ホセ
二月上旬。メキシコにあるとある町で複数の巨大麻薬密売組織の首領達と幹部達が百人ほど集まっていた。
皆、砂漠の山について話し合っている。社長のダンカンはロシアの弾道ミサイルを二度も弾いた。同時に部下達はアメリカ合衆国中の薬物常用者達を回復させた。三百万人から一千万人もの人々を僅か数時間で変えたのだ。
砂漠の山の面々は最早、存在自体が神への冒涜であった。麻薬密売組織の構成員達は非常に残忍である上に、あらゆる犯罪を起こしている。そんな彼らは逆説的に信仰心が篤い。熱心なキリスト教徒が多い。
また、砂漠の山は麻薬をはじめとする危険薬物の存在を徹底的に否定している。特に先日に行われた作戦は全世界の麻薬密売組織に対する宣戦布告である。解毒された薬物常用者達の大半は薬物から離れて行った。
けれども砂漠の山を壊滅しようにも、ダンカンには無尽蔵の力が有る。従業員達も理不尽な能力が有る。また、上場が反対されていても世界中に人脈が有る。マリーを信頼するフランスとは距離を取っているが、世界各国の諜報機関や多国籍企業や慈善団体から仕事の依頼と情報が集まり、莫大な報酬を得ている。
一方、佐藤による攻撃で中国は佐藤だけではなく砂漠の山をも憎んでいる。イランも北朝鮮も警戒している。イランは佐藤の言動に不快を示しているが、日本との国交は維持しており、石油も輸出している。
日本政府と日本社会は砂漠の山を複雑な思いで観察している。日本での佐藤の評価は低いが、砂漠の山は佐藤を絶妙に制御している。そこは評価されている。
麻薬密売組織の面々は情報共有した。皆、嫌悪感で表情が険しい。眼光は空気を斬れるほど鋭い。声には怒気が込められている。握り拳は硬い。時折、机を殴る者が何人もいる。首領達は疲労と呆れで何度も溜息を吐く。
唯一、一人だけが楽しそうに微笑んでいる。異様な気配に皆、振り返る。首領の一人がギロリとその男を睨み、低い声で、
「ホセ、何が面白いんだ」
議論の始めからホセはその首領の後ろに立っていた。ホセは微笑んだまま、明るい声で、
「これは絶好の機会だよ、父さん」
皆、不思議そうな顔をする。父親は目で話を促す。ホセは皆を見渡しながら、
「客を無闇に廃人にしたり殺したりしたら薬が売れなくなる。離れた客をまた誘惑して売れば良い」
首領達は困った顔をした。幹部達も苦い顔をする。父親は、
「お前には具体的な作戦が有るのか?」
ホセは両手を腰に置いて、
「佐藤を誘惑するのはどうだろう」
父親の隣に座っていた首領が、
「底知れないダンカンと心の読めるナニアが厄介だ」
ホセはフフ、と笑い、
「大丈夫だ。俺に任せて欲しい」
父親は皆を見渡す。皆、不安そうな顔をしているが誰も文句を言わない。
会議は終了した。
ホセは組織の首領の息子であるだけではなく、体格に恵まれているせいか非常に戦闘力が有る。それだけではなく狡猾で頭が冴えており、合法でも非合法でも莫大なカネを稼ぐ。父親への忠誠心は篤く、裏切者を誰よりも見つけては人前で平然と殺す。その容赦無い言動は部下達に畏怖の念を抱かせる。普段は微笑んでいる。突然、敵に斬られても撃たれても反射的に反撃する。痛覚が鈍っているのか血を流していても笑みを絶やさない。




