ロジャンの夫
年末年始は皆、母国や実家に帰省した。砂漠の山の面々はほぼ全員、結婚している。子宝に恵まれている者もいる。しかし佐藤だけは独身で子どももいない。更に黒人を二人殺害した事件で逮捕された時には両親から絶縁されている。会社のビルにある部屋を与えられていたので佐藤はそこでひっそりと過ごそうと考えた。
しかしロジャンが一緒に帰省しようと誘った。ロジャンはトルコで生まれ育ったが、二十年ほど前から両親と夫と娘と共に日本の埼玉県に移住して暮らしている。佐藤は文化の違いや家族の団欒の破壊を恐れて断ろうとしたが、ロジャンは強く誘う、
「気にしないで。家族には職場仲間としか説明しない。家族は全員、客人を歓迎する」
佐藤はロジャンと一緒に日本に戻ることになった。
それを聴いたダンカンとプーランは喜んだ。近くにいた徐は面白そうに、
「年明けには俺の実家に来てみないか?」
ロジャンと佐藤が訝ると、徐が提案した。瞬間移動で実家に佐藤を連れて来て、休み明けには一緒に瞬間移動で会社に戻る。佐藤は断ろうとしたが、徐は、
「皆、君に興味が有るんだ」
佐藤は徐の提案を受け入れた。そのやり取りを聴いていた崔は不思議そうに眉を寄せる。
クリスマスに佐藤はロジャンと共に日本に帰国した。二人は空港を出ると荷物を持ちながら電車を乗り継いで埼玉県に行った。ロジャンの言う通り、家族は笑顔で迎えた。両親は英語も日本語も喋れなかったが、娘は日本語、夫は英語が話せた。他にも近所に住んでいるクルド人も集まっている。皆、軽い自己紹介をした。佐藤は屋根裏部屋に寝泊まりすることになった。
家族は佐藤にクルドの料理を食べさせた。佐藤の想像以上に美味い。誉めながら食べる佐藤に両親も娘も素直に喜んだ。ロジャンと夫はその様を観察している。
全員が身体を洗い、両親と娘が挨拶して部屋で寝始める。ロジャンと夫と佐藤の三人になる。夫が気まずそうに、
「実は君が黒人男性を二人も殺害した事件を知っている」
佐藤は驚きながら、
「何故、私を受け入れたのですか?」
夫はロジャンを見やり、
「妻の職場仲間だと聴いて君を確かめたくなったんだよ」
佐藤は宙を睨んだ。夫はやけに落ち着いた声で、
「君は人種差別主義者なのか?俺達クルド人をどう思っているんだ?」
ロジャンは顔を曇らせて夫に振り向く。佐藤は宙を睨みながら、
「私は人種差別主義者だけれど、クルド女性には敬意を払っているつもりです」
ロジャンと夫は腑に落ちない様子で眉間に皺を寄せた。佐藤は夫の目を見ながら低い声で、
「クルド女性は民族と女の尊厳の為に命がけで戦った歴史が有ります」
夫は生唾を飲み込んだ。ロジャンの目が大きくなった。佐藤はコップの中を飲む。夫は、
「日本にいる俺達を排除する気は無いのか?」
佐藤は飲み干してコップをゆっくりと置くと、
「日本人の尊厳や財産や文化や歴史に傷を付けなければ排除する理由は有りません」
夫は大きく長い溜息を吐いた。ロジャンを見やる。ロジャンは微笑む。夫は手を差し出す。佐藤は暫く黙ってそれを眺める。夫の手には何箇所か傷跡が有る。過酷な建築業で働いているからだ。夫は動かない。佐藤は躊躇いがちに手を握り、握手した。
佐藤はロジャンとその家族と一緒に和気藹々と年末を過ごした。




