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スクールカースト

 教室に帰ってきた俺は席に着き、実験室でのできごとを思い出している。


 結局遅刻した。マッドサイエンティストのような白衣メガネ教師は、怒っていた。


 そして、サラサラな長髪をかき分けつつホレ薬と書かれた試験管を渡してきた。


 怪しい液体をなんとか飲むフリをして、カッターシャツの首元に流し込んだ。


 もう一つ嫌なことが。なずなを見たらそっぽを向かれた。


 かれんは俺にべったりだから、いずれのっぺらぼうだとバレないかが心配だ。


 「ねえねえ、恭介くん」


 またかれんが目の前に立ちはだかる。


 今まで平穏に過ごしてきた俺は、断ることが苦手なんだ。


 でも、勇気を出してなずなと話したいと言ってみるか……。


 「あ、あのーかれんさん」


 「あの白衣メガネ教師、最悪だったよね! まだシャツがぬれてる」


 「あ、ああ。ぬれてるよね……」


 だめだ、かれんのペースに乗せられてしまう。


 思い通りにいかない現実が歯がゆく感じたとき、かれんが声を張り上げた。


 「あー、ホレ薬飲まされて最悪! あたしじゃなくて、変人の鈴代がバツとして飲めばよかったのに!」


 一切笑えなかったが、なぜかクラス中が爆笑してる。


 愛想(あいそ)笑いでもするのが、この教室で平穏に過ごすための手段とは解っていた。


 でも食わせてもらっている以上、それはできなかった。


 先生が入ってきても、まだ笑いの雨嵐は続いている。


 もはや、笑っていないのは俺となずなだけだ。


 むしろ、怒りさえ感じている。


 黒薔薇かれんという、スクールカーストの頂点にいるただの人間に。


 絶対敵に回してはいけないと解っていても、不器用な人は怒りを買ってしまうものだ。


 いじめに俺が怒っている反面、隣のなずなは泣いていた。


 教師すらももらい笑いをして、授業が始まらない。


 そんな中、なずなは立ち上がり教室から出ていった。


 追いかけたいが、突然教室が静まりかえる。


 教師が授業をうながしたからだ。


 静まりかえった教室。


 その中でブルドッグ顔の白髪教師はわざとらしく、


 「あれぇ、鈴代くんがいなくなったけど、誰か知らない?」


 いまだ俺の前にいるかれんが、悪意のある声で答えた。


 「なんかー、勝手に出ていきましたー。もう三回目ですよー。しかもあいつ、いつも校外に逃亡するんです。これは、ホレ薬を飲ませないといけないですよね?」


 またクラス中で笑いが起こったが、やはり気持ちのいいものではない。


 かれんが元気よく叫んだら、また静まりかえった。


 「すいませーん、さっきホレ薬を飲んだんで、お腹痛くなっちゃいましたー」


 ブルドッグは愛想よく、


 「大丈夫か? 今日は早退しなさい」


 「はーい」


 「かれんくん、鈴代くんをよろしくね」


 「了解でーす。ついでにもう逃げられないよう、首輪でも買ってきまーす!」


 バカ笑いをするクラスメイトたちを残して、かれんは去っていった。


 ああ、憂うつだ。


 窓の外を見ると、雨が降っている。


 これがなずなを追いかけたいという決断を鈍らせる。


 なぜなら、ぬれればのっぺらぼうになってしまう。それに、ここは街のど真ん中だ。


 さわぎに発展するに決まっている。


 そう考えている最中、前から女子たちのつぶやきが聞こえてきた。


 「ねえ、かれんってさ。ちょっとやりすぎじゃない?」


 「うん、あのブルドッグまで取り込んでさ。最近、なずなって思いつめてると思わない?」


 そういえば、なずなは妙だった。


 休日はやたらハイテンションだし、学校のことを全然話してくれないし。


 自殺する人は突然いなくなると聞いたことがある。


 だから、焦る気持ちをおさえきれなくなった。


 「せ、先生! 俺もさっきホレ薬を飲んでしまい、お腹が痛いです!」


 「えっ、君も? しょうがないな、保健室で休んでなさい」


 「なんでかれんさんは早退で、俺は保健室なんですか? そんなの不公平だっ!」


 「君は知らないのかな? 彼女は風紀委員長。つまり、学校の風紀の乱れを取りしまる義務があるのだよ! 叫ぶほど元気なら、おとなしく席に座ってなさい! それとも、君も鈴代と同じく変人なのかな?」


 「いえ、俺は元々平穏を愛し平凡に生きてきた人間です」


 「だったらおとなしくして……」


 「でも、残念ながら今は変人です! だから、なずなの側にいてあげたい! 失礼します!」


 「立つなっ! 勝手に退室したら単位はやらんぞ!」


 俺を捕まえるつもりか?


 ブルドッグは生徒側へジャンプした。


 「かまいません。なずながいなければ、俺は生きていけないので」


 俺の返事に驚いたブルドッグは、落下して床に顔をぶつけた。


 俺はそのすきに、廊下へ逃亡した。目的地はもちろん校外だ。


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