嫌な再会と異常事態
感動のシーンに水を差してくる人間は最低だと思う。
逆説的に言えば、最低な人間は感動のシーンに水を差してくるのだ。
「……チッ、アキトか」
エリオットは眉間にしわを寄せながら、舌打ちを重ねてきた。
彼の後ろには俺の所属していた冒険者パーティー〈闇夜の牙〉の面々がいる。
「ねぇ、追放された奴がなんでまだ冒険者やってんのよ」
そう言ったのは赤髪ショートカットの槍使いの少女、リンダだ。
彼女は闇夜の牙のナンバー2で紅一点。実力は言わずもがな、その優れた容姿はパーティー内の男性からの評判が非常に高い。
が、俺のタイプではない。
パーティー内の男をとっかえひっかえしているの知ってるし……。
「マジで他の地域に行ってくれないかしら? 弱いくせにウチのパーティーに居座ってた童貞がいる冒険者の店じゃ、美味しい酒が飲めないでしょ」
こいつ、俺のスキルを馬鹿にしやがって……。
俺だって好きで童貞なわけじゃねぇよ。
「まーまー。問題はソロでやってないってことでしょ。誰、この可愛い子チャン? お前みたいな奴が、どこで引っ掛けてきたんだよォ」
フェリカを指さしてニヤいているのは、魔法使いのグリンデだ。
魔法使いのくせに黒い鎧を着ているのは、エリオットに憧れたからだと俺は知っている(酒の場で聞き出してやった)。
「お前には関係ねぇだろ」
俺はグリンデとフェリカの間に入って、彼を睨みつけた。
「関係アリよ、大アリよォ! 俺は今からこの子の部屋の番号を聞こうとしてんだからなァ!」
基本的に冒険者は移動が多いため、宿暮らしが多い。
だから冒険者同士で“男女の交友”を深めたいなら、相手の部屋番号を聞く。
そんな文化があるらしい。
俺? やらねぇよ。やってたら、童貞じゃねぇよ。
「で、どこの宿のどの部屋なんだい、お嬢ちゃん?」
「えっ、えっと……」
フェリカは戸惑っている様子だ。
こういう輩に絡まれた経験がないのだろうか……俺はグリンデを止めようと手を伸ばした、その時だった。
「リーフの宿2階の、18号室ですっ!」
答えた!?
「それで、その情報はなんに使うんですか! 贈り物くれるんですか!? それなら白米がいいです! でも食べ物なら基本的に何でも大歓迎ですっ!」
教えた後に用途を聞くなよ。
忘れていたぜ……フェリカはめちゃくちゃ良いヤツだが、知力は1だってことを。
「へっへっへ……」
「グリンデ。やめろよ、マジでやめろよ。こいつは無垢でバカなだけなんだよ」
「あぁ!? 黙ってろよ、クソ雑魚が。俺はお前と違って遠距離魔法が使えるんだからな? 落ちこぼれのお前なんか、一方的にボコれるんだぜ?」
「喧嘩腰とは恐れ入ったぜ。お前の腰は、卑しく振るためだけにあるのだと思ってたよ」
一触即発のなか、後ろのほうでアワアワしているのはローブの少年だった。
24の俺よりも一回り若そうな顔立ちだ。新入りか。
俺が抜けた穴を埋めるために加入した回復役なら、頑張れの一言ぐらいかけてあげたほうが良さそうだが……。
この雰囲気だ。無理である。
「おい、グリンデ。こんなところで油を売っている時間はない。これから難易度Sのダンジョンに向かうところだろう」
「なぁおい、ちょっとお前さっきから偉そうだなァ!」
グリンデはエリオットを睨み、その言葉を吐き出した。
おい、こいつエリオットに憧れていたんじゃなかったのかよ。
「最近よォ。効率だの、依頼の質だの、口うるさく言いやがってよォ……」
「Sランクを維持するには必要なことだ」
「うるせぇ! 俺の私生活まで縛りやがって! 俺がいつどの人妻と寝ようが関係ねぇだろ!」
こいつ人妻とも寝てんのか。羨っ、クソ野郎が!
「男女関係の悪評はギルドの査定に関わる。やめろと言ったらやめろ」
「オイオイ、聞いたか? こいつメンバーのプライベートにまで干渉してきやがったぜ?」
どうやらエリオットの態度は俺に対してだけではなかったらしい。
女性関係でトラブルをよく起こすグリンデも、そのうち追放されそうな勢いだ。
まぁともかく。
今の俺には関係のないことだ。
「……フェリカ、今のうちに立ち去ろう」
「は、はい……」
俺は討伐したゴブリンからドロップしたアイテム(依頼達成の証明にするため必要)である、ゴブリン鉱石を4つ回収し、その場から立ち去ろうとする。
その時だった
大気が揺れ、轟音が森全体に響き渡る。
冷気が俺たちを飲み込み、猛獣じみた雄叫びが周囲を震わせた。
「あれは……」
ふとフェリカが指さした先――木々が立ち並ぶ森を抜けた先に、青い巨影が降り立つ。
その巨影は冷気を帯びており、ボロボロの翼を閉じて、森の近くにある村まで四足でゆっくりと前進を始めた。
「ブリザード・ドラゴン!?」
雪山に生息する氷竜が、なぜか全然関係のない森に出現し、村を襲おうとしていたのだ。
読んでくださり、誠にありがとうございます!
少しでも「面白い!」や「続きを読ませて!」と思いましたら、
《ブックマーク》と、広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、どうか応援よろしくお願いします!
また作品に対するご意見、ご感想もお待ちしております!