タイムパラドックス?
ジリリリリリリ!ガチッ!
けたたましく鳴り響く目覚まし時計。見知った天井だ。周りを見渡す……いやデジャヴか!
こうして俺はタイムリープ二日目に突入した。
母親もまた目覚まし通りに起きた俺を見て上機嫌だ。
「おはようお母さん。」
「おはよ〜寝坊しないで偉いわね〜」
そんな会話をしながら朝自宅をさっさと済ませていると、玄関チャイムがなる。
「おはよっす」
雄也のお迎えだ。過保護なことで。
そうして俺はまた雄也と共に学校へと向かった。
さて、昨日は慌ただしい一日をヒヤヒヤしながら過ごした訳だが、今日は気構えが違う。
冷静に、的確に周りを観察していこう。
学校に着くなり雄也はまた部活だからと駆け足で行ってしまった。
一人校舎に向かい、昇降口に入ると何やら人集りが出来ている。
覗いてみるとそこには大きな黒い塊が床に散乱していた。なんだろう、髪の毛?
「何の騒ぎだ?」
近くにいた生徒に声を掛ける。
「いや俺も詳しくは知らんけど、なんか大量の髪の毛が落ちてたってことはわかるな!」
うん、確かに一目見ればわかるな。
「にしても学校で髪の毛切るとかどんな女やねん!」
女?……あぁ、確かに毛量的に女子って事か。
「これだけバッサリいってたら、流石に誰の仕業か分かるだろうな。髪が短くなってるやつ探せば一発だ。」
「確かに!お前天才じゃん!」
……コイツは確か同学年の……宮澤だったかな?
皆制服で過ごしている中、こいつだけ何故か体育用のジャージを着て過ごしている。規則的には違反ではないが変に目立つ。
あまり関わりなかったけど、確かゴシップ大好きでそれなりの情報屋みたいな奴だった気がする。
こういった話題性があるものには目がないんだろうな。
中三の頃にはポンコツ呼ばわりされてたけど、なるほどこの短い会話でもわかる確かにポンコツそうだ。心做しか見た目からもポンコツ感が否めない。
「もう宮澤あたしの言ったこと得意気に言うなよ〜!」
近くにいた女子生徒がこちらへ近づいてくる。
こっちは清水って名前で確か学年一のヤンキーと結婚してたっけな。
中学生にしては大人びたギャルギャルしくないギャルで、所謂陽キャだ。背は多少小柄だがスタイルはいいし、可愛らしい顔をしている。俺だからわかるが、教員たちから持て囃されてたのも頷ける。
にしても宮澤、この髪の毛が女子のものだってのもわかってなかったんだな……。
「いやいや、俺だってわかってたよ?
たまたま清水が先に結論言い出しただけだから!」
「嘘だね、いつもすっとぼけてんの知ってるっつーの!」
ヘラヘラとしながら答える宮澤に、清水が食い下がる。
そこでふと、清水と目が合う。
「ええと、君誰?宮澤の友達?それともあたしに見蕩れちゃった系?」
いや不意にそんな振られ方されても困る。
「あぁ、いや、何の騒ぎかと思って野次馬しに来ただけだから」
「ぷぷぷっ!友達じゃないんだ!宮澤ぼっち〜!」
「いやこの人とは友達じゃないけど友達はいるから!つかお前も眼中に入れられてないじゃんダッサッ!」
「あ〜はいはい、言い訳言い訳」
全く仲がいいんだか悪いんだか…。
しかし、この髪の毛は一体何なんだろう?
俺がタイムリープしてきて、当時の生活リズムとは違った行動をしているのもあるだろうが、俺の記憶に『大量の髪の毛が床に落ちていた』なんて事件はない。これだけ人集りが出来ているんだ、話題に上がってもおかしくない。
まさか未来が変わっている?
直接的な因果関係は分からないが、タイムリープしてきたのが俺だけだと仮定すると、遠因は俺にある可能性がある。
俺が早起きして学校に来たせいで、女子の誰かが学校でバッサリ髪の毛を切り落とす。
どんなバタフライエフェクトだよ!
しかし現に目の前でそれは起こっている。
髪の毛に集まる生徒たちは皆怪訝そうな顔をしている。
すると廊下の奥から、何やら騒ぎを嗅ぎつけたであろう教員が小走りで寄ってくる。
「おーい、何の騒ぎだー?喧嘩でもあったのか?」
落ち着いて場を収めるような口調で話しながら、教員が騒ぎの発端である髪の毛を目にする。
「何これ?髪の毛?誰の?誰か切ったの?」
その問いに答えるものはいない。正確に言うのであれば答えられるものはいないのだろう。
誰も髪の毛があるということ以外何も知らないと見える。
「いつからあったの?誰が見つけたの?」
続けざまに教員が尋ねる。集まった生徒たちは口々に「来た時にはあった」とか「朝練ある子達のが知ってんじゃない?」とか色々言っていた。収集がつかないと思ったのか、教員が少し声を張り上げながら
「ここは俺が片付けとくから、皆は教室戻って!あと変な噂は流さないように!」
と釘を刺した。恐らく犯人であろう女子生徒が名乗りを挙げづらくするのを庇うためでもあるだろう。
俺も大人しく教室に向かうことにした。
教室のドアを開けると、そこには既に噂を聞きつけた生徒たちが固まって髪の毛の話題で盛り上がっていた。もう噂になってるのか。若いと敏感ね〜、んま俺もそこまで歳食っちゃいないけど。
さて、この喧騒の中からも引き抜ける情報はあるはずだ。輪の中に割って入るのは気が引けるので耳を傾けて会話を盗み聞きする。が、大したことは言ってないようだ。結局犯人はわからない、いつからあったかもわからず、挙句には呪いだの幽霊だのと言ってる始末。理解の及ばない事象をオカルトやスピリチュアルで片付けたくなるのもわかるけどな。
ふと目線を逸らした先に一人の生徒がいた。
なんだ?怯えているのか?
一人輪に入らず、その会話すらも聞きたくないといった様子。彼の名前は確か……
「……ずき!」
いきなり肩を叩かれて思わずビクッ!となる。
驚いた、振り向くとそこには何やら焦った様子の雄也がいた。
「かずき!!お前、どうしたんだよー!?」
狂った人でも見るかのように俺の肩を揺さぶってくる。
「えぇえ?どうもしてないぞ?何か変か?」
「いや変も何も、さっきから呼んでるのに全く返事しないし、さっきから校内も騒がしいしお前に何かあったんじゃないかと思ってー……」
マジか、全然気付かなかった。
「悪い、ちょっと考え事してただけだ。
それよりその校内の騒ぎなんだが…」
「そこに宮澤がいたから聞いたよー。大量の髪の毛が落ちてたんだろー?」
「こんなこと、なかったんだけどなぁ……。」
続けて呟いた雄也の台詞に違和感。
「こんな事なかった?」
「いや、こっちの話。それより、お前は大丈夫なんだなー?」
「あ、あぁ、うん、何もないから。心配しすぎだっつーの!」
「それならいいんだけどよー……。」
明確なものはわからないが、雄也は何かを知っているような、そんな気がした。
噂話で盛り上がってる連中を眺めていると、教室のドアを開けて担任の教員が顔を出した。
「お前ら〜席つけ〜。授業の前に朝のホームルームだ〜。」
気だるそうに言う。まだ教室内の落ち着きはないが、少しずつ生徒たちが席に着き始める。
「え〜と、まぁお前らもう噂になってるから知ってるだろうけど、今朝一年の教室前に落し物があってな。」
「髪の毛でしょ〜?犯人見つかったの〜?」
クラスの女子が口を挟む。
「いや、一年はもちろん、二年や三年の担任の先生方からも報告は上がってない。」
「え!それじゃぁほんとに幽霊、とか?」
また女子が口を挟む。その一言を聞いてクラスは騒然となった。
この学校は昇降口を入って下駄箱の壁裏に一年一組、その隣に二組……といった感じで各教室が並んでいるんだが、髪の毛が落ちていたのはちょうど二組の真ん前だった。
それからは、やれ二組の誰かが何かの儀式の準備だの、呪った相手から呪いが返っただのヤイヤイ騒ぐ始末。担任も、やはりこうなるかと言わんばかりに呆れている。
そんな騒然とした空間を他所目に、雄也は困惑した様子。さっきの様子からも察するに何かを知っていると俺は睨んでる。
一番安直なのは、犯人を知っていて、庇いたいが故に騒ぎになるのを恐れているってところだが、それならば時すでに遅し。
更に考察を深めるのであれば、それは雄也が毎朝行っている部活に関係する可能性も高い。
俺の記憶に雄也が部活動に励む姿はない。
だが雄也は現に、俺に隠すことも無く部活に行ってくると言い残して行っている。
きっと表立った活動はしていない部活……例えば創作活動部とか。そんな部活が名目上はあったような気もする。
そんなあるかもわからないような部活の部員の事など、他の部活に励む生徒は知らなくても何ら不思議なことではない。
そしてもう一人、このクラスには怪しい人間がいる。今朝から一人怯え周りを拒絶するような彼。見た目からも気弱な性格が伺える。
思い返してみればあんな子もいたような気がするが、悪い、余りに影が薄すぎて名前が明確に思い出せない。まぁ見た目も似てるし気弱そうだし、仮にシンジくんと名付けておこう。
シンジくん(仮)は何に怯えているのだろうか?
思いつく可能性は二つ。
一つは、彼が何か理由があって女子の髪の毛を切ってしまったこと。
二つ目、これはあまり現実的ではないが、実際に幽霊がいたとして、彼にはその幽霊が見ているということ。ちょっと小耳に挟んだ話なんだが、幽霊ってのはそういった怪談なんかをしていると寄ってくるそうではないか。
だから、髪の毛にも怯えているし、皆の輪には入りたくない。とそんな所か。
どちらにせよ結論は出ない。
よし、それならばまずは雄也の疑念を晴らそう。
例え何を知っているとしても、俺が協力してやればいい。
そうと決まれば即日即時結構だ!
引き続き、楽しんでいただけていたら幸いです。




