ダボス会議
一月中旬。スイスのダボス。そこでは毎年、世界的な問題について様々な研究者達や政治家達や経営者達や活動家達が集まって侃侃諤諤とした議論を展開する。経済問題の他に環境問題や安全保障や科学技術が話題だ。
影の支配者達が人類を搾取する為に悪魔の話し合いをする。世界的にそう考える者も少なくないが、実際は利害調整や情報共有の意味合いが強い。
砂漠の山の面々も参加して傍聴するが、直接的に発言をするわけではない。スイスに集まる者達の中に犯罪者やテロリスト達が紛れていないか確かめて、事件や事故を未然に防ぐのだ。
社長のダンカンはこの機会に会社をどこかの証券取引所に上場したがっている。会社の創立以来から毎年、参加しているが、悉く反対されている。貸借対照表も損益計算書も有価証券報告書も問題無いし、機密情報は守っているし、粉飾決算もしていない。従業員達にはしっかりと報酬を分配しているし、士気も高い。それでも金融家達は砂漠の山の活動を警戒している。砂漠の山が無責任な投資家に買収されたり、逆に他社を抑圧したりしない保証は無い。
ダンカンは緊張している上に機嫌が悪いが温和な態度を守っている。心を読めるナニアはダンカンを気遣いながらも職場仲間達に指示を出している。プーランも主催者が仕掛けた盗聴器の音声や監視カメラの画像や参加者の資料を分析しながら指示を出す。
プーランとナニアが怪しいと判断した不審者に崔が催眠をかけて撹乱させる。痛覚を刺激して激痛を加えたり、逆に五感を遮断したりする。対象者が暴れないように工夫する。
ロサとロジャンは化学兵器を使用したテロ対策の為に水や解毒剤を用意して待機している。
クァンは爆破テロや銃撃戦を想定して待機している。何時でも何処でも防御壁が出来るように指示や進捗状況を聴く為にヘッドホンを付けながらパソコン画面に張り付いている。
徐は瞬間移動をしながら会場や周囲を点検している。外は雪が降っていて寒い。イヤホンで主催者達や職場仲間達の声を聴きながら連絡を取る。
佐藤とアヌラックは会議を傍聴するだけで、特別に何もしていない。むしろアヌラックは佐藤の能力を封印している。佐藤は仲間外れにされた気がして最初嫌がったが、ダンカンをはじめとする職場仲間全員に説得された。時々、議論に追いつけない佐藤にアヌラックは解説する。佐藤はタブレット端末で記録していく。佐藤が想像以上に真面目に傾聴しているのでアヌラックは安堵している。
事件も事故もなく会議は順調に進んでいく。今回、砂漠の山の面々の中で最も活躍しているのは崔だ。崔は不審者達を催眠にかけてテロを未然に防いだだけではなく、計画を自白させていった。催眠で仲間や首謀者に進捗状況を教える場面を作り出して喋らせたのだ。
スイス政府も主催者達もダンカンも崔を誉めた。
会議が終わる。参加者達は周りを警戒しながら帰る準備を始める。議論で親しくなった者同士が握手する場面も多々有る。アヌラックは安堵の溜息を吐いた。佐藤はタブレット端末を鞄に仕舞う。
「貴方が佐藤華江ですか?」
後ろから声をかけられて、佐藤は驚いて振り向く。アヌラックも振り返る。黒人女性とアジア系男性が立っている。黒人女性は微笑みながら、
「私はフランスから来たマリーです」
アジア系男性は無表情で、
「俺は中国から来た宇文秋」
と、自己紹介した。アヌラックは息を飲んだ。マリーは有名人だし、宇文についてはプーランから説明を受けている。呆然とする佐藤にアヌラックは簡単に二人を説明した。マリーも宇文も能力者で国の英雄。佐藤はハッキリと、
「お会い出来て光栄です」
と、挨拶した。マリーは手を差し出す。佐藤はゆっくりと手を出す。二人は握手する。宇文は無表情でそれを眺めている。マリーは、
「噂よりも真面目ですね」
「恐縮です」
二人は手を離す。マリーはアヌラックにも握手した。宇文は両手を腰に置きながら、
「先程、君達の社長に会ってきた」
マリーとアヌラックが手を離すと宇文は低い声で、
「彼は底の知れない人物だな」
と、言い残すと踵を返して立ち去った。マリーは不思議そうにそれを目で追うと、佐藤とアヌラックに笑顔で手を振って別れた。




