クァンとロジャン
十一月の中旬。曇天。ヴェトナムの東側に広がる海洋で十隻の艦隊が円陣を組んだ状態で停まっている。海底近くには潜水艦が三隻潜っている。空には十機のヘリコプターが艦隊の周りを飛んでいる。ヴェトナム軍による変わった任務だ。
艦隊の旗艦にはグェン・クァンとロジャンが舳先付近でタブレット端末を操作しながら大海原を眺めている。ヴェトナム人であるクァンはクルド人であるロジャンに軍からの指揮を通訳している。二人は英語で会話をしている。
ズォン。海の奥から低い轟音が響く。ロジャンとクァンはじっと海を睨む。碧色の海面の色が複雑に変わっていく。波が不自然に動く。船が上下左右に揺れる。二人は転ばないように踏ん張った。
ゴオオオオ。艦隊が囲む海域の中心が盛り上がってくる。それが甲板よりも高くなる。そこから艦隊に向かって人間の握り拳大の塊が沢山転がってくる。数多の塊は軍艦に積まれているコンテナの中に飲み込まれていく。コンテナは家ほどの大きさだが一隻に百個も有る。どれも空だが、一時間もせずに全てが満杯になった。
作戦は終了した。海は元通りになった。軍人達はコンテナに集まった塊を調べていく。マイクロプラスチックが凝縮された物体、ダイヤモンド、リンやカリウムの結晶、重油の塊。 どのコンテナにも一種類ずつまとまって入っている。塊の一つ一つも純度が高い。作戦は大成功である。軍人達は拍手し、クァンもロジャンも喜んだ。
能力を使った海洋浄化作戦である。マイクロプラスチックは燃料になり、重油の塊も製造業が再利用し、リンやカリウムは農業に使われる化学肥料になる。ダイヤモンドは海中に大量に溶け込んだ二酸化炭素から炭素を取り出して生成されたものである。
海から物質を抽出して塊にさせたのはロジャン、その大量の塊をコンテナに誘導したのはクァン。クァンは透明な防御壁を様々な形に作り出せる。艦隊が囲んでいた海域の中心に向かって海底から海面に向かって網を創り出しては狭めていき、更に塊の種類ごとにトンネルを作って塊を誘導させる。二人共、緻密な作業であったが、人工知能や軍事技術を借りていた。
ダイヤモンドの一部は世界の富裕層に売ってその資金源をクルド人の同胞に寄付する。他はヴェトナム政府が少しずつ民間に分配していく。砂漠の山に所属するクァンとロジャンには相応の報酬が支払われる。
二人は世界各地を転々としている。海洋浄化だけではなく湖沼や河川も浄化する。時には紛争地帯や戦場にも赴くが、クァンの防御壁はミサイルや砲弾が直撃しても全く傷が付かない。散弾銃も効かない。クァンは兵役経験が有るし、ロジャンも銃を扱える。二人共、自分の身は自分で守れる。
無事に寄港して夜、二人は別々の部屋で休んでいると会社仲間のアヌラックから連絡が有った。
二人が仕事をしている間に、北朝鮮から弾道ミサイルが日本に向かって発射された。着弾する前に台風が突然、関東を中心に発生した。ミサイルはその台風に飲み込まれて軌道が狂い、急旋回して黄海に向かって飛んでいき、そこで着弾した。
世界各国の諜報機関はその事に気付いているが、公には何処も報じていない。ほとんどの民間人は知らない。特にその台風が佐藤華江という日本人が創り出してミサイルを動かした話を全く知らない国もある。
それは気味の悪い冗談ではある。しかしアヌラックは無闇にふざける人物ではない。クァンもロジャンも半信半疑だが、一蹴しなかった。二人はナニアから先月に中国を襲った沢山の台風の話も聴いている。クァンは寒気を覚えたが、ロジャンは現実感が湧かなかった。
クァンは男性、ロジャンは女性。ちなみに、佐藤・プーラン・ナニアは女性、徐・ダンカン・アヌラックは男性。




