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立ち向かう理由

 俺はごく普通の村に生まれた、平凡なクソガキだった。


 魔法なんて脱ぎ捨てた靴下ぐらいどうでも良かったし、冒険者は遠い国のハナタレ王子の家来か何かかと思っていたぐらいだ。


 ある日、人間の三倍はある巨大なモンスター、トロールの群れが俺たちの村に迫っていた。


 母は家財道具を抱えて家から飛び出し、父は村の老人たちを背負って高台へと避難しようとしていた。


 そんななか、全身の穴という穴から好奇心が噴き出しているようなクソガキの俺は、両親の目を盗んでトロールの群れを見ようと駆け出す。


 幼馴染のエリオットを連れて、逃げ惑う村人たちの流れに反するように進んでいく。


 その先では赤いマントをなびかせた鎧戦士が、二刀の大剣を持って佇んでいた。


「おっさん! あんたは逃げないのか!」


 怖いもの知らずのクソガキは言った。


「ああ、俺たちは冒険者だからな! ときに探索をし、人々の生活を豊かにするアイテムを見つけ出し、ときにモンスターどもと戦闘をし、人々の生活を守るのさ!」


 名も知らぬ冒険者の男はそう答えた。


 それから、彼は仲間たちとともにトロールの群れに果敢に挑んでいった。


 もはやトロールの姿などには興味が湧かなかった。


 それほど目の前の冒険者たちはカッコよくて、クールで、憧れの存在になったんだ。




     ◆

 ああ、なんで今思い出したのかな……。


 少年時代、トロールの群れから村を守り抜いた冒険者たち。


 あの出来事のせいで、俺は今も冒険者という夢に呪われている。


 でも、あの出来事のおかげで、今誰かのために走ることができている。


 ブリザード・ドラゴンを追い抜き、森の近くの村へと到着した俺は、肩で息をしながらも取り残された村人がいないか周囲を見渡した。


「おばあちゃん、はやくッ!」


 村人の少女が老婆の手を引き、民家から出ようとしていた。


 老婆は足が悪いのか、杖をついていた。


 他にも残っている村人たちは大勢いる。


「父さんの形見だけでも取りに戻らないと!」「あんた、そっちは危ないよ!」「うわぁああっぁ! もう終わりだぁ!」「父さん、どこ行くの!?」「少しでも俺が時間を稼ぐ!」「きゃぁあぁあぁぁ――――っ!」


 少しでも生活の足しになるように家財を持ち出そうとする者、状況を飲み込めずにパニックに陥る者、泣きだす赤子、そして――。


 あの日の俺のように、モンスターを一目見ようと人の流れに逆らう子供がいた。


 振り返ると、ブリザード・ドラゴンは村の入口付近まで到達していた。


 冷気を帯びた口元は、いつでもブレスを吐ける状態であることを示している。


「アキトさん!」


 フェリカは俺の後を追いかけてきたようで、しかし息切れすることなくハッキリとした言葉で俺の名前を呼んできた。


「この村を守るんですよね。私にも手伝わせてください」


「フェリカ……」


「私も、アキトさんと同じなんです」


 彼女はそう言うと入口まで歩みを進める。


「聖女として、昔から信仰の対象になっちゃったりして。でも私は何もしていなかった。信じられるがまま、祈られるがまま……それが嫌になって冒険者になったんです」


 ギュッと胸元で両手を握り、フェリカは続けた。


「誰かの救いにはなれたかもしれない。でも私自身が誰かを“救った”ことは無いんです」


「それがフェリカの願いか」


「はい。私はもう、いるだけの存在じゃない。ちゃんと冒険者として、人の役に立ちたいんです。だからアキトさんに止められても、私は戦いますからっ!」


「正直、ありがてぇよ。情けない話、俺一人じゃ回復しかできねぇからな」


 まぁ回復役一人で何ができるって話だったんだ。


 彼女の存在がなければ、きっと俺は蛮勇の末に死んでしまっただろう。


聖女(わたし)と組んだら、あなたの拳は最強ですからっ!」


「最強、ねぇ……」


 ブリザード・ドラゴンのHPは非常に高いらしい(正確な数値は分からないが、だいたい4000ぐらいと言われている)。


 俺の《回復魔法:ヒール》の回復量は500で、消費MPは10だ。


 そのまま反転してダメージが500とすれば、ブリザード・ドラゴンを倒すのに最低でも8回は殴る必要がある。


 残りMPは80――おいおい、ちょうど8回分だぜ。


 一発も外せねぇな。


「ねぇ、おっさんは逃げないの?」


 俺の背中に問いかけてくる幼女の声が聞こえた。


 まだ俺はおっさんじゃねぇって……と言いたい気持ちを抑え、俺はこう返事した。


「ああ、俺たちは冒険者だからな! ときに探索をし、人々の生か――」


「こら! アキトさんはおっさんじゃないですよっ! お兄さんです!」


 おい、聖女。


 幼女は俺のセリフを最後まで聞くことなく、ウンと頷いて立ち去って行った。


「……ったく。んじゃ行くか……!」


「はいっ!」


 俺とフェリカは、逃げ惑う村人を背に、空を覆い隠さんほど巨大なブリザード・ドラゴンへと向かっていった。

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