超絶イケメンの男爵貴族はモテすぎて逆にモテなくなる。女子貴族達「イケメン過ぎて気を失っちゃう。笑顔とかマジ耐えられない」。超絶イケメン「全然モテない、俺、顔悪いのかな?」
この物語の主人公、アイスィ・ブリュナックは下記作品の主人公の相棒です。
「大ハズレと罵倒された悪役令嬢、超絶イケメンに溺愛されつつ覚醒聖女となって無双する」
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上記も短編で、今作はその過去五年前の出来事になります。
どちらから読んでも大丈夫な様に作ってるので、どちらから読んでも大丈夫です。
面白かったら☆評価やブクマしてくれたらとても嬉しいです。
来てくれて、ありがとうございます。
アイスィ・ブリュナック、十五歳、サラスバティ王国の男爵家の第一子である。
彼は絶世のイケメンとして生を受け、水色の目と髪を持つ長身男性でもある。
すらりとした長い手足、適度に鍛えられた筋肉は人目を引かずにはいられない。
――だが本人は、自分の美貌を信じてはいなかった。
王城で社交会が開かれ、アイスィに招待状が来た。
アイスィにとってそれは初めての王城の社交会……彼の気分は浮き足立っている。
故に、王城に着いて馬車に降りた彼は、偶々出会った乙女達に明るい気持ちで接してしまう。
彼はすれ違う乙女達に、これ以上ないくらい爽やかな笑顔を向けると。
「いやあああああ!」
「きゃぁあああああ!」
「ひぃいいいやぁああああ!」
アイスィ・ブリュナックを見た少女達が次々と黄色い声を上げて気絶し出す。
アイスィは心配に思って彼女達に近づく。
「だ、大丈夫ですか?」
アイスィは優しいので、他意も下心もなく少女達を介抱しようとする。
だが、良いところのお嬢様は当然、護衛がいる。
護衛の者はぷるぷると肩を震わせながら、アイスィを罵倒する。
「お嬢様に、近づくんじゃ無い!」
「身の程を弁えろ! この方は公爵家だぞ! 下心があるなら、他を行け!」
「え、縁談が決まりそうなんだ。消えろ! アイスィ・ブリュナック!」
複数の貴族に、多種多様な罵倒を受けるアイスィ。
彼は俯き、とぼとぼと王城の中庭を歩く。
本日行われる社交会に集う貴族達。
アイスィも、倒れた女子達もその一員であった。
アイスィは、勘違いをする。
(やれやれ。ブリュナック家は敵が多いと聞いていたが、これ程嫌われているとはな)
アイスィは父の言葉を思い出す。
『良いか、アイスィ……俺達ブリュナック家は先の戦争で色々あって嫌われている。だけどお前は強くて格好良くて、何より優しい心を持っている。だからきっと、良い友達が出来るはずだ』
アイスィの肩に手を置く父。アイスィは今一人でいるのに、ないはずの温もりを感じていた。
そして、隣に誰もいない寂しさも。
「友達なんて、全然出来ないな。友達、欲しいな……」
アイスィは溜息をつく。
するとそこへ、中庭に生える十メートルの木の天辺からアイスィに声が呼びかけられる。
「おい、お前、アイスィ・ブリュナックだな? かなり強いと聞いている。お前に会えて、俺は会えて嬉しいぞ」
それは、第二王子ヘーケの声だった。アイスィは彼の演説を聴いたことがあったので、すぐさま畏まった態度になる。
アイスィが上を向くと、ヘーケと目が合った。
ヘーケは黄色い短髪と豪華な金の刺繍がされた白い服を着ている。
「ヘーケ王子。初めまして。仰せの通り、アイスィ・ブリュナックです。木の上にいるとは驚きました」
「初めまして。噂に違わぬ美男子だな。俺は驚いた、ブリュナック家の人間が社交会に参加してくれるなんてな。珍しいし、会ってみたかったんだ」
にやりと笑う第二王子は、ひょいひょいと身軽に木を降りてきた。
彼は危うげなど一切無く着地する。
「噂に違わぬ飄々としたところが魅力的ですね。私のことをヘーケ王子が知っていてくれたのも、歓迎されるというのも、至極光栄です」
「ははは、俺は強い奴が好きだからな! 城に届けられた貴族の肖像画の中にお前がいた。絵を見た時は、こんな色男がいるものかと思ったが……絵以上の美男子とは、驚いたよ」
ヘーケがニヤリと笑い、アイスィを見る。
アイスィはニコリと笑い返し、ヘーケを見た。
ヘーケの胸が、少しキュンとする。
「う、うわあああああ!」
ヘーケは呆然とした。余りのアイスィのイケメンスマイルが超絶過ぎて、彼は尻餅をついた。
アイスィは、ヘーケに駆け寄る。
「ど、どうしたのですか? ヘーケ様」
「! い、いや、びっくりした。お前の笑顔に」
アイスィは、しゅんと俯いた。
「俺の笑顔、そんな変ですか?」
「い、イケメン過ぎただけだよ。気にするな」
「イケメン? そんなことないですよ。彼女出来たことないし。ははは……気を遣ってくれてありがとうございます」
アイスィが恭しくヘーケに頭を下げる。
ヘーケは呆然とアイスィの水色の瞳を見る。
「は? お前がモテない? 男の俺ですら……げほんげほん、何でもない。あの……婚約とか決まってないの? 選り取り見取りで無いとおかしいと思うのだが」
「全く決まってません。縁談すら成立したことがない。私、嫌われてるんじゃないでしょうか? 何せ、ブリュナック家の長男ですから」
「お前の家、敵も多いけど味方も多いぞ? そんなモテないだなんて、有り得るか?」
アイスィは頬をかきながら、苦笑する。
「有り得るんです。ブリュナックでないとしたら、私そのものがきっと変な顔をしているんでしょうね」
「妙だな……でも今日出会いがあるかもしれないし、悲観することはないだろう。出会いなんてこれからいくらでもあるさ」
「いや、出会いがあってもものに出来たことがないのです。私はコミュ症なのかもしれませんね」
「普通に話せてるけどな……」
「ブリュナックの東のノリは、王都という中央のノリに合わないのかもしれないですね」
ヘーケは、手を合わせ目を大きく見開いた。
「よし、じゃあ社交会を一緒に回ろう。時間はそこまで取れないだろうけど、お前が変なことしてたらこっそりお前に指摘してやるよ。アイスィ、一緒に行っていいか?」
「王子が、一緒に?」
「うむ」
アイスィは満面の笑みで答えた。
「喜んで!」
ヘーケは全てを悟ったつもりになった。
(あ、これ女に効果抜群な顔だ! きっとこれなら全女子喜んで、最高の社交会になるぞ!)
しかし、ヘーケは全てを悟りきってはいなかった。それはすぐに証明されるのだった。
社交会。貴族にとって日常であり、大切な場だ。
この日常こそが政争に直結している。
所詮、王様や宰相……上司のご機嫌で出世は決まったりするのだ。
好き嫌いこそが、人間の人生を決める。
好かれるに越したことはない。
トラブルなどもっての外である。が、今回トラブルが起きていた。
アイスィ・ブリュナックである。
男爵家のアイスィ・ブリュナックが第二王子ヘーケと共に入って来た。
ブリュナックは男爵家でありながら王族と独自のコネを持つ。
故に、その二人が一緒にいるのは珍しくあっても不思議なことではない。
しかし、アイスィ・ブリュナックが王城の社交会にいるのは非常に珍しかった。
超絶イケメン故に、目を引くのだ。そして本人は緊張していた。
「き、緊張します……」
「そんな緊張するなよ。気楽でいいからさ、ははは!」
肩を強張らせ、ぎこちなく歩くアイスィ。
ヘーケは肩をすくめて笑顔でアドバイスする。
「でも、緊張している方がお前は上手くいくかもな」
「もう、ヘーケ王子、揶揄わないで下さいよ。何事もリラックスしてる方が上手くいきます」
「例外ということもあるさ」
アイスィとヘーケが話していると、伯爵令嬢レイア・ハーミットが近づいて話しかけてきた。
「ヘーケ様、ごきげんよう。……アイスィ様!? ご、ごきげんよう!」
レイアの顔はアイスィと会った方が露骨に感情がどよめいた。
そして、社交会の視線の半分ほどが、アイスィに傾く。
少女の驚く反応、それに対する反応は、
ヘーケは『やれやれ、まぁこのイケメン君ならしょうがないな』と苦笑し、
アイスィは『俺がいるの、そんな驚くことか。嫌、なのかな』とか眉を顰めた。
ヘーケはリラックスしてレイアに話しかける。
「ごきげんよう、レイア。今日の社交界、是非楽しんでね!」
ヘーケは満面の笑みでレイアに応じ、レイアも満面の笑みで応じる。
そして、二人がほんわかした空気を出したのがアイスィに移った。
アイスィは、リラックスしてしまった。
その時、事件は起こった。
「ごきげんよう、レイア様。会えて光栄です」
アイスィは満面の笑みで、応じてしまった。
「きゃあああああああ!!!!!」
レイア・ハーミットはその余りの超絶イケメンスマイルに胸をうたれてしまう。
悲鳴と共に、気絶する。
「れ、レイア様!」
「ひ、悲鳴だと!?」
アイスィはレイアに駆け寄ろうとした。しかし、護衛の男が一瞬で現れてアイスィとレイアの間に入った。
第二王子ヘーケはたじろいでいて、何も動けない。
「失礼、私はレイア様の護衛です。貴方、男爵家ブリュナックの長男ですね? レイア様に……何をした!」
護衛の男は怒りのあまり、今にも腰に装備した木剣を抜きそうになる。金属製の剣は社交会に持ち込むことを基本的に許されていない。
アイスィは狼狽えながら、自己弁明した。
「ご、誤解です。自分は何も、ただ彼女に笑いかけただけで……」
「笑いかけた、だと?」
「はい」
「てめぇのそれが問題なんだよぉおお!」
「え、えぇえええ!?」
ダン、と足で床を踏む音。
それをしたのは、第二王子ヘーケだった。
「アイスィは何もしていない。信じてやってくれ。俺の面子をかける」
ヘーケの言葉に、アイスィも護衛の男も目を大きく見開いた。
「へ、ヘーケ様が言うなら……レイア様は、私が介抱します」
「すまないな。社交会を楽しみにして来てくれたのに」
ヘーケは軽く頭を下げる。護衛の男は振り返り、笑顔で答える。
「ヘーケ様が謝ることではありませんよ」
だが護衛の男はアイスィを睨み、はっきりと言い放つ。
「アイスィ、君は二度とレイア様に近づかないでくれ」
アイスィはショックの余り、胸を押さえた。
そして、ハーミット家の護衛の男はレイアを担いで会場を出て行く。
アイスィは暗い顔になって俯いてしまう。
「すみません、王子。俺のせいで……レイアも俺を嫌いなんでしょう」
ヘーケは真顔で答える。
「嫌いではないと思うぞ?」
「いつもこうなっちゃうんです」
「いつも? それはそれで凄いな」
ヘーケは真顔で『やれやれ、どうしたものか』と考えていた。
すると、麗しい三人と乙女がやってきた。子爵の家柄の女子三名――目当ては当然、アイスィだ。
「「「第二王子ヘーケ様、ごきげんよう。ブリュナック男爵家、アイスィ様、ごきげんよう」」」
と三人挨拶する。ナタリー、キーラ、キャメロン、皆美人で有名なお嬢様だ。
アイスィが、にこりと笑いかける。
彼にとって、笑顔というのは当たり前のことだった。
が、アイスィの笑顔は少女達に特別過ぎた。
「「「おっふ……」」」
三名の令嬢は、全員顔を真っ赤にして俯いた。
そうしないと、彼女達は超絶イケメンスマイルに絶えられなかった故に仕方が無い。
アイスィは彼女達の努力など知りもせず、近づく。
「俯いてるね、大丈夫かい? 君、熱があるんじゃ……」
「ち、近寄らないで下さい、アイスィ様。今は、だめです」
広いおでこを真っ赤に染めた令嬢ナタリー。
だがアイスィは止まらない。
「今君が大変なんだ。今じゃないと、ダメなんだ」
「アイスィ、離れろ」
ヘーケが制止するにも関わらず、アイスィは近づいていき――
アイスィの手が、令嬢ナタリーのおでこに触れた。
「いやああああ!!!!! おっっふ!!」
絶叫と共にナタリーは気絶した。
その時、第二王子ヘーケは悟り始めた。
(ま、まさかそういうことか?)
ヘーケはただ驚いているアイスィを見ている。
ナタリーの絶叫により、賑やかな社交会の話し合いが止まる。そして社交会の視線が一斉にアイスィ達に集まっていく。
アイスィはキーラとキャメロンに近づく。
「君達、どういうことだ? この子は、なぜ倒れたのだ? この子の名前、確か子爵令嬢ナタリーだよな? 君はキーラとキャメロン……」
アイスィが近づいてきて、他の少女二人も限界だったのだろう。
「「いやああああああああ!! おっふ!!」」
少女達は絶叫を上げて気絶。その瞬間、少女達のそれぞれの護衛が現れてくる。
彼等は凄まじい剣幕でアイスィを睨み、無言のまま乙女を抱えて去って行った。
泣きそうになるアイスィ。
ヘーケはアイスィの肩に手を置いた。
(そういうことかよ。マジかよ。アイスィ・ブリュナック……イケメン過ぎて、逆に恋愛の難易度が上がるなんて、ありえるのかよ)
ヘーケは苦笑しながら強く眉を顰めたまま、配慮の言葉を投げかける。
「お前は悪くないよ、アイスィ」
「ヘーケ王子……俺、そんな嫌われるようなこと、しました?」
「罪な男ではあるのかもしれない」
「!」
あろうことか、アイスィまで倒れてしまった。
第二王子ヘーケは自分の頭を抑えながら衛兵を呼んで、アイスィを王城の療養室へと運んだ。
王城の療養室。
アイスィは、目を覚ました。
「う……ここは」
彼にとっては見知らぬ部屋だった。
うとうとした意識だが、、彼の耳には声が聞こえている。
「すまないな。公爵夫人ともあろうものが、こんな損な役を」
「いいですって。噂のアイスィ・ブリュナックを間近で見れるなんて、楽しみですわ」
片方は第一王子の声。もう片方は――公爵令嬢シエリア・バレッド、二十歳の声。バレッド家は公爵家だが男爵のブリュナック家と軍事を二分するライバルの家系だ。
「うぅ……ヘーケ王子」
アイスィが柔らかいソファから身を起こす。
その声に、ヘーケとシエリアは気付いた。
「おぉ、気が付いたか、アイスィ。お前ちょっと休んでいけ」
「ヘーケ王子、俺は、俺は」
謝罪をしたい――ただ、その一心だった。だが、ヘーケはすたすたと出入り口の扉を開けた。
「そのシエリアさんなら、俺のお気に入りの貴族だ。恋愛経験豊富でコミュ力も高い。だから、お前の笑顔を見てもどうもならない」
「え」
アイスィは意味が分からずポカンとした顔になる。
シエリアはアイスィにニコリと笑いかけた。
「じゃ、そういうことだ。アイスィ、シエリア。また今度な。俺、社交会で色々挨拶しなきゃいけないから。第二王子って役割を果たさないと」
ヘーケは扉を閉めて、社交会場に行ってしまった。
療養室のベッドに、アイスィとシエリアだけが残された。
「シエリア様……」
「アイスィ、貴方……社交会で何したの? 人が嫌がることしちゃだめよ? 訳があったなら、ちゃんと言ってちょうだい」
シエリアは柔らかな笑顔だが微かに批判の心が瞳に混じっている。
アイスィは虚ろな目で首を振る。
「何も、何もしてません。しいて言うなら、笑いかけただけで」
「俯いてないで、もっとあたしの目を見て話しなさい」
シエリアはクイっとアイスィの顔を両手で固定する。
シエリアのベージュの瞳と、アイスィの水色の瞳が見つめ合う。
「アイスィ……貴方って本当に綺麗な顔ね。思わず嫉妬しちゃうわ。神様って不平等なくらい人間の造形を分けるのね」
「う、嘘つかないで下さいよ。俺の顔を見て、皆悲鳴をあげるんです。俺がブリュナックだからか、俺の笑顔が変だから」
「そんなことないわよ。仮にそうだとしたら、バレッド家総出でそんなはしたない真似をした奴を潰してさしあげますわ」
「ほ、本当ですか?」
アイスィは目を大きく見開く。
シエリアはニッコリと笑った。
「えぇ。東のブリュナックと西のバレッド。この二つの家が手を組めば、どんな貴族だって貴方を虐めたりなんかしませんわ」
「あ、ありがとうございます」
シエリアはアイスィをぎゅっと抱く。
それに抱き返すアイスィ。
アイスィに下心などない。だが、シエリアは違った。
(ふふふ、こんなイケメンを独占できるなんて、公爵令嬢に生まれて良かったですわ)
彼女は内心、役得だとすら考えていた。
「アイスィ・ブリュナック。心は落ち着いた?」
「はい。ありがとうございます」
アイスィは笑顔をシエリアに向ける。爽やかなその笑顔の破壊力は、百戦錬磨――恋多き女性と言われたシエリアの想像を遥かに超えていた。
キュン。
シエリアの心臓が跳ね上がる。
(あ、あれ……何この子、十五歳、よね。あたしより、五歳下の子供……。なのに何で私、こんな気持ちに、なって……)
違和感に気付いた時には遅すぎた。
アイスィはニコリ、と笑う。
「おっふ!!!!」
「!?」
公爵夫人シエリアは不意を突かれ、赤面して倒れた。
「シエリア様、シエリア様ぁああああ!」
アイスィはむせび泣きながらシエリアに近づく。
それを見ていた金髪碧眼の女騎士が、応援を呼んでシエリア・バレッドは介抱され――アイスィは国王に呼び出された。
王城の大広間。
国王は頭を抱えながら、おどおどするアイスィ・ブリュナックに告げる。
「アイスィよ、呼び出された理由は分かるか?」
「その、原因は分かるのですが、理由はさっぱり解りません」
はぁ、と溜息して国王は話を続けた。
「あー、アイスィ・ブリュナック、お主は社交界にあまり出ないで貰えるか?」
「……国王陛下、どういうことでしょうか?」
これは禁止ではなく、自粛せよということだ。しかし、国王自ら呼び出して参加自粛を促すなど前代未聞の大事だ。
アイスィは目を大きく見開き、国王を見る。
「色々と、困るのだ」
「国王陛下、どういうことでしょうか?」
「お主のことを嫌いな貴族が多数いてね」
「私を、ですか?」
「あぁ」
アイスィは記憶を辿る。
悲鳴をあげてきた乙女の数々を彼は思い出した。
「その、私の何がいけなかったのでしょうか?」
「察してくれ、分かるだろ?」
「――」
国王は溜息をつく。
アイスィは国王を崇拝しているわけではないが、嫌悪など全くしていない。
アイスィとしては、国王に『分からず屋』と扱われているのを辛いとすら感じた。
「……余も言い辛いのだが。分かってくれ」
(何も、何も分かりません……誰か、説明して下さい!)
アイスィは国王に命じられた衛兵に誘導され、王城を出ていく。
そのままアイスィは泣きながら馬車に乗り込み、東の国境近くにある実家まで帰って行った。
彼が自分の笑顔が乙女の胸をオーバーアタックしていたと知るのは、当分先の話である。
王城の大広間。
アイスィ・ブリュナックが去った後、第二王子ヘーケがやって来た。
「父上。アイスィはどんな様子でしたか?」
国王は第二王子に溜め息混じりで答える。
「かくかくしかじか。察しろと言ってもとぼけおったわ」
「父上、それは違います」
国王は自分の息子をまじまじと見つめた。
国王は間違いを犯すことはあっても、傾聴性を失う人間では無かった。
「アイスィ・ブリュナックは天然もので、マジで自分がモテるって思ってない。それどころか、イケメンだとさえ理解してない節がある」
国王エイブラハムは衝撃の余り、口と目を大きく見開き、玉座から立ち上がった。
「何、真か!? ……いや、有り得ないだろ」
「マジです」
「……し、信じられぬ。鏡を見れば一番美しい顔があるだろ」
「それをまるで分かってないんです」
ポカンとする国王は、次の瞬間、頭を抱えだした。
「イケメン過ぎて、社交会立ち入り禁止なんて言ったら……前代未聞だ! 諸外国には笑われ……ブリュナック家に各家の令嬢が殺到するわ!」
「でも直接言わないと、多分彼は分からないでしょうね」
「……はぁ。ブリュナック家とは仲良くしたいのだが……あぁ、どうすれば良いのだ!」
国王は頭を抱えて溜息をつく。
王子は大広間から窓越しに外を見る。
アイスィが乗る馬車が、王都を離れて行くのが窓越しに見える。
「まぁ、また言う機会はあるでしょう。社交会があるのは王城だけではありませんし」
ヘーケはけたけた笑って、窓から馬車を見えなくなるまで笑顔で眺め続けるのだった。
(また来い、アイスィ・ブリュナック。お前は俺の友達だ!)
ここまで読んでくれてありがとうございました!
弁財院雪華は今回出てませんが、アイスィ・ブリュナックを相棒にして長編としてその内リライトする予定です。
自分は作風が極端に揺れるのですが、「ほのぼの炎」という作者名の時はこんな感じの作風で書いていきます。