雨と能力
五月下旬。判決はまだ下っていない。佐藤は拘置所から遠い所へ護送されて行った。早朝から窓の無い車両に乗り続け、昼過ぎになってやっと到着した。
佐藤が逮捕されて以来、東京では雨が続いている。佐藤はほとんど説明を受けないまま、刑務官二人に連れられて手錠をかけられたまま施設に入った。相変わらずの古いトレーナーとズボンを着ている。刑務官の他に制服姿の白人二人が案内している。何故、外国人なのだろうかと疑問に思ったが、佐藤は黙った。
階段を降りて地下室に入ると、学校の教室が二つほど並ぶぐらいの広さであった。四角に囲った長い机。既に十人ほど座っている。手前には弁護士が不安な顔で佐藤を振り返っている。刑務官二人は佐藤を弁護士の隣に座らせると、案内していた白人二人と一緒に扉の前で整列した。
法廷とは違った張り詰めた空気である。壁を覆うように何人もの人々が制服姿で綺麗に整列している。アジア系もいるが、立っているのは全員、日本人ではないようだ。佐藤は全く理解出来ない。
「実はここは横田米軍基地なの。私もよく分からない」
弁護士が不思議そうに説明した。益々、腑に落ちない佐藤は首を傾げた。正面に座っていた白人男性が天井に向けて指を差しながら英語で何か言った。弁護士が訝しそうな顔で訳した、
「雨を止めてくれないか、と、あの人が貴方に頼んでいるみたい」
佐藤は息を飲んだ。白人男性が無表情でまた同じ事を言った。白人の隣ではアジア系の女性が佐藤の様子をうかがっている。佐藤は、
「貴方達は何者ですか?私の事を知っているのですか」
弁護士が二人に英訳した。アジア系女性が答えた。弁護士が眉を寄せながら訳す、
「貴方が天気を操れる事を我々は知っている」
佐藤は苦い顔をした。周囲に整列している兵士達は微動だにしないが、瞳が不安そうに揺れている。白人は腕を組む。アジア系女性は机の上で指を組む。二人共、佐藤を見つめている。佐藤の左側に座っている制服姿のアジア系男性二人も、佐藤の右側に座っている背広姿のアジア系男性二人も、怪訝そうに佐藤を見ている。
佐藤は左手をゆっくり上げると、掌を下にして腕を下ろした。
空気が一気に変わった。湿度が下がるのを皆、肌で感じた。壁の前で整列していた兵士の一人がイヤホンを押さえながら英語で何か言った。皆、目を見開いて顔を見合わせる。弁護士は息を飲み、
「本当に晴れたの?」
先程の白人男性が微笑みながら拍手した。隣の女性も微笑む。




