なずなと離れる
朝のホームルームを終えたとたん、かれんとかいう女子がまた目の前に立ちはだかった。
今度は4、5人の女子を引き連れて。
シングルプレイで歯が立たなかったから、マルチプレイでも始めたかのような娘たち。
彼女らは、立て続けに質問をしてきた。
「ねえ、どこから来たの?」
「彼女はいますか?」
「あのっ、ご趣味は?」
「好きな女性有名人は誰?」
「福沢諭吉と野口英世、どっちが好き?」
一斉に質問しないでくれ!
「俺は福沢諭吉派かな」
としか、答えられなかったじゃないかっ!
「みんな、今度は俺の質問に答えてくれ」
女子たちは同時に首を縦にふる。
「ンジャナメ密教って知ってるか? もし、知っていたら教えてくれ!」
誰もが静まりかえった……。この質問は真夏の蝉時雨にも有効だろうか?
沈黙を破ったのは、隣の席に座るなずなだった。
「恭介くん、そろそろ授業始まるよ!」
返事をしようと思ったら、すぐにかれんが話しかけてきた。
「ンジャナメ? なにそれウケるー! でも、知りたいんでしょ? 調べてあげる!」
「ありがとう、助かるよ」
個人的には授業よりも重要事項だったから、結果的になずなを無視してしまった。
なずなを横目で見ると、せっせと次の授業の準備を始めてるから俺は焦った。
今日は1限目から移動教室だ。
ああ、なずなが席を立ち廊下へ歩を進めてる。
でも、かれんがンジャナメについて調べてくれているのに、断る訳にもいかないし。
などと、考えている場合じゃなかった。
完全になずなとはぐれてしまったからだ。昨晩、側にいると誓ったのに!
不安と焦りが汗となって落ちている気がする。
顔が消える前に慌てて額の汗をハンカチでふいていたら、いつのまにかかれんと二人っきりだ。
かれんは焦り出した。
「ヤバッ、次の授業って実験室に行かないといけないんだった。あの白衣メガネ教師、遅刻したらホレ薬飲ませてくるんだよね」
ひょっとして、それはしょうが湯か?
「恭介くんは特に急がないとBLな展開に!」
見境なしかよ! ジェンダーに対して差別してはいけないが、強制はなしだろ!
でも、焦って走れば大量の汗がしたたり落ちて顔が消える! どうしよう、校内でのっぺらぼうになったら完全にパニックになる!
「早く、恭介くん!」
かれんに急かされ、しぶしぶ全力で走った。
が、廊下を電光石火で移動中校長に見つかり説教を食らったのだった。
なずなともはぐれた。謎のメガネ教師にホレ薬も飲まされる……。今日はなんてついてないんだっ!