佐藤華江
主人公の登場
四月の日本。東京都練馬区。この日は雨が降っていた。夕方近くに佐藤華江は透明なビニール傘を差しながら歩いていた。買物帰りでもう片方の手には荷物が有る。道路は舗装されているが泥臭い匂いがする。佐藤の容姿は三十歳の平凡な女だ。
黒人男性二人が向こうから歩いてくる。ぶつからないように佐藤は道の端に寄って立ち止まった。擦れ違いざまに二人は、
「納豆臭い」
「イエローキャブ」
と、佐藤を罵った。佐藤は黙ったまま動かない。二人が五歩ほど離れると佐藤は荷物と傘を静かに下ろす。上着の下に隠していた二本の包丁を抜き出し、二人に早足で近寄る。
気配に気付いた一人が振り向く。佐藤は両腕を交差しながら飛び上がり、腕を思い切り広げながらその男の首を斬った。鮮血が飛び散る。佐藤は返り血を浴びながら二歩ほど後退り、踵を返し、もう一人を襲う。男は驚きながらも佐藤を蹴飛ばす。足が当たる前に佐藤は避けて左手の包丁で太腿の内側を斬り、右手の包丁で脇腹を刺す。それを捻って後退りながら引き抜く。また鮮血。
「何か言ったか?ニガー共」
捨て台詞を吐くと佐藤は包丁を振って血を落とし、腰に仕舞う。ツカツカと傘と荷物の所に戻る。それらを拾うと平然と帰っていく。
少し離れた所で台湾人の蔡が青白い顔で一部始終を見ていた。他に通行人も自転車乗りもいない。蔡に気付かなかった佐藤がそのまま姿を消すと、蔡は身体を震わせながら倒れている黒人二人に恐る恐る近付いた。大量の血が飛び散っているが、雨で薄れている。脈や息を調べなくても一目で既に二人が絶命しているのが分かる。
蔡は肩で息をしながらスマホを取り出すと、親友にこの事件を報せた。その後、警察に通報した。
スマホを仕舞ったものの、蔡が呆然と立ち尽くしていると、パトカーが来た。警察官二人は倒れている黒人二人を見るや否や、目と口を大きく開けた。
蔡は事情聴取の為に警察署に連行された。警察の増援が来て、あっと言う間に事故現場は立ち入り禁止になった。刑事も鑑識も二人の遺体に手を合わせる。




