#00 多分僕も彼女も同じ空を見上げていた
涼一≫病院≫
4/1 16:08
この日にぴったり過ぎるエイプリルフールの嘘だと思えるような出来事が目の前で起きている。
医者「貴方の身体はもう死んでいます。貴方は、死んだまま生きているんです。」
涼一「はい?」
人間生きていれば色んな事がある。
始まりはいつも突然だし、終わりも突然だ。
だからこそ面白いと思える瞬間もあるけれど、そうとも思えない瞬間だって少なくない。
医者「えっと、なんとも申し上げにくいんですが日向涼一さん。貴方の身体は人間的な機能をしていません。」
涼一「えっと・・・あ・・・え!?・・・はい?」
医者「我々も正直、どう話したらよいのか分かりませんで。」
涼一「すみません、僕も突然の話だったので頭がついていけなくて。」
医者「いや、当然の反応だと思います。」
涼一「あの、僕の体は今どうなってるんですか?」
医者「先程申し上げた通りです。人間としての機能を果たしていません。」
涼一「それは具体的にはどういう事なんですか?」
医者「例えば、貴方の心臓は動いていないし、脈もない。代謝も行われていない、酸素を必要としていない。なので、貴方が呼吸として行っている行動は肺を動かしているだけなんです。」
涼一「え、えぇ。」
医者「一体どういう原理で身体が、もっと言えばその筋肉が動いているのかも分からないですし、なぜ体温が一
般的な男子高校生の平熱よりも少し低いくらいで保てているのかも分からない。こうして、私の声が聞こえてい
るのも、声が出るのも、目が見えているのだって本当に有り得ないことなんです。」
涼一「あの・・・、僕が今異常だというのは伝わりましたが、僕は今までとなんら変わらず、こうして生きています。」
医者「混乱されるかもしれませんが、医者として貴方にはっきりと申し上げます。」
涼一「・・・。」
医者「貴方の身体はもう死んでいます。貴方は、死んだまま生きているんです。」
と、このような診断が医師から下ったわけで。
話はその日の午前中にまで遡る。
涼一≫通学路≫回想≫
11:00
土曜日。今日は学校は休み。
だからといって色々と休むわけにもいかず、僕は一人で志望校であるところの桜季大学の過去問を買いに出掛けていた。
よく行く本屋だったので特に迷ったりもせず、買い物を終えて真っ直ぐ帰路に着く。
帰り道、横断歩道の前で親子が手を繋いで歩いている。
子供「ねぇ、お母さん今日ハンバーグがいいー」
母「じゃあスーパー寄って帰ろうね」
向日葵の飾りがついた麦わら帽子を被った少年。
優しそうに微笑む母親。
よくある日常のワンシーン。
でも、僕は悲しい思い出を重ねてしまう。
交通事故。
端的に言ってしまえば僕の両親は信号無視をしたトラックに撥ねられて他界した。
大人びた性格のせいか、両親と手を繋いで歩くことは滅多になく、両親のあとをついて歩いていた僕の目の前で起きた出来事だ。
幸いにも、僕はすれすれの所でトラックに当たることはなかったが、両親は即死だったらしい。
もう思い出しても仕方のないことだけれど、親子が手を繋いで歩いているところを見ると僕は後悔と思い出を重ねてしまう。
信号が青になる。
ここの横断歩道は歩いて 十秒も掛からずに渡りきることが出来る距離だ。横断歩道のほぼ中間地点に来たとき目の前にぼやけているようで、はっきりとそれは見えた。
向日葵の
花弁。
(車のクラクション、ぶつかる音、暗転)
涼一≫病院≫
そして、僕は今ここにいる。
僕は風に舞う花弁に気を取られて、死ん・・・だ?
医者「日向さん?聞いてますか?」
涼一「え、あ、はい。」
医者「もう一度言いますよ。」
涼一「・・・はい。」
医者「貴方の身体はもう死んでいるんです。ですから、いつ本当の意味で死んでしまうか分かりません。」
涼一≫病院前≫
定期的に通院を余儀なくされた後に、病院で「もう死んでるのにな」と思いながら会計を済ませる。
涼一「・・・。」
何で、僕は死なないんだろう。
心臓は動いていないし、血液も循環していない。
肺もただ、動かしているだけ。
全てが唐突過ぎて理解出来ない。
涼一「・・・僕は何で、生きてるんだろう。」
こうして僕はいつもの日常へと戻っていった。