居酒屋
居酒屋です。
今日の大学のゼミは激しかった。いつもはそこまで厳しくないゼミだし、なんだったら終わった後は教授が飲みに連れて行ってくれる。
ただ今日は俺がそんな気分ではなかった。お酒は飲みたい。だけど1人で。新しい場所に行ってみたかった。
大学近くの、金曜日の夜だというのに全く賑わっていない大通りからさらに一本入ると、人影は全くみられない。
こういうところにこそ当たりのお店、隠れた名店があるんだと思うが、昨今のSNSの隆興により、そんなお店を見つけられるのは、ホンモノしかいないだろう。
ここは大学。自分が知らない店でも、先代たちが発掘し尽くしている。話題に出ないというのはそういうことだ。
でも人もいないし、今の僕にはちょうどよかった。
少しドキドキはしたが、意を決して入店する。
店内は白壁のオシャレなイタリアンが食べれそうな内装なのに、壁には木の板に書いてある昔ながらのメニューに、テーブルは麻雀卓。色々と察してしまいそうな店内である。
早速メニュー表に目を落とす。一杯目は生中一択だ。
最初はビールなんて苦いし飲めたもうではないと思っていたが、教授に付き合ってビールとハイボールを飲む日々を送っていたら、いつの間にか慣れてしまっていた。
お。ビールが来たみたいだ。
「お待たせいたしました 生中お一つです」
よしっ!来た。これが最高のスター・・・トとまでは言えない・・。
スーパードライ。お好きな方には大変申し訳ないが、私はスーパードライのフレーバーを後付けしたような味が少し苦手だった。ビールは一番搾り1番というのが自論である。
だが!!美味いっ。そんなお酒覚えたての御託などどうでもいい。最高だ。この金色の液体が僕の嫌な気持ちを全て便まで運んでくれる。
さてお通し・・ポ、ポップコーン!?噂には聞いていたが、まさかこの辺境の地でお目にかかれるとは!だが、お代わり自由とのこと!腹ペコ学生にはありがたい。
これはアリだ。
さておつまみだ。モツ煮モツ煮モツ煮、よしあった。これはマスト、あとはキムチ奴。そして枝豆、とりあえずここで落ち着こう。
2杯目のビールと一緒に注文を完了する。マスターがビールと一緒に席に来た。オシャレな内装とは真逆の、スキンヘッドに白い鉢巻きをした初老の男性だ。
「お客さん学生でしょ?今日は1人?」
なるほど、こういうところがウケないのかな。ウチは地方国公立。ただでさえおとなしめの学生が多いし、昨今の若者というものは内々以外のコミュニティを嫌う傾向にある。
「そうそう。いや1人で飲みたい気分でね。」
居酒屋では、若いバイトでない限り敬語を外すことが個人的なマナーだと僕は考えている(勿論、個人の意見だ。気に触る人がいたら申し訳ない。)
「ふーん、まあ何か俺でよければ話に乗るぜい
この頭に誓って隠し事はしねえ!真摯に向き合うぜい」
マスターは自慢げに頭を指さしてから、厨房に戻った。
なるほど、学生が寄りつかない理由はこっちかもしれない。
フー。もう結構お腹は溜まってきた。焼き鳥を頼み、それをハイボールで流そう。それで今日はおしまいだ。
頼むのは決まってる。
「マスター、お任せ5本盛り
あ、それとは別にこころ2本ちょうだい。」
「あいよ!」
こころとはハツのことだ。プリプリの食感がモツ煮好きを唸らせる。
話は変わるけど、恐らくハツにこころと名前を与えた最初のマスターは、物語を描いたら、仲間のルビにライバルと振るような作家であるに違いない。
ごめんね、どうでもよかったか。酔ってるんだ。
その後はよく覚えてない。お酒を少し飲みすぎかな?って思うくらい飲んで、ハツと串を食べて食べて食べて。ハツは美味しかったけど、そのほかは何を食べたのかよく覚えていない。
いや実は、ハツ以外はどれがどうなんだか正直よくわからない。通ぶるためにハツだけ頑張って覚えたんだ。うちの教授、ハツ大好きだから。
お勘定するために席を立とうとしたんだけど、マスターの見たとは裏腹に大きい右手で制された。
「もう貰ってるよ」
??誰に?僕は今日1人で。
「さっき来たんだ、ホレ横」
振り向くと、教授がビール片手にハツを頬張っていた。
「マスター 少ししょっぱすぎない?」
悪態をつくところも相変わらず、口癖は「俺が作ったほうがうまい」だ。
「出来上がってるな」
何でいるんだ?
「まだ食えるだろ 2件目いこう」
今は話す必要ないって格好だな。ちょうどいい俺もアンタに言いたいことがあるんだ。2件目ね。アンタの奢りだろ?うんと高いところ連れてってくれよ。それで腹を割って話して。今日あったことは全て水に流す、とは言わなくても、明日も頑張る気になれる。そんな時間を、アンタと過ごしたいんだ。