちゃんとエスターちゃんの武勇伝、格好よくて大好きよ。川では、カバの大群。畑では、熊や猪、害鳥をやっつけちゃうの。水で窒息させたり、風で切り裂いたり。」

川では、うっかり縄張りに入っちゃって、カバを怒らせてしまったの。熊は養蜂場の蜂蜜を、猪や害鳥は、みんなが頑張ってつくった畑の作物を荒らしたから…。私とエスターは、無我夢中で退治したのよね。これは。やらかしてると言われても仕方ないわ。私も含めてね…。

「いや、どこの冒険者だよ。ご令嬢の話とは思えないよな。」

「今の言い方、ラザラスそっくりでカチンときましたわ。やっぱり、兄弟ですのね。」

「ほんっとに、普段と社交の場での態度が違い過ぎるだろ。夜会でエスター嬢に会っても、一瞬誰だかわからないからな。」

エスターとルーカス様のやり取りは、まるでラスと言い合っているみたいに見えて、なんだかおもしろいわ。

「私は度々。私たち三人を叱るルーカス様の姿が、お兄さんというより、"お父さん"みたいだと思うことがありますわ。」

小さいときから、私たち三人は怪我をしては、ルーカス様とラスのお父様に治してもらっていた。その度に、ルーカス様に叱られていたのよね。ラスは、私とエスターを止めないことを。エスターは、魔力を加減することを。私は、咳が出ないとすぐ調子に乗ることを…。

あの頃。エスターには、よく不自然な傷ができていた。それは、風の操作が上手くなるまで続いていたの。だけど。私たちは、三人ともよく怪我をしていたから、不自然な傷も紛れ、ごまかせていたかしら…。



「リアっ!!こっちにいたのか!?」

帰宅したラスは、私にハグをし、おかえりのキスを催促してきた。

「ラス。おかえりなさい。」

ラスの口振りから。帰って来て、まずは、私の家へ行ったのがうかがえた。

「おいおい、ラス。結婚するまでは、おまえの家は隣じゃなく、ここなんだからな。」

「どうせ、あと少しじゃないかよ。それより。兄さんの代わりに、王都の外れまで行って来たのに、自分はリアと一緒にいるなんて、ずるいだろ!!」

「出たよ、ラスの嫉妬。俺だって、さっき帰ったばかりだよ。往診ご苦労さん。毎日、王都全域を診るなんて無理だからな。助かるよ。」

ルーカス様に労いの言葉をかけられても、ラスは不機嫌なままだった。ラスってば本当に、自分の兄であるルーカス様へも嫉妬するのね…。

「ラス、お疲れさま。」

私の隣に座ったラスの頭をなでてあげたら、ころっと笑顔になり、簡単に機嫌が直ったわ。

「このダメ犬、しっぽを振っているわ。」

エスターは、あきれ顔で言った。ルーカス様は、苦笑いを浮かべていて。スカーレット様は、温かい目をして微笑んでいる。そして私は、ラスが大きな犬に思えていた。だって。人前なのに平気で、頬ずりしてくるのよ!?


私の前では、いつも涼しい顔をしていたけれど。本当は以前から、人前でも構わず、こんなふうに触れ合いたかったのかしら??ラスからの熱烈な愛情表現に、戸惑ってしまうわ。だって。いまだに、私を想ってくれる理由がわからないんだもの。でもね。もう、ラスの私への想いを疑ってはいない。理由はわからなくても、彼がどれほど私を想ってくれているのかは、十分に伝わったから。

だから、次は私の番。ラスへ想いを伝える方法を熟考した結果。領地へ戻る際に、ラスへの本当の想いを綴った手紙とハンカチを贈ることにしたの。今度は、既製品じゃなく、自分の手で刺繍を施したハンカチをね。

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