挑戦状
三月上旬。砂漠の山の事務所に宇文秋から電子メールで挑戦状が届いた。
プーランは職場仲間達を全員集めると、内容を淡々と読み上げた。プーランは立っているが、他は座って傾聴する。
四月一日の日の出と共にサハラ砂漠でダンカンと宇文が決闘する。開始場所はアルジェリア南部にある岩場。付近にはオアシスも町村も農場も無い。宇文が勝てば佐藤を含む砂漠の山の従業員達は中国政府に忠誠を誓い、死ぬまで働く。ダンカンが勝てば中国政府はアメリカとの貿易や条約に対して譲歩する。二人の決闘に従業員達を含む第三者が一人でも妨害すれば、中国政府がアメリカ合衆国に核弾道ミサイルを五発撃つ。逆に中国政府が妨害したらアメリカ合衆国も核弾道ミサイルを中国に使用してもかまわない。この決闘をダンカンが拒んだり遅れたりした場合、中国人民解放軍が全力で台湾に攻め込む。
この文章は米国大統領にも送っている。世界に公開するのも秘匿するのも大統領の選択に任せている。無論、戦場になるアルジェリア政府にもサハラ砂漠を接する他国政府にも伝えている。中国政府が十分に根回ししたのでどの国も既に受け入れている。
読み終えたプーランは疲労で顔色が悪い。力無く座る。部下達も全員、顔面蒼白だ。ダンカンだけは無表情。サングラスで目元が隠れているが全く動揺していないのが皆にも分かる。全員、黙っているので窓を叩く風がよく響く。
ドン。我に返ったクァンが、握り拳で机を叩いた。皆、息を飲んだ。クァンは天井を仰ぎ歯軋りをしながら目が見開いている。アヌラックは文字通りに頭を抱える。徐は腕を組んで宙を睨む。
ロサは右手で口を塞ぐ。ナニアはプーランを見つめる。プーランは俯いている。ナニアの心を読む能力でプーランがこの挑戦状が冗談ではないと裏を取っているのが分かる。ロジャンは不安そうな顔でダンカンを見やる。ダンカンは無表情で頬杖をついている。
「お前がこの原因を作ったんだぞ!」
崔が佐藤を指差しながら怒鳴った。佐藤は一瞬、驚いたが、冷たい目で崔を睨み返す。崔は嘲りのこもった高い声で、
「中国人を一万人も殺したお前が戦え」
「そんな事をしたらアメリカ合衆国にミサイルが飛ぶ」
ナニアが冷静に反対した。崔は苦い顔をして俯いた。ダンカンが穏やかな声で、
「俺が勝てば良いんだ」
この挑戦状はフランス政府にもマリーにも届いた。フランスが人工衛星でこの決闘を見届けて勝敗を確認する事になった。マリーにも観てもらう。それを聴いたマリーは顔を曇らせたが、承知した。
中国は去年の台風で完全には復興を終えていないが、準備を進めている。政府や軍だけではなく地方政府や民間人は嫌がるどころかこの決闘を支持している。中国人の佐藤に対する憎悪は非常に強い。しかし、安易に殺害するよりも思想教育を徹底させて奉仕させた方が償いにもなるし復讐にもなる。
アメリカ合衆国大統領は世界各国の政府には伝えたが、国内外の民衆には秘匿した。




