同盟を蹴る
六月下旬。当日。砂漠の山の面々は無事に目的地に到着した。徐は疲れて水筒の水を飲んだ。クァンが、
「お疲れ様!」
と、労った。他の砂漠の山の面々は全員、険しい顔をしている。公園の周りを密売組織の構成員達が取り囲んでいる。正面には首領達が無表情で折り畳み椅子に座っている。その周りを幹部達が立って警戒している。
砂漠の山の面々も拳銃やナイフを所持しているが、密売組織の構成員達も様々な銃火器を用意している。佐藤は苛立ったがナニアが小声で、
「落ち着いて」
と、諭した。最初は霧が立ちこめていたが、いつの間にか晴れていった。風も止む。
ホセがにこやかに笑いながら前に出て来て、
「佐藤は俺と話をしよう」
佐藤が額に青筋を立てながら首を傾げる。ダンカンが低い威圧的な声で、
「ナニアとアヌラックも一緒だ」
「ああ。かまわない」
ホセは素直に応じると公園の隅を示してそこに向かう。ナニアはついて行く。アヌラックと佐藤も腑に落ちない様子ながらもついて行く。ロサとクァンは不安そうに見送る。崔は不思議そうな顔をした。
ホセと三人が離れるとダンカンが首領達を睨みながら冷たい声で、
「それで、お前達は何が望みなんだ?」
と、始めた。
遠くからでも怒声が聴こえてくる。首領達と幹部達の怒鳴り声の他にダンカンの威嚇する声。普段のダンカンは冷静だ。部下達を罵ることもないし、暴力も振るわない。怠惰や失敗を嫌うが、休ませる時はしっかり休ませる。佐藤は意外そうに振り向いた。ダンカンは今日もサングラスをかけているが、怒りが滲み出ているのが遠目でも分かる。クァンも徐も首領達を鋭い視線で睨んでいる。ロジャンとプーランも冷たい目で首領達を蔑んでいる。ロサと崔は青白い顔で周りを見渡している。
「君の為に俺は日本から同業者達を撤退させたんだ」
ホセの穏やかな声。佐藤は振り向く。ホセは微笑んでいる。佐藤の左隣でアヌラックが固唾を飲む。アヌラックはバズーカ砲を持っている。肩から腰にかけて手榴弾と弾薬を巻き付けている。しかし顔色が悪い。佐藤は、
「それはどういう意味?」
ホセは苦笑いしながら、
「君への敬意だよ」
佐藤は不思議そうに眉を寄せる。今、拳銃を持っているが銃口を下げている。腰には短刀が二本差している。一方、ホセは丸腰だ。しかし油断ならない。ホセはニッコリ笑い、
「君はアメリカ人に搾取されるより、俺と同盟した方が良い」
佐藤は銃口をホセの頭に向けようとしたがその前にナニアが穏やかな声で、
「佐藤。落ち着いて」
ホセは笑みを浮かべたまま、
「君は原爆を二発も落としたアメリカが本当は憎いんだろう」
佐藤は驚いた顔をした。アヌラックは心配そうな視線を佐藤に送る。ナニアは無表情。ホセは楽しそうに、
「そして君は沖縄の扱いについても、日米同盟についても不満が有る」
「貴方は私と組んでアメリカ合衆国を滅ぼしたいのか?」
佐藤が暗い声で尋ねる。アヌラックが息を飲んだ。ホセは笑みを絶やさない。ナニアは佐藤を盗み見る。佐藤は低い声で、
「感情的にはそうしたいけれど、断る」
ホセの後ろにいた部下達は興味津々で佐藤の様子をうかがっている。佐藤は今すぐにでも銃口を向けそうだ。ホセは明るい声で、
「俺は正直、アメリカを滅ぼしたいとは思っていない。君が望めば協力するけどね」
アヌラックの顔が曇った。ホセの思考がよく分からない。ナニアはホセに笑みを浮かべる。佐藤はホセを睨みながら、
「私と同盟したがる理由は何?」
「俺は君みたいな英雄が大好きなんだ」
ホセが目を輝かせながら答えた。佐藤は嘲りの目で、
「貴方を狡猾な詐欺師かと思っていたけれど、下らない世辞を言うんだな」
ホセは無表情になる。後ろ姿からでも憎悪が滲み出ている。部下達は息を飲んだ。アヌラックの身体も強張る。ナニアは笑顔のまま。佐藤は低い声で、
「敵国や敵対組織を攻撃する為だと正直に言えば私は少し同盟しようかと考えた」
ホセはニヤリと笑みを浮かべたが、眼光が鋭い。佐藤は無表情。ホセは怒気を込めて、
「君みたいな冷たい女は初めてだよ」
「今更何を言出だす?」
佐藤が言い返すとホセは額に青筋を立てる。アヌラックはホセにバズーカ砲を向けようとした。ナニアは微笑みながら、
「アヌラック。大丈夫だよ」
ホセがナニアを睨む。ナニアは笑顔のまま。ホセは怒鳴った、
「さっきから何なんだ、お前は!」
佐藤がホセに銃口を向ける。部下達も銃火器で佐藤を狙う。ナニアは明るい声で、
「皆、武器を下ろして」
佐藤は素直に従った。部下達も渋々それにならった。ナニアは無表情でホセに、
「騙すより本音を理解させる方が難しい」
ホセはナニアを睨みながら右拳を固く握る。佐藤はナニアの前に腕を出して庇おうとする。ホセは溜息を吐き、
「俺が日本から同業者達を撤退させた事実を君はどう受け止めているんだ」
佐藤は首を傾げて、
「分からない」
「バカジャップ!」
部下の一人が怒鳴った。ホセはその部下を睨んだ。部下は俯く。ホセはダンカン達のいる方に指を差した。ナニアは踵を返してそちらに向かう。アヌラックと佐藤は腑に落ちない様子でそれに続く。




