同盟の是非
ホセの仲間達は百人中十人ほど死者を出しながらメキシコに戻った。犠牲者に盛大な葬式を挙げて手厚く葬った。密売組織の構成員も民間人も誰もホセや佐藤に怒らない。むしろ二人の生還に喜ぶ者すらいる。イスラム教徒として威張り散らしてきたタリバン側に対し、彼等はキリスト教徒として憎悪を前々から感じていた。
アフガニスタンとタリバンの被害は甚大で一万人以上だったが、女性達と子ども達の死傷者は十人以下と少なかった。タリバンがもっと早く負けを認めれば被害は抑えられた。佐藤が南のアラビア海から台風を起こしてアフガニスタンに上陸させると、やっと降参したのだ。
降参後、砂漠の山はタイからもアフガニスタンからも直ちに撤退した。米軍からの飛行機で帰って行った。タイとアフガニスタンの民衆は砂漠の山ではなくタリバンに怒りの矛先を向けた。タイ政府は公式にタリバンへ非難声明を出す。他に攻撃を受けた国々もタリバンへの憎悪を露わにしている。無関係だった国々も人々もタリバンに呆れた。イランと中国の民衆は失笑した。
アフガニスタンのタリバン政権は被害を強調しながら、
「我々はイスラエルに迫害されたパレスチナと同じだ」
と、反論を試みたが、イスラエルもパレスチナも嘲笑った。
砂漠の山の面々は負傷したが五体満足で生還している。肉体よりも精神に負担がかかっている。皆、八月の終わりまで休んだ。
フランスにいたマリーは何も公言しなかったが、砂漠の山の面々を案じた。
八月の終わりにホセとパブロは自家用機でカリフォルニア州の事務所に来た。砂漠の山は全く抵抗せずに迎えた。荷物検査をしたが二人は丸腰だ。
二人は会議室に通される。部屋の外で十人の部下が待機する。室内にはダンカンとナニアと佐藤が座っている。他の職場仲間達は事務所近くのそれぞれの家で休んでいて不在だ。
ホセとパブロが座ると、ダンカンは苦笑いしながら、
「佐藤を助けてくれて有り難う」
パブロはホセを見やる。ホセは脚と腕を組みながらニヤリと笑う。ダンカンは、
「俺達は貴方達の代わりにメキシコに恩返しするつもりだ」
パブロは微笑み、
「それは嬉しい」
ホセは満面の笑みで佐藤に振り向き、
「今度こそ俺と同盟しよう」
佐藤は俯いて考える。ホセは確かに命の恩人である。しかし同盟したらどんな事をするのだろう。迷う佐藤を尻目にダンカンは、
「俺は佐藤を転職させる気は無い」
ホセの顔が曇る。ダンカンは無表情で、
「佐藤が本心から望めば止めないが、同盟を諦めて欲しい」
パブロは佐藤を見やる。佐藤はまだ考え込んでいる。パブロは低い声で、
「仕方がない。ホセ、諦めろ」
ホセは腑に落ちない様子でパブロを睨む。パブロは、
「砂漠の山がメキシコに恩返しをするので十分だ」
黙っていたナニアが、
「貴方が完全に組織を抜けてこちらに来るのはどう?」
パブロが目を丸くし、ダンカンは口を開けた。佐藤は不安そうにホセを見やる。ホセは天井を眺めて考える。パブロは慌てて、
「それは困る!」
ナニアは冷静な声で、
「ならば諦めて欲しい」
パブロは肩で溜息を吐くと、
「分かった。これで失礼する」
立ち上がる。ホセを見やると部屋を出て行く。ホセも後に続く。




