表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/47

第37話 津波は待ってくれないもの

 ここはどこ?





 視界がぼやけて見える。両手を着いて、上半身を起こした。





「あ、起きた?」





 聞き覚えのある女性の声が聞こえる。





 うっ。頭がズキズキする。痛みのする所へ手を当てると、布みたいなのが巻かれていた。





「こ、これは……」





 私は、立ち上がろうとしたが、足が上手く定まらず、地面に手をついてしまった。





「だめだめ」





 女性はそう言いながら、私の方へ駆け寄り、肩を抱いてくれた。





「あなた、葵ちゃんよね?」





「はい。あなたは……確か……うっ」





 頭がズキっと痛む。





「大丈夫? 私は詩穂。この前はどうも。景とはうまくやってたみたいだね」





「あ、あいつは……」





「だめだめ、動かないで」





 詩穂は私の手を握った。





「葵ちゃん、あなた頭を打っていたみたいで、気を失っていたのよ」





「そ、そうだったんですか」





 詩穂は私の手を離し、リュックサックから、ペットボトルを取り出した。





「これ飲んでいいよ」





 そう言うと、私の手に置いた。





「ありがとうございます」





 私は蓋を開けて、一口飲んだ。水がすぅーっと喉を通った。胃に染み渡る。





「いい、起きて急で申し訳ないんだけどね。ここにいつまでもいるわけにはいかないのよ」





「ここはどこですか?」





 私は辺りを見渡した。どこかのお店だろうか。





「ここは何かの料理屋さんみたいだけど、たまたま開いてたから勝手に入っちゃったの」





 詩穂は笑っている。





「ま、それはいいとして、どうやら津波が発生したらしいの」





「津波?」





「そう。どうやら、その津波は想像を超えているらしくて」





「想像を超えている?」





「どうやら、千葉県の半分が地震によって沈んだという話。山という山がなくなり、遮るものがなく、東京を全て飲み込む程らしい」





「らしいって」





 私は納得いかなかった。





「私はこれで確認したから」





 詩穂はスマホを取り出した。





「これは衛星回線を利用しているから、日本の回線が死んでも、使えるの。それで絵理ちゃん。ああ、透哉君の友達と連絡を取って確認したってわけ」





 私は頷くことしか出来なかった。とりあえず、外部に連絡が取れるという事らしい。





「そういう事だから、早く高い所まで逃げなくちゃ行けなくて」





 詩穂は続けた。





「葵ちゃん。後5分経ったら、ここを出るから」





「わ、わかりました」





 動くなって言ったり、ここを出るって言ったり、全くもって忙しいこと。





 津波が東京を飲み込むとか、千葉の半分が沈んだとか、にわか信じられないけど。透哉君は無事だろうか。なんで私は勝手に一人で行っちゃったんだろう。ほんとうに馬鹿だな私は。





 溢れそうな涙を堪えて、立ち上がった。





「詩穂さん。行きましょう」





 詩穂は驚いたような顔で私を見た。





「まだ、時間あるけど」





「早い方がいいでしょ? 津波は待ってくれないもの」





「そ、そうね。それじゃ行きましょう」





 詩穂はそう言うと、お店のドアを開けて、外へ出た。私も詩穂の後を追った。回線さえ復活すれば、必ず透哉君に会える。それまで生きなきゃいけない。





いつもお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ