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蠢き。2

井上の襲撃から一晩が過ぎ、平和な朝を迎える。

困難と思われた井上の捜索がアッサリと終わった。


今朝のニュースでは、既に長嶋のしてきた悪事が報道され、事件の黒幕は長嶋だったのでは、と世間を誘導し始めている。

井上の名前は出ていないが、ま、未成年の子供が事件に関与していた、それが現役警官との共犯ともなればエラい騒ぎになってしまう。

この辺は秋山を筆頭に警察側が上手く立ち回ったって事だろう。


その事も含め、確認すべく俺たちは今から秋山と合流する。


昨日の時点では警察署でと通達があったが、長嶋の回復が予想より遥かに早く、既に話せる状態にあるらしい。

それで秋山ら立場のある方々が病院に出向いているんだと。

俺たちが長嶋と面会出来るかは怪しい所だが、とりあえずは病院で合流、という流れになった。


「かぁずきぃ〜!!」


「わかってるよー!トイレだけ済ませてすぐ行くから!」


そんなこんなでドタバタしながら俺たちは病院へと向かった。



車に揺られ数十分。市内の総合病院に着く。


デカい施設なだけあって車両台数はかなり多いが、今日に限ってはそれだけではないだろう。

一体どこから湧いて出てくるのか、カメラやマイクを持った人間が複数人見受けられる。


「え〜マスコミの人達ワラワラ〜。あたしたちもテレビデビューしちゃうぅ?」


「冗談言ってないで秋山さんに連絡した方がいいと思うよ。」


「んもぉモテない男子が言いそうな事言わないでよ〜。」


「いやっなんだよそれっ」


よくわからない会話を交わしつつ秋山へと連絡を入れる。


顔バレしている可能性を考慮して表の玄関ではなく建物をグルっと一周して裏口へと電話越しに誘導されそちらに向かう。


裏口に着くと、内側からドアノブが回され扉が開けられる。

どうやら迎えに来てくれたらしい。

非常用の出入口なのだろう、中の真っ直ぐと続く廊下は薄暗く、消火栓の赤い光と非常口の緑の光、突き当たりの扉の小窓から差し込む光が辛うじて足元を照らしてくれる。

扉を開けて出迎えてくれたのは秋山ではなく別の男だった。

季節柄か、カジュアルなスーツ姿で歳は三十代半ばくらいか。


「杉山さんですね?お待ちしておりました。暗いので足元にお気をつけ下さい。」


顔色一つ変えずに俺たちを中に招き入れる。

秋山と見比べれば若く見えるが、彼の対応は不快感をまるで感じさせない。


裏口から続く薄暗い廊下を抜け、本館へと入ると小さなロビーの様な広間になっていた。

表の待合室程の広さは無いものの、自販機と長椅子が四つだけ置かれた空間がある。

そこに、秋山を含むスーツ姿の男が数人、それから中原親子、雄也親子が揃っている。


と、雄也と中原がこちらに気付き、目が合う。


ダッダッダッ!


「ッ!!!心配したっ!本当に居なくなっちゃうと思った!よかったっ!」


目が合うなり駆け寄ってきた中原が勢いそのままに俺の胸へ飛び込んでくる。


「あぁ、悪かったな。昨日連絡すればよかった。」


「ごめんねぇ。杉山和希くん、だったかしら?優美の母です。いつも仲良くしてくれてありがとう。」


朗らかな雰囲気を纏いながらこちらに歩み寄ってきたのは中原の母親だ。

とても綺麗な容姿をしているが、正直怒らせると怖そうだ。


「え?えぇいやいや。仲良くしてもらってるのはこっちの方で……」


「そんな事ないわよ〜、いつも家で和希くんの話ばっかりしてるんだから……」


「ちょっとお母さん!」


お、中原がキレた。初めて見るな、この顔。


「和希くんが無事だって聞いたからね、ついさっきなのよ、事情を話したの。うちの子心配性だから。」


なるほど、中原が騒ぐと思ってわざと黙ってたのか。だから中原が来たのがこのタイミングだったんだな。


パンッパンッパンッ


「え〜、とりあえず皆さん。揃いましたかな?」


秋山が手を叩きながらこちらに向かってくる。

俺の母親はそれを見て少し不機嫌そうに顔をしかめる。

秋山の事が嫌いなのかもしれない。


「わざわざお集まり頂いてありがとうございます。ここに来てくださった方には色々と協力して頂いた手前、説明の義務があると私個人が判断しましてね。え〜、まぁ簡単に言えば犯人が捕まりましたよって事です。」


そこから、淡々と秋山の説明が続いた。


長嶋が裏の世界に根を張っていたこと。

井上が主犯格であったこと。


逮捕され逃げ出した男女が遺体で発見された事、それがまさしく井上正樹の父と姉であり、母親は家で殺害されていた事。


井上の母親が宗教にハマりそれが事件のキッカケになったのではないかという考察まで。


そして……。


「同年代の君たちには言うか悩んでたんだけどね……。隠しててもしょうがない。」


深々とため息を吐きながら秋山は続けた。


「昨日の夕方、井上正樹くんが亡くなりました。だから詳しい手口や動機もわからない。ただねぇ……彼の家を調べさせてもらった時に遺書のような書き置きがありましてね。詳しい内容は言えませんが、とりあえず昨今騒ぎになっている事件は終息に向かうでしょう。」


一連の騒動にこれで終止符が打てるようだ。世間もこれで落ち着くだろう。


そして井上、やはりあの状態からは助からなかったか。

詳しい死因は聞けなかったが、聞いたところで答える気もないだろう。


それにアレは十中八九、能力によるデメリットと見ていい。

それならば答える気がない、と言うより答えられないと言う方が正しいのかもしれない。


これで良かったんだろうか……?


清水は他人の正義に報いてほしいと願って死んで行った。

井上がやった事はあまりにもデタラメだが……俺に向けた最後の眼は、簡単な憎悪や嫌悪とは思えなかった。もっと悲しみに満ちたような、助けを求めるような……。

そんな気がしてならない。


井上は最後まで何を願っていたのか。

今になってはわからず終いだ。


何はともあれこれで一件落着。世間の緊張は解れ、平和な日常へ戻ろうとしている。


ただ俺にだけ。

漠然とした疑問と違和感を残したまま、事件は解決となった。





「具合、どんな感じ?」


「うん……良くなってきたよ。さっさと退院したいんだけどね。ママが煩いから。」


「あ〜、まぁその辺はリアクションムズいからスルーさせて貰うとして……とりあえず何か欲しかったら言ってよ。」


「うん……ありがと。優しいね。」


「あーあっははは……。まぁそりゃ好きな人には優しくするよね、普通は。」


「……退院出来なくなるから、やめてよ。」


「何でよ、オレは早く外で会いたいんだけどなぁ。」


「……恥ずかしいって……もう。ほら、早く帰った方がいいよ?」


「あ〜へいへい。じゃぁなんかあったら連絡してよ。頼りにしてるからさ、んじゃね、巴。」


オレは病室を出て、ゆっくりゆっくりと院内を後にする。


まさかのまさかで正樹が自爆しちゃったのは正直痛手だった。


最後の最後で手を打っておいてよかった。


これから先、もっと頭を使わなくちゃならない。

はぁ……なんでこんな事になっちゃったんだかなぁ。

まいいや。


後は退院を待つだけだ。

とりあえず期待してみようか、三城巴ちゃん。

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