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嵐咲く  作者: 加藤無理
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日本人

 五月上旬。日本の東京都新宿区。小雨が降っている。昨日、茨城県で地震が起きて東京も揺れたが、人的被害は無かった。


 ホセは部下を五人連れて来て新宿区内の大きなクラブを貸し切りにしていた。ホステス達による接客を受けながら様々な酒を飲んでいる。特殊詐欺を繰り返す半グレ達や日本の薬物密売組織の幹部達や日本国内外の女達を攫ったり騙したり脅したりして売春させる女衒達や強盗犯達を沢山呼んでいる。しかし暴対法で弱まっている極道達はいない。


 ここにいる日本の犯罪者達は自ら手を汚す事は少ない。サイトやSNSで人を騙して集めて実行させる。実行犯達が用済みになったら関係を完全に遮断する。警察に捕まっても報復に遭っても全く援助しない。実行犯達が自白しようにも、互いの素性は全く知らない。実行犯を直接集めるのではなくて指示役を間接的に集める。指示役も主犯の素性が分からない。主犯達は普段、日本の外で活動している。警察に万一気付かれても、国の壁が有る。証拠も不十分だ。


 主犯格達は国内外の他の犯罪者達と手を組む事もあるが、離合集散を繰り返す。情報技術の扱いに優れているだけではなく、自然科学や社会科学の知識も有るし、何ヶ国語も喋れる。貧しい家庭で育った者もいるが、裕福な家庭で育った者もいる。


 そんな彼らはホセ達の前で礼儀正しく流暢なスペイン語を話す。ホステス達は彼らに驚嘆し、上品にもてなす。ホセの部下達も楽しそうに話を聴く。犯罪の自慢や羽振りの良さを巧妙に面白く語る。ホステス達やホセの部下達の質問にも淀みなく答えていく。


 室内は総勢五十人ほどだが、空間には余裕が有る。ホセは微笑みながら部屋の隅々まで耳をすましながら周りを見渡し観察する。日本人達はホセ達と比べれば明らかに華奢だったが、それなりに鍛えているのも分かる。


 日本の犯罪者達は時々、極道達を見下す発言を繰り返す。ホセの部下達もホステス達も一瞬、顔を曇らせるが、すぐに笑顔を取り戻す。犯罪者達は更に被害者達や警察や検察や司法を茶化す。


 ホセは日本酒や焼酎を何杯も飲んでいるが酔わない。部下達も自分達の限界に合わせて飲んでいる。ホセは楽しそうに、

「君達、佐藤華江をどう思う?」

 と、突然切り出した。皆、無表情で一斉に黙った。ホセは微笑みを崩さない。部下達はホステス達や日本人達を見渡す。


 日本人達は不快と侮蔑を露わに罵った、

「あのキチガイがこの国にいなくてせいせいしますよ」

「そうか?アレがまだ生きているのが理解出来ない」

「フェミニスト気取りな上に酷いブスだよな」

「気持ち悪い」

 ホステス達は気まずそうに俯いた。彼女達は何も語らない。ホセの部下達は無表情。


 バリン。ホセが酒瓶を右手の握力だけで割った。皆、驚いて振り向く。ホセの足元には瓶の残骸が落ち、残りの酒が床を濡らしている。ホセの右手は意外にも無傷。その手で固く握り拳を作っている。ホセはそれでも微笑んでいる。しかし眼光は冷たい。


 ホステス達は青白い顔をしながらも、誰かが指示を出して何人かを掃除に行かせた。手際良く隣の部屋で手袋をはめて残骸と水たまりを処理しようとする。しかしホセは紳士的に制止して、部下達にやらせた。部下達は素直に従い、器用に片付けていく。


 ホステス達は躊躇いがちに座り直す。日本人達は呆然とホセを見つめている。ホセは腕と脚を組み、日本人達を睨み回す。日本人達は全身の血の気が引き、息を飲む。ホセは怒気を込めた低い声で、

「彼女はこの国の英雄だ」

 部下達が処理を終えるとホセは立ち上がり、

「帰る」

 と、立ち去った。部下達はそれを追う。

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