ゴブリン討伐、その1
《ゴブリン討伐》
依頼レベル:5(適正冒険者ランク:E)
目的地:シイの森南部
依頼内容:毎年5月~6月になると、ゴブリンたちが南下してくる。
放置すれば村に被害を及ぼしかねないので、4体ほど討伐して欲しい。
報酬金:2000G
報酬の2000Gは一般的家庭の一ヶ月の食費相当だ。そう考えると冒険者は意外と儲かる仕事に思えるが、体が資本なため食費は一般人の二倍以上かかるし、武器や防具の新調などでも金が飛ぶ。依頼に失敗したら赤字は確実。
ハイリスクハイリターンな仕事なのだ。
「それでも全盛期の俺たちは一ヶ月で100万Gは稼いでいたかな」
「ってことは贅沢し放題だったんですね! 凄いです、Sランク冒険者パーティーって!」
「ま、贅沢しすぎたせいで、今貯金がないんだけどな……」
思えば無駄遣いが過ぎたと思う。気をつけよう。
そんな過去の栄光と反省点を語りながら、俺たちはシイ森の中を進んでいく。
「フェリカはどうだったんだ? 話しにくかったらいいけどさ……」
「私は……聖女というか、レアドロップのスキルがあったから「居るだけでいいから、戦闘にはあまり参加しないで」って言われてました」
「……後方支援、ってわけでもないか」
「そのうち私がいてもいなくても、レアドロップの確率がそんなに変わらないと分かった瞬間、追い出されて……」
「マジかよ。いくらなんでも酷すぎんだろ!」
「でも私、それ以外に取柄がないのでっ!」
フェリカはギュッとローブを握りしめ、悔しさを押し殺し、笑顔を作った。
「マインドハピネスは使いようによっちゃ、人の緊張を和らげたりできる凄い魔法だ! それに概念反転なんて、回復役じゃない奴も回復できるようにできるってわけだろ? 凄いじゃないか!」
「アキトさんは分かっていると思いますが、冒険者パーティーはあらかじめ役割が決まっています。戦闘中に役割をチェンジすることは、そうそうあるシチュエーションじゃないですよ」
「……たしかにそうだが」
悲しいが彼女の言うとおりだ。
ダメージが回復に置き換わったところで、攻め手が一人減るだけである。普通の冒険者パーティーでは絶対に使われないだろう。
「それにダメージを回復に置き換えたとき、回復の威力が10分の1になるんです。多分、置き換える際に数値が調整されているんだと思いますが……だから、あまり使ったことないんですよ」
「フェリカ……」
「大丈夫ですっ! こう見えても前衛できるように、武器を買って練習もしたんです!」
フェリカは腰に提げていたメイスを両手にとって、満面の笑みで俺に見せる。
彼女の筋力は平均レベルだが、【敏捷】が非常に高かった。普通の魔法が使えずとも、前衛として最低限の仕事はできるかもしれない。
だが、それでも普通の魔法が使えないことは、大きなディスアドバンテージだ。
前衛だって魔法で自分にバフをかけて殴りに行くし、物理が効きにくい相手なら至近距離で魔法攻撃を行ったりもする。
それだけ魔法は万能なのだ。魔法を身に着けていない冒険者はいないぐらいに。
「そのことなんだが――」
俺はフェリカのステータスを見て、ある可能性を考えていた。
もしかすれば彼女の魔法をフルに活かせるかもしれない、そんな可能性を……。
しかし俺がそれを語る前に、背の高い木々の上に気配を感じ、
「フェリカ!」
俺はフェリカを押し倒して、その場に転がり込んだ。湿った土が背中につく。
その次の瞬間、俺たち立っていた地面に小斧が刺さる。
「ゴブリンだ。こんな人里に近い場所に現れるなんて……」
気配の数からして敵は4体程度の小群規模か。
奇襲に小斧を投げて使ってくるあたり、弓矢のような遠距離武器は無い可能性が高い。
木の上にいる2体は目視で確認した。
そして柔らかい。
ローブを羽織っているので今まで気づかなかったが、結構あるぞ。大きいぞ。
「なっ!?」
俺の右手はフェリカの胸を、ローブ越しに掴んでいた。
「す、すまん!」
「いえ! 今は緊急事態なので気にしませんよ!」
そんなこと言うな。緊急事態のたびに考えてしまいそうだ。
「ど、どうしましょう……」
「ちょうどいい。さっそく実戦といこうじゃないか」
俺はフェリカを起こしつつ立ち上がると、両腕の感覚を確かめた。
よし、やれる。万全の状態だ。
むしろ右手は機嫌がいいぐらい。
「フェリカ。俺がお前の可能性を引き出してやる!」
「えっ……私の!?」
「ああ。今からこいつらを、フェリカの聖女魔法と、俺の回復魔法でブッ倒すぞ」
俺たちの目の前は、木々から降りてきたゴブリンや、茂みから出てきたゴブリンで溢れていた。
全部で4体……少々キツいが、やるしかない。
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