聖女との出会い
【第2話】
俺は冒険者の店の酒場にて、この世が終わる5分前みたいな顔でエールを飲んでいる。
すでに7杯目。
アルコールが全身の血管に染み渡ってきた頃だ。
しかし意識はハッキリある。思考も嫌味なぐらいクリアだ。
今日ばかりは無駄に頑丈な肝臓が恨めしい。
「くそ……エリオットの野郎、マジで追放処分にしやがって……ぇ!」
冒険者の店の依頼ボードにはSSS〜Fランクの依頼がズラっと貼られている。
その横に『Sランク冒険者パーティー情報:闇夜の牙からアキト・ルーベル追放処分』と書かれた貼り紙が、ピンで留められていた。
「これじゃあ、次のパーティー見つけられねぇじゃねぇか……」
誰もパーティーを追放された人間を迎え入れたいとは思うまい。信頼が完全に消え去った。
こうなれば、もうこの冒険者の店に居場所はない。
しかも悲しいことにSランク冒険者パーティーゆえに有名で、他の冒険者の店にも噂が広まっている可能性が高かった。
「ああ、俺の冒険者人生終わった……」
いっそ酒に「殺してくれ」と嘆願したいレベルだ。
そんな時だった。
「聖女が! 聖女がゲロ吐いたぞ!」「おいマジかよ、ありがてぇ!」「聖女ってゲロにも魔力入ってんだな……」
人々の声と、盛大になにかがぶちまけられた音がした。
振り返ると、ジョッキを片手に持った金髪の少女の口から、虹色の光を放つ吐瀉物が滝のように流れ落ちているではないか。
「オボボボボボボ……」
青いローブを羽織っていることから、後衛の魔法使いだろうか。
「聖女……ねぇ」
聞いたことがある。たしか聖なる加護を受けた人間で、桁違いの魔力を有するとか。
「はっ……おっ、うっ、ぶっ……」
飲み過ぎたのだろう。
「うっばぁっ!」
やがて体内の聖なるゲロを全て吐き出すと、そのままブッ倒れた。
「誰か連れてけよ」「俺たちこれから依頼だし……」「てかどこのパーティーの奴だ?」
この世界は思った以上に薄情な人間で溢れているようだ。
「俺が介抱しておくよ。今日は依頼もなく、暇してんだ」
俺は聖女を抱え上げた。そして近くの長椅子に寝かしてやった。
そういえば、Sランク昇進祝いのときも、こうして酔っ払ったエリオットを介抱したっけな……くそっ、あいつの顔を思い出しちまったじゃねぇか。
エリオットへの怒りを思い出しながらも、周辺の清掃を一通り終え、気を失っている聖女の元に戻った。
なにか理由があってヤケ酒をしていたのだろう。
デカい依頼に失敗したか、もしくは大失恋でもしたか。その両方か。
「さて、これからどうするか……」
酔いもすっかりさめたところで、俺は今後の活動について真剣に考え始めた。
通常、追放処分を受ければ悪名はすぐさま広がっていき、その地域一帯では冒険者稼業ができなくなる。
かといって活動拠点を移したところで、悪名が風に乗ってついてきたりすることもあるらしく、最終的に引退を迫られる者も少なくない。
もう諦めようか。
結局はガキの頃の憧れを忘れられずに、向いていない世界に飛び込んだようなものだ。
「……ここは?」
そんなことを考えていると、聖女は目を覚まし、透き通った碧眼で天井を見つめる。
「破滅思考で酒は飲むもんじゃねぇぜ。俺も人のことは言えねぇが……」
「私……うっ……吐いちゃってました?」
「盛大にな。まぁ大丈夫さ。臭くなかったし、触ったらMP回復したし……」
「うぅっ……恥ずかしい……気をつけます、これからは……」
聖女は起き上がり、赤らめた顔を背けた。
「介抱してくれたのですね……あ、ありがとうございます!」
「いいんだって。俺、酒に強いぶん、昔からパーティー内の酒馬鹿どもの世話を押し付けられてたし……。あんた、名前は?」
「私、ですか? フェリカ……フェリカ・イサク、です」
「俺はアキト・ルベールだ。いちおう冒険者やってるが……」
「アキトって、闇夜の牙の回復役の!?」
「あー……そーだった、が……」
俺は依頼ボード横の貼り紙に視線を向けた。
「闇夜の超有能な回復役はもういないよ。ご覧の有様さ」
「すみません! そうとは知らず……」
「いいんだ。それよりも早く離れたほうがいい。追放処分になった男なんかと一緒にいたら、変な噂が流れて、新しい彼氏もできなくなるぞ」
「新しい恋人? なんの話です?」
「え、違うのか……ヤケ酒してた理由」
俺のなかで主流だった〈可愛い子にはイケメン冒険者彼氏がいるから期待するな派〉は勢いを失い、代わりに〈中にはフリーの子もいるはずだ派〉が急速に勢力を拡大し始めた。
「それがですね……」
フェリカは俯いてしばらく考え込むが、意を決したのか顔を上げて、水晶のように輝く大きな瞳で俺を見つめた。
やめろ惚れてしまう。
「私も追放されてしまったんです! だから、その! 追放された者同士、パーティーを組みませんか!?」
諦めかけていた冒険者の道に、一筋の光が差し込んできた。
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