冷たい女
十二月。カリフォルニア州のとある海岸。温暖ではあるが海水浴客は少なかった。ホセは岩に座りながら海を眺めている。
時間通りに佐藤が来た。ホセは笑顔で手を振ろうとしたが、ダンカンとナニアも一緒だ。離れた所で部下七人が拳銃を持って待機しているが、あまり意味が無いだろう。ホセが無表情で迎えると、佐藤が五歩手前で立ち止まる。その後ろ隣でナニアとダンカンも止まってホセを見返す。ダンカンは腕を組み、ナニアは腰に両手を当てている。ダンカンは相変わらずサングラスをかけているが、ホセには鋭い視線を感じる。
佐藤は無表情で、
「夏に助けてくれて有り難うございます」
ホセは苦笑いしながら、
「そんなに改めなくて良い」
佐藤は不思議そうに、
「貴方はメールで組織から完全に離れて私と日本で暮らしたいと言いました」
ホセは微笑む。佐藤は暗い声で、
「この能力が何時消えるか誰にも分かりません」
ホセは笑みを浮かべながら、
「君の能力は二の次だ。俺は君そのものを評価している」
佐藤は腑に落ちない様子で、
「そこが分からないのです」
ホセは肩を落とした。口元は笑っているが、瞳に力が無い。ダンカンとナニアはじっとホセを観察している。ホセは二人を睨んで、冷たい声で、
「離れてくれないか?」
ダンカンはハッキリと、
「それは出来ない」
ナニアは冷徹に、
「佐藤の返答次第で貴方が何をするかと思うと心配」
ホセは二人を暫く睨み続ける。二人は無表情。嘲っているのか警戒しているのかも読み取れない。ホセはゆっくりと佐藤に視線を向ける。佐藤は不可解そうにしている。腕は下げているが、少しの刺激で攻撃しそうだ。ホセは微笑み、真っ直ぐ佐藤の目を見つめながら、
「君は俺にとって唯一対等な存在だ」
佐藤は驚く。ホセは笑顔のまま、暗い声で、
「父はそれを理解したけれど許容しなかった」
佐藤の目が泳ぐ。ホセは、
「君には愛の概念は有るのか?」
ナニアが佐藤を見やる。佐藤はホセを見返したまま答えない。ダンカンが不安そうに眉を下げる。佐藤は、
「分かりません」
ホセが真顔になる。佐藤は、
「だから私は貴方と一緒には居られません」
ホセは青ざめた顔で、何か呟いた。スペイン語だから佐藤には分からなかった。ダンカンが悲痛な顔で、
「『俺がどれだけ愛しているのか、本当に分からないのか?』と、ホセは言っている。君は本気で拒むのか?」
ホセはダンカンを睨んだ。ダンカンは辛そうに佐藤を睨んでいる。ナニアは無表情。佐藤は、
「私は貴方に尽くせないし幸せにも出来ません。それでも良ければ日本で一緒に暮らしませんか?」
ホセは驚いて佐藤に振り向く。佐藤は無表情。ホセはぎこちない笑みを浮かべ、
「君は本当に冷たい女だね。でも俺は君を死ぬまで愛せる」
ナニアは一歩下がり、
「社長。佐藤は砂漠の山を辞めます」
ダンカンは大きな溜息を吐くと、踵を返す。そのまま立ち去る。ナニアもそれに続く。
ダンカンは佐藤の辞職を皆に伝えた。佐藤は皆に慇懃に挨拶をすると、手続きを始めた。一ヶ月後にはホセと一緒に日本に戻った。皆、驚きを隠せない様子で空港から見送った。




