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この一難は高く聳える。

俺は今、雄也と共に学校へ向かう通学路を辿っている。


「それでよー!中原ちゃんはやっぱりおれたちと同じタイムリープ者だと思うんだよなー!」


そしてこれは、俺が宮澤と話し合いたいが為に雄也を中原へと押し付けたお仕置だろう。

雄也は中原をタイムリープ者だと勘ぐってしまっているが、残念ながらそれはない。


「ああ〜。」


「和希は違うって言ってたけど、やっぱりおかしいと思ってたんだよなー。タイムリープ者じゃない奴がおれたちの和に入れるわけないもんなー!」


「ああ〜。」


とりあえず雄也にはある程度話を合わせつつ、中原には正直に謝罪して何とか話を合わせてもらうか……。

どっちが大人なんだか……。


「和希から見てどう思うよ?馬鹿なおれにこんな事任せるってことはそれなりに警戒されてるって事だろー?」


「ああ〜。」


今はとにかく宮澤をどうにかしておきたい。

とにかく時間を稼ぎながら、雄也には宮澤の事を悟られないように行動しなくてはな。


「……和希ー?大丈夫かー?」


「ああ〜。」


ただ、幸いな事にその宮澤が俺に協力的な事もあって、今は時間稼ぎに集中出来る。

ならその与えてくれたチャンスに甘えてしっかりと稼げる分は稼いでおきたい。


ガシッ!


不意に肩を掴まれて驚く。

振り向けば雄也が真剣な目でこちらを見ている。


「おい、和希ー!?大丈夫かー!?」


「あ、あぁ。」


雄也の反応を見るに、またやってしまっていたようだ。

俺の能力自体は便利なものだが、このデメリットに関してはどうにかしたいものだな。


「ああー!ああー!ってさー!さっきから何だよその反応はよー!」


さっきから、という事は無意識にも返事はしていたようだ。

それが返って雄也の心を逆撫でしてしまっていた。


「悪い雄也。ちょっと考え事しててな。」


「ったくもーよー!和希が言い出したから協力してやってるってのによー!」


「それは……すまん。」


そんなこんなで、改めて雄也の報告を聞きながら学校へ行った。



さて、ここ最近クラスの生徒から注目を浴びる事が多い俺だが、今日も今日とてその視線は俺たちに向けられている。

倉持は来ていないようだった。


俺がクラスメイトの様子を見れば、クラスメイトもまた俺たちの様子を窺っているようだ。


この空気感の中、学校生活を送るのは気が重いな。



あれから午前中の授業を受けて、俺たちは給食を食べ終えた。


朝から何事もなく過ごしてきたが、何かあるとすれば生徒たちが自由になるこの昼休みの時間だろう。

この自由時間は俺もまた例外ではないため、まずは中原の元へ弁明に向かうとしようか。


「ちょいちょ〜い。杉山〜。」


教室を出ようとしたその矢先、三上に呼び止められる。


「どうした?」


振り向くと、三上が俺の腕に絡みついてきてそのまま昇降口の方へと引っ張っていく。


「んねぇ、一緒に外行こーよ!」


正直こいつにはまた何度も絡まれる事は予想していたが、こうもどストレートに“アピール”されるとちょっと鬱陶しいな。

まぁ、好かれることに嫌な気持ちはないんだけれども。


「悪いな三上、俺もちょっと用事があっ……」


「ええ〜いいじゃ〜ん早く行こうよ〜」


なんだこの異常なまでのダル絡みは?


三上に対して不信感を募らせていると、中原が俺たちの脇を通り抜ける。


「あ、中原!ちょっと!」


俺が呼び止めると、ムスッとした顔を見せながら俺の方をチラッと見た。

あれ、なんかめっちゃ怒ってない?


「……何かな?」


顔色一つ変えず返事を寄越した。

今のこの状況も含めて色々と弁明したいものだが、三上のしつこさを考えると安易な発言は出来ない。


「ああと、いや、その……なんだっけな。」


上手いこと言い訳が出来ず言葉を詰まらせてしまう。

そんな俺の様子を、中原は真っ直ぐと見据えてくる。


しかし。


「んねぇ、用がないならいいじゃん。早く行こうよ。」


半笑いで再び俺の腕を引き始める三上。

それを見て、中原は何も言わずにその場から立ち去ってしまった。


はぁ……。


人に好かれることに悪い気はしないと言ったが、中原に嫌われてしまうとなると途端に三上に対して怒りが湧いてくる。


ただ、そんな単純な俺もまた結局、他と対して変わらないちっぽけな人間だってこと。

それを認識して更に気分が沈む。



結局、昼休みは三上にあっちゃこっちゃ振り回されて終わってしまった。

予定としては中原の誤解を解いておきたかったのだが、残念ながらそれは叶わなかった。


そして今俺は放課後を迎え、雄也と共に家路に着いている。

本来であれば中原を半ば強引にでも説得して雄也の相手をしてもらうつもりだったんだが……こうなってしまっては仕方がない。

宮澤との対談はとりあえず後回しにして今はとりあえずこの状況を打開するか。


「なーなー、和希さんよー。こりゃ一体どういう事なんだってばよー!」


どうやら怒り気味の雄也が質問を投げかけてくる。


「どういう事、ってのは?何の話だ?」


俺が疑問を呈すると、理解できないといった風に驚きの表情を見せながら口を開く。


「い、いやいやいやいや!今日一日で噂になってたろー!?おれと和希が倉持を陥れたって事になってんのよー!」


はぁ?なんだそれ。

ていうか倉持の一件は一段落着いて収拾がつけば終わると思ってたんだけど、まだそんな事になってるのか。


「それは知らなかったな。妙に浮ついた空気感はあったが、それが原因だったか。」


しかしこうなってくると、未だに俺たちの足を引っ張る人間が存在しているという事。


今俺たちは生徒たちから注目の的にされている。

也を潜めたい宮澤がこれから関わっていくであろう俺に注目を集めるとは考えづらい。

となると他に誰かいるのか。


「とりあえずよー、これ何とかしねーと中原ちゃん所じゃないぞー?今じゃああいう真面目ちゃんたちはおれたちの話なんて聞いてくれやしねーしなー。」


雄也の言う事は正しい。

今後は“そちら”の対応も視野に入れて行動しなくてはいけないな。



やがて俺たちは別れ、それぞれの家に帰宅する。

帰るなり俺は自室に入り、宮澤へと連絡を入れる。


……プルルルルル……ガツッ!


「はいは〜い、杉山く〜ん。」


ワンコールで出た宮澤はこちらの悩みなど露知らず、いつも通り実に脳天気な返事をしてくる。


「はぁ、お前と話すと出だしから調子狂うな。」


「何の話だぁ?」


「すまん、こっちの話だ。」


軽く咳払いをして、本題を切り出す。


「宮澤、単刀直入に聞く。俺たちが倉持を貶めたって言いふらしている人間に心当たりはあるか?まさかとは思うがお前じゃないだろうな?」


「ッ……。」


言葉が詰まり、しばしの沈黙。

しかしこれ以上の追求はしない。

宮澤は俺の能力を理解していて、そして理解している事を俺が理解しているから。


「悪い、心当たりはあるがオレの口からは言えない。それについては申し訳ないとしか言えないし、その件に関してはオレが何とかするから。」


お互いが理解しているが故、余計な言い訳をせずに認める。

ただ、その物言いに少し不安が残る。


「宮澤、そこは俺にも協力させてくれ。」


「いや〜それはちょっと無理かな。こっちにもこっちの都合があんのよ、わかってくれるかな?」


あくまでもこの一件に首を突っ込ませる気はないらしい。


「わかった。ただくれぐれも無理な判断はしないでくれ。いつでも相談に乗る。」


「はいは〜い。」



通話を終える。


上手いこと話を擦り合わせて宮澤を朝練に参加させてしまえば、この先ある程度の問題があっても何とかなると思っていたが、依然として問題は山積みである。

今の状況を考えると、やたらと中原に連絡しても不審がられるだろう。


とりあえずの様子見と行くか。





〜数時間前〜


オレは学校に来るなり、生徒たちからその日の話題を仕入れる。


まずはここ最近噂になってる杉山と須藤だが……案の定今日もその話題で盛り上がっている。

どうやら倉持の事を貶めたって事になってるらしい。


前世では情報屋としてそれなりにやっていた手前、杉山たちを相手取って撹乱するのは良かったが、協力関係を築こうとしている今、それが仇となってるみたいだね。



適当に授業を聞き流し、時刻は正午。

皆が給食の準備に取り掛かっている中、オレは保健室へと出向いた。


ガラガラガラ……。


相変わらず誰もいない。

そして閉め切られたベッドの仕切りカーテン。

そのカーテンをゆっくりと捲る。


「巴。」


今世でのパートナー。

不運で捻くれた可愛くない可哀想な子。

嫌われ者だから気にかけてたけど、これがまた扱いが難しい。

オレが勝手に救ってやりたいとエゴを押し付けてしまったんだけども、他人を救うってのは想像より遥かに難しい。


「んあぁ、うん。どうしたの?」


眠たげな顔でこちらを見てくる。


「あんさ、悪いんだけど、杉山たちの変な噂流すの辞めてもらってもいいかい?」


「……は?元々そういう話だったんじゃないの?ていうかウチがムカついてるからやってるだけであって、約束もクソもないよね。」


想像するより遥かに難しい。

それは、他人を救う事に、そのエゴにオレが執着しているから。

救われたと実感出来るのはオレではなく他人だから。

他人が救われても、オレが救われるわけじゃない。


「巴のやり方は無闇に敵を増やすだけだからさ。もうちょっと平和的に……」


「だってそれじゃ甘いって言ったのそっちじゃん!何でよ……結局そうやって皆と同じ事言うの……」


人徳がなければ、人は皆捻くれてしまう。

相容れない存在を否定し続けるのか、はたまま認めるのか。

その答えを他人であるオレが出せるはずもなく。


「……ごめん。でも今のままじゃもっと悪い方向に進むと思う。」


巴にオレの言葉は届かない。

グズグズと涙を流して、こちらのことは見ようともしてない。


「もう出てってよ。意味わかんないから。」


巴の説得は無理か。

杉山の返事を待つばかりじゃなくて、こっちはこっちで色々とやらなきゃいけないってことね。



帰宅後。

案の定杉山から噂を流した奴を詰められた。

杉山の能力を考えるとある程度はバレてそうだけど、今まで巴をコントロールしてたのはオレだ。

その巴のコントロールが効かなくなった今、責任の所在はオレにあると言える。


結局、オレはオレで何もかも中途半端だったわけだ。

一番力を持たないであろう人間を救う事は愚か説得すら出来なかった。


巴の求めた救いに、オレが差し伸べられた救いはまるで合致しないチグハグな関係だったって事だ。



これを最後にしたい。

これが杉山たちの手土産になればいいな。

なってくれないかな。


オレももう、自分のやりたい事がわかんなくなって来ちゃったわ。



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