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移りゆくもの。〜須藤雄也〜

おれは今、和希と共に学校へと向かっている。

“相変わらず”の早起き具合を見せられたが、これが三日坊主にならなきゃいいなと思っている。

が、正直その反面、三日坊主であってくれと思う自分もいる。


学校に着くと、おれはまた部活だと言い残して和希から逃げるようにグラウンドへと駆け抜けた。

走りながら目線だけを動かして和希の動向を確認する。

和希は何やら立ち止まったかと思うと、徐ろにその体勢を屈めていく。


「いや何してんだよあいつー……!」


横目に確認しているだけだから、何をしているかわからない。どうしよう、あまり気取られたくはないんけど……

そんな事を考える間に、おれは“部室”である古びた倉庫までたどりついていた。


ここ最近の和希はどこか様子がおかしい。

まさか今もおれの事怪しんでたり……?

……うーん、和希には適当に言い訳でも考えておくか。

倉庫の扉を開けて中に入り、内側から倉庫の扉を閉める。閉めきる前に和希に目線を向けると、校舎へと向かっていくのが見えた。どうやら杞憂に終わったらしい。


「はぁ、ヒヤヒヤするよなー。」


思わずボヤいてしまった。


「ふんっ、そんな心配ならあたしなんかとダベってないで一緒にいてあげればいいじゃない。」


呆れたように答える、誰もが惹かれるであろう美少女の姿。

そう、おれは毎朝こうしてこの美少女と密会しているのだ!


「いやまぁ、そうしたいのはそうしたいんだけどよー、やっぱ仲間とは色々話せることあるよなって思うじゃん?」


「いや仲間ってあんたねぇ……まさかとは思うけど、あたしに“魅了”されちゃった?」


直視できないその美少女が、真剣な声色で聞いてくる。


「“魅了”はされてない、と思う。ただ正直おれも、お前のことは直視できない。」


「あららぁ?やっぱりあたしって一目で男を仕留めちゃうくらい魅力的なのかしら♡」


さっきとは打って変わって、おチャラけた様子で言ってくる。


「お前な〜……」


「冗談よ。あんたあたしを頼るのもいいんだけどさ、和希には話してもいいんじゃないの?何でそうしないのよ」


「いや、和希には、絶対ダメだ。少なくともおれたちから話すのは、やめておきたい。」


「…ふーん。ま、あんたがそんだけ言うなら何か理由があるんでしょうね。同性愛者君っ」


真剣な声色から、相手を弄ぶような声色に変わる。


「な!違ぇよ!おれは結果に納得いってねーだけだっつーのー!ていうか、お前だって和希のこと……」


「だぁぁぁぁぁあああ!」


言いかけて、美少女が叫ぶ。声色から、きっと頬を赤らめている……というか足先まで真っ赤になってる気がする。


「やっぱりなーそうだと思ったんだよなー」


「っるさい!あんたには関係ないじゃない!」


「はぁぁあ?おれが関係なくて誰が関係あるんだよー!ていうか、なんで和希を“魅了しないで”他の男にちょっかいかけてんだよー?」


「……あんたには、関係ない。」


「……ビッチじゃn」


言い終わる前に、罵声と共に飛んでくる野球ボール、三角コーン、高飛び棒etc……あちゃー。逆鱗に触れてしまったかー。


「わ、わわ、悪かったって!な!」


急いで謝る。はぁ、女ってのは怒るとおっかないよなー。

ま、こいつはその女の中でも唯一、おれが気楽に話せる奴の1人なんだけどな。


「ったく。あんた人をおちょくんのもいい加減にしなさいよね。嫌われるわよ?」


「いやいやいやいやいやいや!お前が言うなよー!!!」


「あ、あたしはいいのよ、可愛いし、レディだもの。あんたみたいな中途半端な男とは違うのよっ」


ふんっ。と鼻を鳴らしながら、その美少女は腕を組んで、まるで女王かのように振舞っている。


「中途半端な男ねぇ。そういうお前はー、“次は”誰と結婚するのかなー??」


やられたらやり返す。やられっぱなしは男の恥だ!


「……そうね。別に。もうしなくていいわよ。みんなが納得する形になるのなら、それで……。」


軽く弄ったつもりだったが、予想以上のダメージを与えてしまったみたいだ。


「じゃぁ、もう交際はしないってか?」


「さぁ?そのうち気が変わるかもね。」


美少女が、深く息を吐く。


「でもその時はその時よ。今はただ、あんたが出した選択を信じるわ。認めたくないけど、あんた一1番和希と近しい存在なのよ。あんたの事が信じられなくなったら、あたしはあたしのやり方で生きていくけどね。」


「でももし、あんたのその選択が、最後まで正しいと思える、或いはあたしの選択が間違っていたと思えるのなら、あたしに未練はない。」


意を決したかのように、美少女は淡々と語る。


「あたしは清水美紀として、この生涯を終える。」


美少女、清水は言い切った。

生涯を終えるまで、その身を他人にに捧げると、誓ったんだ。

一途の一言では尽きないその想いを、安易に踏みにじってはいけない。

おれは真剣に、その想いを受け止めた。


それから程なくして校舎に戻ると、昇降口辺りで何やら騒ぎの様子。

少し覗いてみると、学年主任と伊藤が揉めているのが視認できた。


「はぁーあ、まーた伊藤だよ。懲りないねぇ。」


「……そうね。」


隣を見ると、少し機嫌の悪そうな美少女の横顔。横顔も可愛いなぁ。

でもまぁ、触らぬ神に祟りなしって言うしなー。

おれは伊藤も美少女もまるで興味ないですよといった具合に、軽い足取りで教室へと向かった。

扉を開けると、すぐに和希と目が合う。

うーん。開けてすぐ目が合うってのはちょっときな臭い。おれのことは気にしないでほしいんだが……まぁ、この際仕方がないと受け入れるしかないかー、軽く手をあげて挨拶を交わして席に着く。


さて、“おれが中学に上がってから”一ヶ月が過ぎようとしている。

そして、この一ヶ月でもわかる、この世界の変わりよう……

先程まで密会していた美少女の存在もそうだが、おれは一つの仮説を立てた。というかほぼ確信している。


この世界には、所謂『特殊能力』を持った人間がいる。それも複数人、いや、或いは複数の能力を持った人間か。先程の美少女もそうだ。

あの美少女から詳しく聞き出すことは出来なかったが、彼女曰く、『他人を簡単に魅了する事ができちゃう』らしい。そんな便利なもんじゃないわよ、とも付け加えていたが、まぁ本人はそれなりに有効活用しているように見える。多分。そして……


内心ドキドキしている自分がいる。


やっぱりおれも好きになっちゃったのかなー。“清水”のこと。

どうにも、自分の気持ちを抑えきれない時もあってつい……いやいや、今はそんなこと関係ないってー!

こうなることを見越したのか、あの美少女は


「あたしの事に関心を持つのはやめなさい。

あたしの名前を忘れるくらい、この女はただの道具だって思えるように努力なさい。」


と、おれからすると無理難題を押し付けてきた。

その命令口調もたまんねぇー!じゃなかった!

てな訳で、おれはあいつの事を常に『美少女』として認識することにした。

あの女は清水じゃなくて、その辺に転がっていたただの美少女なのだっ。異論は認めないっ。

そして、生徒たちの話題に上がらなくなった例の“髪の毛事件。”

誰も何も分からないのに、大量の髪の毛が落ちているなんて、現実的には考えられない。

であれば可能性は……


という事で、美少女に調査を依頼した。美少女なら、人を魅了し、情報を聞き出すことが出来るかもしれないと踏んだからだ。

しかし、状況はあまり芳しくない。

能力者は疎か、髪の毛事件の事もそれらしい情報は何一つとして掴めていない。

美少女曰く「そんな便利なものじゃないって言ったでしょ!」の一点張り。

ただ、あの美少女はツン全開に見えておれにはとても協力的だ。

“同じ境遇”の人間として一緒に語り合えるだけでも、おれの心の支えになる。

と、ここまでが経緯になる。現状わかるのはこんなもんだろう。

問題は色々と山積みになったままだが、一つ一つ紐解いて行くことにするかー。

気を楽に、できるだけリラックスして、おれは学校生活へと勤しんだ。


放課後、また和希と共に下校する。

和希は、相も変わらず何か考え事に耽っている様子。お、早め早めの厨二病か〜?

しばし無言で歩き続きた後、不意に和希が話し始める。


「今日の伊藤の件、相当凄かったらしいな。」


「あぁ、伊藤ね。あいつヤンキーだもんな〜。」


「あの後どうなったんだろうな?」


「そうだな……伊藤……」


言いかけて一瞬、頭が真っ白になり、心臓が締め付けられるような感覚。


「和希!!!!!!」


叫んだ。しかしその声は当の本人には届かない。

和希は今、多くの車が行き交うこの交差点に、何も迷うことなどないような、まるで当たり前かのように、歩みを進めた。


これは……死ぬって……!!!


咄嗟に腕を掴み引っ張る。突然の出来事に唖然としながらも、状況を理解する和希。

和希……お前、本当にどうしちまったんだよー。

思わず涙が、溢れそうになった。


それからは、お互い交わす言葉もなくそれぞれの家路へと着いた。

おれは家に着くなり、制服を脱ぎ捨てて、そのまま風呂にも入らず、何もしないまま自室のベッドへと倒れ込んだ。

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