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嵐咲く  作者: 加藤無理
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挑発

 当日の四月一日。アメリカ合衆国ではまだ三月だ。砂漠の山の事務所で皆は座って待機している。ダンカンが支度を整えると、徐は瞬間移動でダンカンを指定の場所に連れて行った。戦闘に参加しなければ中国側は攻撃を仕掛けない。徐はすぐに戻った。


 徐が席に着いても皆、黙っている。机の上には全員分のノートパソコンが置かれているが、誰も開けて使おうとしない。佐藤はペットボトルの日本茶を飲んでいる。クァンは険しい顔で月餅を食べている。アヌラックは何度か便所と部屋を往復している。他の仲間達はぼんやりと天井や床を眺めている。


 まだ夜明け前だが空は晴れている。風が時折、窓を叩く。砂漠の埃も舞う。


 ゴオオオ。いつの間にか飛行機の音が大きくなっていく。ナニアとプーランが窓に振り向く。窓がガタガタと震える。プーランがパソコンを開けて周りを確認する。


 小型飛行機が事務所から少し離れた砂漠地帯に着陸。十人ほどの男達が武装した状態で降りた。全員、事務所に向かって来る。プーランが画面をながら皆に説明する。クァンは食べるのを止めて事務所の周りを防御壁で囲んだ。残りの職場仲間達は隣の部屋に行って防弾チョッキを付けたりヘルメットを被ったり安全靴を履いたりした。銃を手にして弾を装填する。武装すると一階に降りて配置につく。


 徐は瞬間移動で不審者達の前に来た。周りは街灯で照らされている。クァンの透明な防御壁で皆、動揺している。散弾銃やバズーカ砲や手榴弾で攻撃をしても、全くヒビが入らない。むしろ跳弾して不審者達を襲う。不審者達はそれでも素早く伏せたり物陰に隠れたりして防いでいる。


 弾薬が尽きたのか、硝煙が消えていく。不審者達はそれでも見えない防御壁を力一杯叩いたり蹴ったりする。屈強な男達だが、壁は全く壊れない。徐は安全装置を外した銃口を向けたまま苦笑いする。それに気付いた男達が動きを止める。一人が目配せして他の男達を退かせる。その男は何も持っていない両掌を見せて降参する。徐は銃口を下げると、

「お前達は何者だ」

 壁は毒ガスでない空気だけは通す。先頭にいた男が無表情で両手を上げたまま、

「俺は『白い岸』のホセだ」

 徐は息を飲んだ。確かに麻薬密売組織の一つである白い岸のホセだ。プーランから画像を見せられ簡単な経歴を聴かされている。ロサが何度か血の気の無い顔で説明していた。極めて残忍な組織。後ろにいる男達にも見覚えがある。インターネットで白い岸を報じた動画に何度も映っていた。徐は眉間に皺を寄せて、

「報復にしては少人数だな」

「少しお前達と話がしたかっただけだ」

 ホセが答えた。徐は冷淡な声で、

「俺達は相容れないはずだ」

「こんな見事な防御壁が有るんだ。会話ぐらい良いだろ」

 ホセが微笑む。ホセも後ろの男達も丸腰に近い。ホセ以外は明らかに疲労している。徐は、

「話とは?」

「佐藤華江をここに呼んで来てくれないか?」

 ホセが頼むと徐は不思議そうに眉を寄せる。ホセが、

「十分ぐらいで良いんだ」

 徐は瞬間移動した。プーランと一緒にいるナニアの正面に立ち、ホセについて話した。プーランとナニアは顔を見合わせる。ナニアは、

「私と佐藤を連れて行って」

 徐は言う通りにした。


 ホセが腕を下ろして待っていると、徐・ナニア・佐藤が現れた。ホセの後ろにいる部下達は息を飲んだ。ナニアと徐は銃口を下ろしているが、佐藤は出現した直後からかまえている。ナニアは落ち着いた声で、

「佐藤。大丈夫だから下ろして」

 佐藤は命令に従った。


 部下達は拍子抜けをした。佐藤の容姿は非常に凡庸だ。能力を使用したとはいえ、二人の黒人を殺害し、中国を攻撃した人物には見えない。何人かは腑に落ちずに首を傾げる。佐藤は恐怖と憎悪の混じった顔でホセとその部下達を見渡している。些細な刺激でまた銃口を向けそうだ。傍らの徐の方が威厳が有る。無表情で微動だにしない。


 ホセは無表情で佐藤を見つめている。まだ単なる臆病者なのかどうかは分からない。佐藤は自分達の顔よりも手足を観察している。ホセは微笑みながら穏やかな声で、

「君は自分が今まで何をしてきたが分かっているのか?」

 佐藤の彷徨っていた視線がホセの顔に向く。ホセは笑みを浮かべたままだ。佐藤は日本語訛りで淡々と、

「非道な自覚は有るけれど、全く後悔はしていない」

 部下達は訝る。先程の佐藤と少し様子が違う。落ち着いている。ホセは明るい声で、

「君は俺達が憎いか?」

「心の底から軽蔑している」

 佐藤がホセを見返しながら無表情で答えた。部下達は額に青筋を立てて身構える。ホセはニヤリと笑いながら、

「この壁が無くても同じ事を言えるか?」

「壁が消えた瞬間、脳天をぶち抜いてみろよ、ゴミ共」

 佐藤が高い声で挑発した。部下の一人が目を見開いて佐藤を思い切り蹴る。足が透明な壁にゴオンと当たる。佐藤は眉をひそめて、

「私は死ぬなら即死が良い」

「ふざけているのか!お前は?」

 他の部下が怒鳴った。佐藤は薄ら笑いを浮かべながら、

「貴方達は拷問をするのもされるのも平気なようだけど、私は違う」

「バカにするなよ、イエローキャブ!」

 部下の一人が怒鳴った。佐藤は無表情で中指を立てた。部下達が全員、体当たりをしようとした。しかし、ホセが制止した。部下達は不思議そうな顔をしたが、ホセに従った。


 今まで気配を消していたナニアが高笑いした、

「アハハハハ!」

 皆、振り向く。ナニアは満面の笑みでホセを見つめている。ホセが険しい顔で、

「何がおかしい?」

「私が心を読めるのを知っているでしょう」

 ナニアが楽しそうに答える。ホセは顔を曇らせたまま踵を返す。部下達は驚いたが、立ち去っていくホセについて行った。皆、小型飛行機に戻っていく。


 飛行機は何も攻撃を仕掛けることもなく、飛び去った。

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