同居人がよそよそしい
俺・蓬田恭介は、恐らく日本で1、2を争うヒマ人だろう。
のっぺらぼうになった今、登校できない。なので1ヶ月間、下宿内の鈴代宅から外出していない。
今は、四方がピンクのカーテンに囲まれた居間にいる。
すでに俺=のっぺらぼうだけでなく、黒ジャージというのが定着している。
もはや、ここの支配者は俺なんじゃないか? 居候にも関わらず、家主気分だ。
俺は金色のクロスが眩しいテーブルに向かってイスに座り、スマホゲームをしている。
無料ガチャを回す最中、玄関からガチャと音がした。真の家主が学校から帰ってきたな。
引き戸が開け放たれ、同居人でブレザー姿の鈴代なずなが入室しても俺はガチャをやめない。
下校後の彼女はいつもごきげんだ。
最も休日の方が異様にテンションが高いけど、日曜の夜はおとなしい。
ともかく、今の彼女はちょっとハイテンションなだけだから、軽くあいさつをしておこう。
「おかえり」
「ただいまーっ、恭介さん! あっ、いや……それだと他人みたいだね、恭介くん!」
君付けだと、あまり距離が縮まってない!
まあ、俺だってなずなちゃんと呼んでいるけど。
「ゲームばかりやってちゃダメだよ! 顔が戻る可能性は0じゃないんだから、勉強はしておかないと!」
「いやー、どうせ俺の将来はお化け屋敷でバイトってのっぺらぼうテンプレだから。今さら勉強なんて」
「甘いよ、いつ顔が戻ってもいいように将来の事を考えて!」
「そう言うなずなちゃんはンジャナメ密教のこと調べてきた?」
「もちろん。責任は感じているから今日の昼休憩、図書室へ行ってきたの! でも、収穫はなかった……」
「ホントか?」
「ホントなんだからぁーっ!」
まあ、なずなは純粋少女。今も子供みたいに頬をふくらませて怒っているので、本当なのだろう。
公式サイトも閉鎖して、電話も繋がらないから俺はすっかり諦めていた。
まったく、彼女はバカがつくほどまっすぐで諦めが悪い。だが、彼女の熱意に心を動かされた。
顔を戻すため、俺はある提案をしてみた。
「よーし、なずなちゃん。『三人寄れば文殊の知恵』というじゃないか! 学校の友人をこの部屋に招待するんだ。で話し合えば、ンジャナメ密教の出版社の足取りをつかむ方法が浮かぶかもしれないっ!」
「ごめん、それは無理だね……」
「なんで?」
「この部屋は聖域! 部外者は立ち入り禁止なのよ!」
俺は元々超部外者の他人ですが?
「じゃあ、なずなちゃんがクラスメイトに聞いてみるとか?」
「それもできないのーっ。クラスメイトはね、日本語が通じないの!」
みんな日本語だったよな? 俺、初日に通学したから知ってるよ。それとも初日に聞いた彼らの声は、日本語吹き替えだったとは言わないよな?
「じゃあ、俺と学校に行くというのはどう?」
「そ、それは……」
「学校で何かあったの?」
「うううー」
なんか泣き出しそうなので、これ以上追求しないでおこう。
「最後の提案は受け入れるわ! ただし!」
どうした? 急にもじもじしだして。
「ただしね、私たちは同じクラス。だ、だから校内では常に私といてね。きょ、恭介くんが側にいれば私安心だから……」
今ものすごいことを言ったと自覚したらしく、なずなはベッドにダイブ。そして、布団に顔をうずめてしまった。
俺も恥ずかしくなり、サイレントと化した部屋から逃げ出したい。でも、そんな気持ちは一瞬で消えた。
なぜなら、俺はのっぺらぼうだから。外に出たら、行ける場所はお化け屋敷しかないのである。
なずなはベッドから飛び起きて自らの発言をごまかすように、
「さて、夕飯を作らなくちゃ!」
考えてみれば俺、デパートの件以降居候としての功績はない。が、なずなは文句一つ言わない。
明日、恩返しのつもりでなずなと一緒にいようか!