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嵐咲く  作者: 加藤無理
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初公判

 事件から約半月後。初公判が行われた。事件後の夜に蔡から話を聴いた徐は夜明け前に一度は台湾に戻っていた。しかしこの日も日本に来て蔡と共に傍聴していた。上司達には佐藤華江の事件について話している。皆、興味を持っているのか、徐に仕事をまた休ませた。


 この日もまた雨が降っている。雨足は激しく、時折、雷が鳴る。風が窓を雨粒と共に叩いている。法廷内にも音が響いている。


 被告人である佐藤が刑務官二人に連れられて手錠をかけられたまま法廷に入ってきた。拘置所からの支給品なのか古い灰色のトレーナーとズボンを着ている。顔は無表情だが、歩き方で不満や怒りがどことなく匂い立っている。


 判事が質問していく。


 佐藤は現在三十歳。独り暮らし。精神障害者で手帳を持っている。診断は発達障害。日頃は自宅近くの作業所で働いている。工賃だけでは足りないので親から仕送りをしてもらっている。国選弁護士でも完全に無料ではないので、佐藤は最初は弁護士を拒んだが、結局は熟練の七十代の女性弁護士が担当している。


 殺害動機は黒人男性二人による暴言。それまでには一度も面識は無く、素性も全く知らない。被害者の一人はナイジェリア人で、もう一人はガーナ人。佐藤は二人の国籍も知らなかった。傍聴席には両国の警察官が何人も座っている。法廷では時折、英語で通訳がなされている。日本語が出来ない徐でも内容が分かる。


 検察は無期懲役を求刑している。被告人が精神障害者とはいえ、犯行はあまりにも凶悪だからだ。躊躇いのない動きから、責任能力を否定出来ない。蔡の証言以外にも、監視カメラの映像が裏付けている。また、事件が起きてなくても最初から包丁を二本も所持している時点で銃刀法違反である。


 弁護士は被告人が現実に精神障害者であり、体格の良い男性二人からの暴言を指摘した。


 雨は止まないどころか益々強まっている。暴風雨だ。雷鳴も轟く。法廷内にいる者達は何度も窓を見やっている。


 裁判長は被告人に尋ねた、

「二人の外国人の命を奪った事に対して後悔しているのか?」

「全く後悔していません」

 佐藤はキッパリと答えた。検察側も傍聴人側も驚いて声をもらした。弁護士も不思議そうに佐藤に振り返る。裁判長は、

「静粛に。被告人は何故そう言い切れるのか」

「戦闘経験の無い女の私が体格の良い男性二人に武器を持って奇襲しても勝てるとは限りません。むしろ奇跡です」

 佐藤が答える。通訳の後、ナイジェリアとガーナの警察官達は困った顔をした。発言に対する憎悪や嫌悪より、むしろ説得力がある。徐はそう感じた。しかし、検察側も日本の傍聴人達も心底、佐藤に呆れている様子だ。検察側は鼻を鳴らし、傍聴人達は侮蔑の視線を浴びせている。判事達は無表情だ。弁護士は不安そうな顔をしている。


 ここで一旦、公判は終了となる。判決はまだ先だ。


 ドオン。落雷。法廷内が揺れる。

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