修行
ナニアとアヌラックは佐藤の寝泊まりしている建物の部屋を一つずつ借りて宿泊することになった。徐は時間の許す限り毎日、瞬間移動で台湾と基地を往復する。
ナニアは能力で佐藤の知識と知力を探りながら、それに合った日本語と英語の文献を選んで佐藤に黙読させたり音読させた。身体能力を測りながら走らせたり筋トレさせたりストレッチさせたりもした。思考を読み取りながら能力を分析して実験をさせた。
ナニアはアヌラックと徐に指示を出す。アヌラックには通訳を徐々に減らしてもらう。佐藤に運動させる時には能力を抑えてもらう。徐には佐藤が能力を使った実験の時に佐藤を適所に連れて行かせたり、逆に佐藤の能力の範囲を探らせる。
語学や気象の他にも経済や情報技術や文学や自然科学も教えていく。軍事についても勉強させた。歴史や法律、礼儀作法や銃の扱い方も最低限は身に付けさせた。ナニアは佐藤の体力と集中力の限界を見極めながら時折、休息をさせる。そうでない時は言葉巧みに焚き付けて士気を高めた。
徐はナニアの教育に感嘆した。三ヶ月経って九月になった今、英語が全く喋られなかった佐藤が十分に会話出来るようになった。歩き方も姿勢も改善されている。咄嗟の敬礼も出来ている。また、ナニアは四十三歳なのに三十歳の佐藤よりも遥かに身体能力が有る。二人が一緒に走っても、戦闘訓練しても、筋トレやストレッチをしてもナニアが手加減している。
アヌラックも驚いた。平然と黒人を二人も殺害した佐藤がナニアに反発せずに訓練と学習を続けている。能力も強くなっている。佐藤が銃を分解して磨いて組み立てるとは夢にも思わなかった。
元々、都内に住んでいた佐藤は雨を降らせたり晴らせたり出来ても、他県の天候には干渉出来なかった。しかし今では横須賀基地内でパソコンやタブレット端末の画面を眺めながらフィリピンを襲う台風の軌道を変えたり、威力を弱めたり出来る。また、太平洋から台風を生じさせて日照りが続いていた日本の東北地方に移動させて雨を降らせたりもした。台風のわりには風は弱く雨足も適切で土砂崩れも洪水も起きなかった。インドネシアの気象も絶妙に調整した。洪水になりそうな暴風雨を晴らすと同時に、日照りに悩む隣の島に穏やかな雨を降らせた。
人工衛星からそれらを確認していた米軍も想像以上の出来に驚いた。日本政府も台湾政府も動揺した。佐藤の能力について三ヶ国は機密情報にした。
ナニアは佐藤に、
「砂漠の山に入社してみてはどう?社長が貴方を期待している」
佐藤は自分の顎を掴んで考える。アヌラックは即時に承諾しない佐藤を訝しんだ。ナニアは徐にも誘った、
「貴方も転職を考えたらどう?」
徐は腕を組んで空を見上げ、
「まずは今の職場の上司達と相談だな」
佐藤は低い声で、
「ちょっとやってみたい事があります」




