表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/19

聖女との出会い

【第2話】

 俺は冒険者の店の酒場にて、この世が終わる5分前みたいな顔でエールを飲んでいる。


 すでに7杯目。


 アルコールが全身の血管に染み渡ってきた頃だ。


 しかし意識はハッキリある。思考も嫌味なぐらいクリアだ。


 今日ばかりは無駄に頑丈な肝臓が恨めしい。


「くそ……エリオットの野郎、マジで追放処分にしやがって……ぇ!」


 冒険者の店の依頼ボードにはSSS〜Fランクの依頼がズラっと貼られている。


 その横に『Sランク冒険者パーティー情報:闇夜の牙からアキト・ルーベル追放処分』と書かれた貼り紙が、ピンで留められていた。


「これじゃあ、次のパーティー見つけられねぇじゃねぇか……」


 誰もパーティーを追放された人間を迎え入れたいとは思うまい。信頼が完全に消え去った。


 こうなれば、もうこの冒険者の店に居場所はない。


 しかも悲しいことにSランク冒険者パーティーゆえに有名で、他の冒険者の店にも噂が広まっている可能性が高かった。


「ああ、俺の冒険者人生終わった……」


 いっそ酒に「殺してくれ」と嘆願したいレベルだ。


 そんな時だった。


「聖女が! 聖女がゲロ吐いたぞ!」「おいマジかよ、ありがてぇ!」「聖女ってゲロにも魔力入ってんだな……」


 人々の声と、盛大になにかがぶちまけられた音がした。


 振り返ると、ジョッキを片手に持った金髪の少女の口から、虹色の光を放つ吐瀉物が滝のように流れ落ちているではないか。


「オボボボボボボ……」


 青いローブを羽織っていることから、後衛の魔法使いだろうか。


「聖女……ねぇ」


 聞いたことがある。たしか聖なる加護を受けた人間で、桁違いの魔力を有するとか。


「はっ……おっ、うっ、ぶっ……」


 飲み過ぎたのだろう。


「うっばぁっ!」


 やがて体内の聖なるゲロを全て吐き出すと、そのままブッ倒れた。


「誰か連れてけよ」「俺たちこれから依頼だし……」「てかどこのパーティーの奴だ?」


 この世界は思った以上に薄情な人間で溢れているようだ。


「俺が介抱しておくよ。今日は依頼もなく、暇してんだ」


 俺は聖女を抱え上げた。そして近くの長椅子に寝かしてやった。


 そういえば、Sランク昇進祝いのときも、こうして酔っ払ったエリオットを介抱したっけな……くそっ、あいつの顔を思い出しちまったじゃねぇか。


 エリオットへの怒りを思い出しながらも、周辺の清掃を一通り終え、気を失っている聖女の元に戻った。


 なにか理由があってヤケ酒をしていたのだろう。


 デカい依頼に失敗したか、もしくは大失恋でもしたか。その両方か。


「さて、これからどうするか……」


 酔いもすっかりさめたところで、俺は今後の活動について真剣に考え始めた。


 通常、追放処分を受ければ悪名はすぐさま広がっていき、その地域一帯では冒険者稼業ができなくなる。


 かといって活動拠点を移したところで、悪名が風に乗ってついてきたりすることもあるらしく、最終的に引退を迫られる者も少なくない。


 もう諦めようか。


 結局はガキの頃の憧れを忘れられずに、向いていない世界に飛び込んだようなものだ。


「……ここは?」


 そんなことを考えていると、聖女は目を覚まし、透き通った碧眼で天井を見つめる。


「破滅思考で酒は飲むもんじゃねぇぜ。俺も人のことは言えねぇが……」


「私……うっ……吐いちゃってました?」


「盛大にな。まぁ大丈夫さ。臭くなかったし、触ったらMP回復したし……」


「うぅっ……恥ずかしい……気をつけます、これからは……」


 聖女は起き上がり、赤らめた顔を背けた。


「介抱してくれたのですね……あ、ありがとうございます!」


「いいんだって。俺、酒に強いぶん、昔からパーティー内の酒馬鹿どもの世話を押し付けられてたし……。あんた、名前は?」


「私、ですか? フェリカ……フェリカ・イサク、です」


「俺はアキト・ルベールだ。いちおう冒険者やってるが……」


「アキトって、闇夜の牙の回復役の!?」


「あー……そーだった、が……」


 俺は依頼ボード横の貼り紙に視線を向けた。


「闇夜の超有能な回復役はもういないよ。ご覧の有様さ」


「すみません! そうとは知らず……」


「いいんだ。それよりも早く離れたほうがいい。追放処分になった男なんかと一緒にいたら、変な噂が流れて、新しい彼氏もできなくなるぞ」


「新しい恋人? なんの話です?」


「え、違うのか……ヤケ酒してた理由」


 俺のなかで主流だった〈可愛い子にはイケメン冒険者彼氏がいるから期待するな派〉は勢いを失い、代わりに〈中にはフリーの子もいるはずだ派〉が急速に勢力を拡大し始めた。


「それがですね……」


 フェリカは俯いてしばらく考え込むが、意を決したのか顔を上げて、水晶のように輝く大きな瞳で俺を見つめた。


 やめろ惚れてしまう。


「私も追放されてしまったんです! だから、その! 追放された者同士、パーティーを組みませんか!?」


 諦めかけていた冒険者の道に、一筋の光が差し込んできた。

 読んでくださり、誠にありがとうございます!


 少しでも「面白い!」や「続きを読ませて!」と思いましたら、

《ブックマーク》と、広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!

 評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、どうか応援よろしくお願いします!


 また作品に対するご意見、ご感想もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] どうして聖女のゲロを浴びないんですか!(過激発言) [一言] 面白いです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ