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嵐咲く  作者: 加藤無理
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大和民族の誇り

 徐は周りを見渡しながら英語で、

「これから彼女をどうするつもりですか?」

 ダンカンは、

「罪滅ぼしの為に能力を使わせるべきだな」

 徐と蔡の正面に座っていた台湾軍の将校二人のうち一人が、

「刑務所で能力を使わせるのか、それとも釈放させるのか?」

 徐と蔡の後ろに立っていた米軍の将校が壁に背中を預けながら腕を組み、

「それは日本政府の判断によるだろうな」

 台湾軍の将校二人も蔡も徐も宙を睨んだ。徐は自分の顎を軽く押さえる。部屋の隅で立っていた兵士が連絡する。弁護士はなるべく会話を佐藤に訳している。


 蔡は佐藤に振り向き日本語で、

「二人を殺した時も能力を使ったのか?」

 佐藤は蔡を睨み返し、

「少しは使いました」

 米兵の半数が佐藤に振り向く。不快と恐怖の混じった視線だ。弁護士はヒッと声を漏らす。佐藤は低い声で、

「日本女性がこれ以上見下されるのは耐えられません」

 蔡は徐に通訳した。徐は眉間に皺を寄せて台湾語で発言した。台湾軍の将校の一人が腕を組みながら翻訳した、

「傲慢だ。君のした事は旧日本軍と変わらない」

 弁護士の顔が気まずそうに歪んだ。将校はそれにかまわずに付け加えた、

「彼はセデック族なんだ。君はセデック族を知っているかい?」

 蔡は困った顔をした。佐藤は無表情で、

「霧社事件については少しだけ、知っています」

 台湾統治時代に日本側がセデック族を搾取し迫害した。それに対するセデック族による反撃。それが霧社事件。他の先住民族にも日本は似た事をしてきた。将校二人は一瞬、驚いて瞳が揺れたが、一人が徐に通訳した。米軍の将校もダンカンとプーランに日本語での会話を訳している。徐は英語で冷たい声で、

「君に他者への敬意は無いのか?」

 蔡が佐藤に訳す。佐藤は薄ら笑いを浮かべながら、

「有るからこそ、見下してくる奴が余計に許せないのです」

 佐藤の不気味な表情と発言にほぼ全員が不快で目を細めた。ダンカンと徐だけは無表情だ。佐藤は手錠をかけられている両手首を上げながら、低い声で、

「皆さんは日本女性が世界で最も弱くて醜い集団だと思っている様ですが、私はこの同胞達の尊厳と財産を踏みにじる存在を潰します」

 蔡が英語で訳した。ほぼ全員が不快と不可解で額に青筋を立てる。佐藤は嘲った顔をしながら腕を下ろす。ダンカンと徐は無表情のままだ。

「日本女性達も世界もお前の様な傲慢な異常者を必要としない」

 米軍の将校が日本語で否定した。佐藤は鼻で笑い、

「二十世紀に悪虐の限りを尽くしてきた大和民族の誇りについて私はさっきから語っているけれど、皆様には分からないでしょうね」

 壁の前で立っていた米兵のうち数人が中指を立てて佐藤を侮蔑した。ダンカンは彼らを睨み回しながら、

「二人の発言を正確に訳してくれないか?」

 蔡が代わりに訳した。ダンカンは大袈裟に溜息を吐くと、冷徹な声で、

「彼女を軽蔑している奴は全員、今すぐにここから出て行け」

 ほぼ全員が目配せし合った。佐藤は薄ら笑いを浮かべながら宙を眺めている。ダンカンは周囲を見渡しながら扉を指差して再度、

「さっさと出て行け」

 整列していた米兵達も佐藤を連れて来た刑務官達も台湾軍の将校二人も蔡も出て行った。弁護士は不安な顔でそれを見送る。徐は席を立たず、つまらなそうに天井を見つめている。プーランは佐藤を観察している。佐藤と目が合う。佐藤は面白そうに見返している。ダンカンは腕を下ろし、微笑みながら、

「紹介がまだだったね。俺はダンカン。彼女はプーラン。彼は徐」

 弁護士は驚いたが佐藤に通訳した。佐藤は不思議そうな顔をする。徐は明るい声で英語で、

「訂正だ。君は旧日本軍を超えている」

 弁護士は首を傾げながら佐藤に通訳した。

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