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glow heart -九月の向日葵-   作者: haruki
第一章 九月の向日葵 - 明日は夏を追い越して -
2/14

#01 ひまわりの種

涼一≫夢≫


4/10


気付いた時には既に腹部に強烈な痛みが走っていた。


生温かい、僕の体温そのものとしか言いようのない真っ赤な血が部屋中に飛び散る。

手を垂らせばぴちゃぴちゃと音を立てる程に滴っている。

何も考えられない。

彼女は僕を呼びながら、返り血も気にすることなく何度も刺し続ける。

それはまさしく、狂気としか言いようがない。


「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・・





大好き」





涼一≫自室≫


涼一「!?」


目を覚まして部屋中を見渡す。


涼一「・・・夢か。」


僕が事故にあってもう九日が経った月曜日。

出来事が出来事なだけに、どうすればいいか分からず、頑張って「いつも通り」を演じ続けた結果、日常を生きることにも疲れてしまった。


死んでいるのだけれど。


結果として、蓄積された疲労が爆発したように昨日はかなり早くの時間に就寝してしまった。

正直、就寝したらそのまま終身してしまうなんてことも有り得る・・・らしいが、そんなことになったら洒落にもならないだろう。


幸いにも、妹に刺されてグロッキーなあの映像は夢だったようだ。というか、夢でなくては困る。

あまりにショッキング過ぎる夢だったので、自分の事なのに客観視してしまった。


そして、そんな夢を見たあとだからこそ尚更思う。

僕、『日向 涼一(ひなたりょういち)』は妹に愛され過ぎている。

もう、いつか殺されてしまうのではないかと思うほどに。


というか、もう死んでいるけれど。


涼一「はぁ・・・。」


一息ついて夢の内容を振りかえる。


自分で言うのもあれだが、妹である一花(いちか)は本当に僕のことが好きだ。

兄妹である僕を、まるで異性に好意を持って近づくみたいに接する。

妹の将来が心配になってしまう。


時計を見る。四時五十分。起きるには早すぎる時間だけど、もう一度寝るのもなぁ。。。


よし。朝食でも作るか。



涼一≫洗面所≫


先ずは顔を洗う。


洗面台の前に立って顔を洗う。柔らかいタオルで顔を拭いたあと、顔が空気に触れる瞬間が心地いい。

鏡の前の僕と目を合わせる。


涼一「やっぱり・・・似てるな」


僕の両親は僕が四歳の頃に他界している。

思い出は色褪せても、あの頃見た両親の顔だけは忘れられない。

僕は僕を見て、目元、髪のクセや、歩き方のくせ、そんな親譲りな自分のひとつひとつのものから遠くに行ってしまった家族を身

近に感じる。


感じられるだけ、幸せなんだと自分に言い聞かす。



涼一≫リビング≫


涼一「・・・月灯り。」


まだ、薄暗い窓の向こうは月明かりがこの街を照らしてくれている。


涼一「・・・よし、作るか。」


場面展開なし≫1 時間後≫



カリカリに焼けたトースト。目玉焼き、薄切りのベーコンも軽く焦げ目がつくくらいに焼いてっと。

今朝はそんな僕好みの朝食が出来た。いつもなら起きてくる妹がまだ来ない。珍しく寝坊かもしれない・・・。


起しに行こうかな、


そう思った時、声が聞こえた。


一花「お父さん、お母さん、おはようございます。」


銀色の写真立ての中、微笑む二人の影。

彼女は両手を合わせて、朝の挨拶をしている。

朝陽が綺麗に差しこんでいて、それはとても神聖な行為のようにも見える。

僕に気付いた彼女はこっちを向いて優しく笑う。


一花「お兄ちゃん、おはようございます。」

涼一「おはよう、一花。」

一花「今朝はお父さん、お母さんにお話ししたいことが多くて遅くなってしまって…ごめんなさい。」

涼一「いいんだ。朝食、出来てるよ。」

一花「も、もう出来てるんですか!?びっくりぽん!」

涼一「・・・一花?」

一花「はい。」

涼一「今のは・・・、」

一花「『今の』というと?」


落ち着け、僕。

僕の妹、日向一花(ひなたいちか)は天然という部類の人間だ。


涼一「いや、なんでもない。」

一花「ふふ、変なお兄ちゃん。」


言いたいことは沢山あるけれど、この笑顔を見ていたらそんなもの吹き飛んでしまう。


一花「あ、お兄ちゃん、ネクタイが曲がってます。・・・よし、これで大丈夫です。」

涼一「ありがとう一花。朝食、冷める前に食べて。」

一花「はい、いただきます。」

涼一「はい、マヨネーズ。」

一花「ありがとうございます。」


マヨネーズをスクランブルエッグが見えなくなる程、かける。かける。かける。

見慣れているので、今までなんとも思っていなかったが、改めて見てみるとなにか思うことがある。


涼一「ほんと、好きだよな。」

一花「ふえ!?・・・朝からそんな見透かされるなんて思いませんでした・・・。」

涼一「マヨネーズ。」

一花「は!・・・ごめんなさい。」

涼一「何が?どうしたの??」

一花「いえ、スクランブルエッグ・・・おいしいです。やっぱり卵本来の味がしますね。」

涼一「いや、添加物すごいと思うけど。」


朝食は僕が、夕食は僕よりも帰りの早い一花が作る。これは僕らの生活スタイルが勝手に決めた暗黙のルールみたいなもの。

そして、僕と一緒に食べるこの瞬間が幸せなのだと、主張するように食べる一花を見るのは嫌いじゃなかった。


一花「ごちそうさまです」

涼一「一花の支度が出来たら出ようか。」


僕らはいつも少し早めに家を出る。

一花は人混みが苦手だ。人混みの中にいると気分が悪くなってしまう。


一花「・・・。」


一花は僕と話していると、たまにこう、なんていうのかな。ぼーっとする。

何か幸せそうな顔をしながら、気の抜けた顔をする。

時間があれば面白いのでそっとするけれど、朝はなにかと時間がない。だから、驚かすわけではないけれど、呼んであげるのが一番手っ取り早い。


涼一「・・・一花?」

一花「お!お兄ちゃん!!??」


一花は酷く大きな音を立てて尻もちをつく。


涼一「・・・。」


そんなに驚かせたつもりはなかったんだけどなぁ。

手を差し伸べてあげ、、、


一花「お・・・お兄ちゃん、ごめんなさい。こんなみっともない私で・・・。で、でもね、私、」

涼一「一花。」

一花「・・・はい?」


僕は指を指す。

一花ではなく、一花が転んだ時に落とした鞄・・・の・・・中身・・・


一花「あ、」


それは、僕の寝顔の写真。


涼一「『あ、』じゃない。いつ撮ったんだよ?」

一花「そ、それは最初に撮ったものだから・・・1年前くらいかしら?」

涼一「最初ってなんだよ!」

一花「は!」

涼一「はっとするな!」


ひょいっと写真を取り上げる。


一花「あぁ~!」

涼一「没収。」

一花「・・・はぁい。」

涼一「いつも、持ち歩いてるのか?」

一花「私だって女の子だもの。だから・・・

何か言いたそうな顔をするけれど、言えない、そんな表情をする。

一花「・・・家族の写真の一枚くらい持っておきたいもの。」

涼一「家族の写真と、女の子は何が関係あるんだよ。」

一花「気にしなくていいの!」


こんな一花の表情を見るのは初めてじゃなかった。

恋する女の子みたいな表情。

きっと一花も年頃の女の子だから、いつかは恋の一つでもするんだろうな。


一花「お兄ちゃん、行きましょ!」

涼一「うん。そうだね。」




涼一≫通学路≫


通学路を歩きながらふと、懐かしいことを思い出した。

あの日、父と母が不幸にも事故により他界してから、妹を守ろうと誓ったこと。それは僕の唯一の家族、大切な妹だから。

誰に何と言われても、例えどんなことがあって一花は僕が守る。

一般的な家庭のことは分からないけれど、僕は家族愛に飢えているのかもしれない。だから一花のほんの少しのことでも、僕は見逃したくない。家族を家族だと感じられる瞬間を、少しでも長く感じていたいから、毎朝通学の時間も合わせている。


ほんの十五分の道のりでも、僕には大事な時間なんだ。

父さんも、母さんも、僕らを見てくれてるかな。こんなに、仲良くできてるよって言えたらいいんだけど。


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