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第36話 根拠のない確信

 あれから俺と景さんで新宿御苑内に入り、走り回って、一通り葵を探したが、姿はなかった。





 一体どこに消えてしまったのか。いないものは仕方がないので、避難場所である新宿中央公園へ向かうことにした。そこに葵が避難をしてくれているのを祈るしかない。





 もう一つの避難場所は、都庁の近くにある公園に設定されている。防災に関しては問題ないと思っている。





「さっきからヘリが行ったり来たりしていないか?」





 景は立ち止まってヘリコプターを目で追っている。





「葵を探すのに夢中で、気にしてませんでしたが、そう言われれば、そんな気がします」





 俺も上空を見上げ、ヘリコプターを目で追った。





「東京駅でもよく見かけたけど、あんなに焦っているようには見えなかったけどな」





 景は歩き始めた。





「確かに何機も行ったり来たりしてますね」





 何かとてつもなく嫌な予感がした。胸騒ぎがする。





「何か声が聞こえないか?」





 景が辺りをキョロキョロしている。確かに何かが聞こえる。崩れかけたビルのテナントから聞こえるような気がする。





「あそこじゃないですか? あの喫茶店の」





 俺は、喫茶店の割れた窓ガラスの向こう側に見える、ラジオを指さした。





「あ~あれだな」





 景は窓ガラスからお店の中を注意深く覗き込んでいる。何を確認しているのかわからないが、それが済むと、ドアの前へ移動し、ドアを手前に引いた。





「開かないな」





 景は何度もドアを開けようと引っ張るが、びくともしない。





「歪んでしまって、開きそうにないですね」





 俺はそう言って、窓ガラスに耳を当てた。





「そうだな。まぁ、窓越しでも割れた隙間から聞こえるか」





 景はそう言いながら、俺の隣に来た。





「……ひ……くだ……と……う……の……は……避難……さい……くり……ます……ちば……で……なみ……して……まも……と……ゃく……」





 電波が悪すぎて、ラジオの声が聞き取りづらい。





「これじゃ何を言っているのかわからないな。避難しろってことだとは思うけど」





 景はそう言うと、また歩き出した。





「多分、津波ですよ」





 俺は景の後を歩いた。





「東京全体が避難しろって? そんなばかな。例え、千葉県沖で地震が起きたとしたって、ここまでくるわけがない」





 景はしばらく歩いていたが、急に立ち止まった。





「……まさかな」





 景は振り向いて俺の顔を見た。





「な、なんですか?」





 俺は鼻を掻いた。





「また常識に囚われるところだったよ。今までは常識の範疇で物事を考えればよかった。でも、お前のおかげで、物事は予想外の方向に考えなくちゃいけない。今回の地震、もしかしたら、東京だけがやばいんじゃないのかもしれない」





「まさか」





 俺は、頭を掻いた。





「震源がどこかわからないが、東京湾、千葉県沖で発生していた場合、津波が発生するっ確率は高い。実際、これまで津波は発生している。今回は発生するしないではなく、津波の威力」





「威力? 波の高さですか?」





「ああ」





 景は頷いた。





 急に強い余震が足もとを襲った。けど、地震はすぐ止んだ。





「恐らく、街を壊滅させるほどの津波が発生していると考えてもいいのかもしれない。それが千葉沖で起きたのか、東京湾で起きたのか、そんなことは関係ない。多分、このままじゃ、俺たちは死ぬかもしれない」





「死ぬって。そんなにですか?」





 景は歩き始めた。俺も後を追った。





「多分。いや、根拠はないけど、なぜか確信している」





「だったら、早く葵を探さないと」





 俺は景の肩を掴んだ。景は足を止めた。





「あいつなら大丈夫だろ。これも、根拠はないけどな」





「根拠がないって。でも、ああああああっ!」





 俺は頭を左右に振った。わからない。根拠がない津波の事には納得がいった。でも、葵の事は納得がいかなかった。でも、ここで、ちまちましていたら、どっちみちやり直しになってしまう。だったら、景さんの勘に頼るしかないのかもしれない。





「わ、わかった。わかりましたよ。それなら早く都庁に行きましょう」





 景は頷いた。





「そうだな。避難場所じゃだめだ。ここらで一番高いところ、都庁へ急ごう」





 景はそう言うと、走り出した。俺は後ろを振り返った。しかし、誰もいなかった。





 葵はどこに行ってしまったんだろうか。





「待ってくださいよ!」





 俺は景の後を追った。





いつもお読みいただきありがとうございます。

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