八月十五日
タリバンからの声明は白い岸にも伝わっていた。ホセは腕を組んで真顔で考え込んでいる。父親のパブロはそれを見ながら、
「お前は今、何を考えている?」
処刑は八月十五日。その前にアヌラック・プーラン・崔はタイに向かった。残りの職場仲間はカリフォルニア州の事務所で待機している。皆、アヌラックが能力を封印している。佐藤は前々日にタリバンが寄越した飛行機に乗ってアフガニスタンに向かう。処刑までの佐藤の世話はアフガニスタンの女性達が行う。
この処刑を指揮しているのはムハンマド。ムハンマドという名前自体はありきたりだ。ムハンマドは既にアフガニスタンとタイ以外にも十カ国ほど勢力を潜入させている。手抜かりは無い。
気掛かりなのは白い岸を中心とした巨大麻薬密売組織。ホセが仲間を一万人連れて佐藤の処刑を見届けたいと申し出ていた。ムハンマドは断ったが、ホセは百人に減らすと妥協した。ムハンマドは渋々承知した。佐藤がホセを激怒させた事はムハンマドも知っている。ムハンマドは部下に慎重に荷物検査させてホセ達を通した。それでもホセ達が小型爆弾とナイフを忍ばせているのは想定内だし、ムハンマド達は十分に迎え撃てる。
ホセはムハンマドに会うと、
「処刑前に一度、俺に佐藤を殴らせてくれ」
ムハンマドが疑いの目を向けるとホセは微笑み、
「手加減はする。殺すのはお前だ」
ムハンマドは宙を睨んだ。少しでもホセが怪しい行動を取ったらホセごと殺害すれば良い。ムハンマドは、
「分かった」
当日の早朝。砂漠の真中で処刑が始まる。周りを兵士達が銃火器を持って取り囲む。その中心には岩が有り、女性達に連れて来られた佐藤がその前に立っている。佐藤は全く抵抗をする素振りを見せなかった。だから手枷も足枷も無い。暴行も受けていないのでかすり傷も無い。佐藤の正面から十メートルほど離れた所で執行人がバズーカ砲をかまえている。これならば一秒もかからずに死ねる。遺体は消し飛ぶが苦痛の暇は無い。
処刑の様子をかまえながら観察しているタリバンの兵士達に混じってホセの仲間達が佐藤を眺めている。佐藤は空をぼんやりと見ている。泣くどころか無表情だ。感情が麻痺しているのか現実を認識出来てないのか悟っているのか分からない。
ホセが出て来た。執行人が砲口を佐藤に向けながらそれを目で追う。ホセは佐藤の目の前で立ち止まると、満面の笑みを浮かべながらやけに明るい声で、
「最後の一言を聴こう」
佐藤はホセの顔を見ながら、日本語でハッキリと、
「女の尊厳を踏みにじるザーメン野郎共は皆、地獄行きだ」
執行人は息を飲んだ。彼は日本語を知っている。ホセは佐藤の腰を両手で掴むと思い切り佐藤を空へ投げた。執行人が驚いている間にホセは振り向いてナイフを投げる。バズーカ砲が撃たれる前に執行人の心臓に突き刺さる。落ちてきた佐藤をホセが受け止める。
ムハンマドが怒鳴って、
「犯罪者共を皆殺しにしろ!」
兵士達がホセの仲間達を攻撃する時には既に仲間達は戦闘を一斉に開始していた。ホセにも銃弾が襲ってくるが、ホセはすぐに佐藤を下ろして小型爆弾を四方八方に投げている。佐藤もホセも当たらない。ホセが、
「伏せろ!」
と、怒鳴ると佐藤は言う通りにした。ホセと仲間達は傷付いたが奇襲のおかげで兵士達の方が死んでいく。双方共に傷付いて戦闘不能になっていく。
南から地響きと共に大地が揺れる。皆、体勢を崩した。動揺している間に、タリバンの兵士達が首を切断されて絶命していく。佐藤が呆気にとられていると、血糊の付いたナタを握っていた徐が現れる。徐は佐藤をもう片方の手で立たせて、
「能力は解除された」
増援部隊が処刑場に駆け込もうとすると、見えない防御壁に衝突。タリバン兵士達が動揺している間にロジャンが手榴弾を投げ、ナニアが散弾銃で発砲していく。タリバン側が捨身で毒ガスを撒くと、貯水槽と共に出現したロサが散水しながら解毒していく。時折、ダンカンの放つ衝撃波で地面が揺れる。
タイに攻撃を仕掛けてきたタリバン兵士達に崔が一度に強い激痛を味わせた。兵士達が怯んでいるのをうかがいながら、タイ軍も民間人も反撃する。敵が武装解除して降参すれば生け捕りにしていく。
タイ国王と王妃は無表情。処刑の様子を人工衛星を介して動画で視聴していたが、ホセが佐藤を投げた瞬間、王妃が、
「アヌラック!」
と、呼んだ。正面で跪いていたアヌラックは立ち上がり、地面を右足で踏んだ。砂漠の山の全員の能力が一斉に解除された。隣で跪いていたプーランも立ち上がる。国王は低い声で、
「我国は列強から最後まで独立を守ってきたのだ」
タリバン兵士達が潜伏していた他の国々も反撃していく。彼等は日本にも潜伏していたが、自衛隊と警察は頑張った。市民達は被害を受けるほどにタリバンに憎悪を向けた。
タリバン側は敗北した。ムハンマドも死亡した。




