出会い、いきなりホレ薬
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下宿先、隣人の女の子は親切だ。夕方、俺が玄関先であいさつをしたらお茶を飲ませてくれると。
しまったな。制服のブレザーじゃなくて、ビシッとキメてくればよかった。だってこのブレザー女子、紫ロングヘアだけどマジメそうだしかわいい。
転校してきたかいがあった。
ありきたりな短髪。その上、中の中な顔に似合い平凡な学生生活を送ってきた俺。優しそうな女の子だから、ここでも平穏無事に過ごせそうだ。
「蓬田恭介さん、ですよね? ボーっとされて大丈夫ですか?」
「あ、ああごめんなさい」
「お茶菓子もありますから、どうぞあがって下さい」
促されるまま、RPGみたいに彼女の後を着いて廊下を歩く。
掌を上に向け、突き当たりの部屋を指した彼女。ここが、女子の部屋という名の聖域か!
引き戸が開け放たれるのをドキドキしながら見つめていたら、ついにその全貌が明らかになった。
中央に豪華な金色のクロスがかかったテーブルとイスが一つあり、右側はすべてベットの陣地だ。
左側は本棚で、四方を囲むピンクのカーテンがいかがわしく感じる。
促されイスに座った。すると、コップ・お菓子をトレイに乗せてきた彼女が、まるで恋人みたいに同じイスに密着して座った。
き、緊張するな……。
恥ずかしいのでお茶をすぐに飲み干してさっさと帰ろうと、コップの中身を一気飲みする。そしたら、いきなり彼女は魔王並みに大笑いし、
「ハハハハハッ! 飲んだっ、飲んだわねっ! この鈴代なずな特製・ホレ薬をっ!」
ホ、ホレ薬!? なんだよ、いきなり初対面の俺にそんなものを飲ませて……。まさか、いかがわしいイタズラをする気じゃあ?
「さあ、そろそろ効果が現れるはず! どう、私のこと好き?」
「い、いえ。そもそも、ホレ薬って甘ったるいですね。材料は何ですか?」
「しょうがにお湯・ハチミツ、愛!」
ただのしょうが湯じゃないかっ! しかも最後の愛って何? しょうが湯を愛情込めて作るって、風邪を引いた子供のお母さんかよっ!
「あ、あのね。鈴代なずなさんって言いましたっけ? これはホレ薬ではなくて、しょうが湯ですよ!」
なずなは、信じられないと言わんばかりに口を大きく開ける。
だがすぐに本棚からいかにも怪しい黄色い本を取り出し、また狭いイスに座った。
「これよ、このおまじない大全に載ってる! このホレ薬を飲むと、体が火照り作った人の愛を感じるって解説があるじゃない!」
うわー天然記念物級のピュアだっ、この人!
「ホレ薬が効かないか……、しょうがないわね」
と言って、また本棚へ行っては戻り密着してきたぞ。
「これなら効くはず! ンジャナメ密教!」
ちょっと待て、その紫の本! 俺はこの人の実験台なの? マウスなの?
「さあ、蓬田恭介! 覚悟はいい?」
いきなり呼び捨て! なんか距離が縮まった気がするのは、ホレ薬のせいか?
「ンジャナメ密教の極意を食らいなさいっ! 福笑いの術! ンジャナメ・ンジャナメ、ポロリポロリ!」
彼女は真剣です。だけど、何も変化してない気がするのだが……。しかし、ここは本気な女の子のために悪役を演じるか。フツーに否定しても、傷つけるだけだし。
「フハハハハッ、鈴代なずなっ! 残念だったなぁ、俺にはその呪術は効かないようだ!」
「効いてるよ! 本当なんだから!」
まるで子供みたいだな。変人には変わりないが、憎めない子だ。
もしや、本当に呪術は効いている?