#04 土で手が汚れた
涼一≫通学路≫
ガチャ。
涼一「いってきまーす。」
先に出て行った一花の事を考えてみる。
きっと一花のことだ、怒らせてしまったが駅前のクレープ屋さんの、いちごと生クリーム、そしてチョコをトッピングしたクレープを食べさせればきっと機嫌も戻るだろう。
しかしなぜあそこまで怒っていたんだろう。
年頃の女の子は寝顔を見られたり、寝ている間に着替えさせられらることすら家族からは拒んでしまうというのか・・・。昔はこうじゃなかったのに。
昔はこうじゃなかったという考えがもう古臭くもあるけれど、僕から卒業していくその様が少し淋しくもある。
涼一≫妄想≫リビング≫
涼一「一花、洗濯物洗っといたよー。」
一花「・・・え、」
涼一「聞えたかー?洗濯物はもう洗い終わったから、今日はいい天気だしお昼過ぎには乾いちゃうかもなぁ。」
一花「や・・・やだ・・・・」
涼一「い・・・一花!?」
一花「お兄ちゃんと同じ洗濯物で私の下着洗わないでーーー!!!!!!!!!」
涼一「・・・。」
涼一≫通学路≫
と、なってしまったらどうしよう。
龍一「よっ!朝からしけた背中してんな。」
涼一「・・・あぁ、なんだ龍一か。」
龍一「あぁ、なんだとはなんだよ!こちとら早朝から親がバタバタ仕事だなんだってうるさくて寝れなくてなー。睡眠不足で逆にテンション高いんだ。」
涼一「そうか。よくもまぁ、こんなセンチメンタルな僕に話掛けてくれたな。」
龍一「で、その話を聞いてやろうと参上したわけなんだが。」
桜井「私もね。」
龍一「うぉ!桜井しずく!」
桜井「だからさ、私を見るたびにそのリアクションやめてくれない?しかもフルネームで。」
涼一「桜井さん、ありがとう。」
龍一「俺は!?」
涼一「うん、まぁ、ありがとう?」
龍一「何故疑問形になるんだ!」
桜井「話進まないから喋るなら 1 メートル先から話しかけて。」
龍一「どんだけ扱い雑なんだよ!大人しく聞いてやるから俺をちゃんと扱え。」
桜井「まぁ、許してやるか。で、日向君どうしたの?」
昨日の夜から今朝の出来事を振り返り、端的に伝える。
涼一「それで、今日僕は一人で登校しているって訳。」
桜井「ねぇ、妹さんって本当に涼一君のこと好きなんだね。」
龍一「俺が、何度それを伝えたと思ってるんだよ。」
桜井「?」
龍一「なぁ、涼一。一花ちゃんがもしお前の事本気で好きだったらどうする?」
桜井「(この馬鹿!こんな直球投げやがって!)」
少し考えて言うが僕の返答はいつも通り。
涼一「家族だもんな。やっぱり一生大事にしていかなきゃ。今のところ一花には僕しかいないけれど、いつかはあいつだって恋をして僕の想像のつかないところで幸せをきっと握りしめるんだろうな」
桜井「・・・。」
龍一「な、言ったろ?もう会話のベクトルが違うんだ。もう放っておくのが一番なのかもしれん。」
桜井「今回ばかりはあんたに同調せざるをえないわ。」
僕らはいつも早目に家を出る。それに対して一緒にいる二人は何故僕らと同じく、こんなに早い時間に登校しているのか。
涼一「今日、二人とも登校早くない?」
龍一「部室に荷物置きにな。久しぶりだから軽く部室で手入れしてやるかと思ってな。」
桜井「私はそれを夏河にやってもらおうと思って持ってきただけ。どうせ、観測日の一度学校に集まってそこからポイントへ向かう予定でしょ?なら今のうちに置いといてもいいかなって。」
涼一「そっか。僕も今度持っていくか。」
時計を見るといよいよ始業が始まってしまいそうな時間だった。
涼一「お前らー、始業の鐘との勝負だ。最後に教室についたやつ。ジュース一本ずつおごりなー!スタート!」
龍一、桜井「「えええええええええ!!!!」」
高見の見物をするように僕は言う。
涼一「早く来ないと遅刻した上にジュース奢らされちゃうぞー!」
ゴールは見えた、うちの教室のドアに手を掛けた瞬間。
ガタン。。。
膝を…落とした?
涼一「・・・あれ?」
一瞬、くらっとして、身体中の力が全て出なかった。少しずつ回復していくのは分かる。
いつの間にか目の前に立っている先生。
うわー、凄い目立っちゃってるよ、これ。
教師 A「日向、大丈夫か?」
桜井「先生、保健委員の私が日向君を保健室まで届けます。ただ、男子生徒一人運ぶのに私だけでは不安なので夏河君に同行してもらっても構いませんか?」
教師 A「あぁ、構わない。」
桜井「連れていったら、保健の皐月先生に指示を貰ってから戻ってきます。」
教師 A「わかった、日向を頼んだ。」
桜井「はい。」
涼一、桜井、龍一≫保健室≫
保「なんか、皆久しぶりね。」
そう言いながら必要なものを銀のトレーに並べて行く。そしてそれらを僕の膝の上に乗せて、軽く診察する皐月先生。
皐月先生の顔をここまで近くでみることがなかったのだが、大人の女性ってこんな顔してるんだと、こんな状況にも関わらず、子供ながらに思った。
保「私で分かる範囲では、特に何もなかったけど顔色悪いわね。「過労」っていうのが多分確実なことろかも。ねぇ、日向君。」
涼一「はい。」
保「二日寝ないで勉強とかすることある?」
涼一「テスト近いと、しばしば・・・。」
保「それ!それです!人間は寝ることによって頭の中を整理するのにも関わらず、寝ないということは、その分、脳の処理速度が落ちてしまっているのです。特にこれからのテストシーズンだったり、天文学部ならば観測対象も増えてくる時期でしょう。」
涼一「は・・・はぁ。。。」
保「だけれど、やめなさいと一言言って止めれるように聞き分けがいい生徒だとも思っていないので先生はこう言います。…なるべく寝てください。」
涼一「ありがとうございます。」
保「寝付けなかったり、寝れない日が続いたらすぐに相談すること。いいですね!」
涼一「はい。」
保「じゃ、日向君以外の生徒は教室に戻りなさい。日向君は今日一日就業まで寝ること。寝れなかったらお薬だしちゃうぞー♡先生は他の仕事があるので行きまーす!」
涼一「あ!先生待ってくださ…。あーあ、行っちゃったよ。」
さて、どうしたもんか。
原因はきっと僕の身体が死に抗っているからだと思う。きっとそうに違いない。
既に僕の身体はいつも通りに戻っているので、「教室に戻ってもいいかな」とも思う。しかし、戻った所で、桜井さんにまた保健室へと強制連行されそうだし・・・。
今日は一先ず先生の言う通りに寝とくか。
少し…疲れた…。