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第33話 2018年7月15日

 目覚ましのアラームで目を覚ました。俺はベッドから起き上がり、カーテンを開けた。





「うっ」





 朝日が目に染みた。左手で朝日を遮りながら窓を開けた。心地よい風が部屋に入ってくる。





 今日は2018年7月15日。東京で大地震が起きる日。こんなに気持ち良い朝なのにそれは必ずやってくる。





 誰もこれから地震が起きるなんて想像も出来ないだろうな。こんな事を思うのも、何度目だろうか。さすがの俺も飽きてくる頃だな。





 昨日、親に俺の全てを話した。自分の事、今日起きること、葵の事。最初こそ親は驚いてはいたが、それもすぐ収まった。馬鹿な事を言っているんじゃないと怒られるものとばかり思っていたが、そうじゃなかった。





「最近のお前は一番生き生きしていた。それを見て、私たちは嬉しかった。だから、それが本当であれ嘘であれ、お前の進むべき道を歩みなさい。ただし、私たちは、いつも通りに生活することにするよ。だって、それがお前の、透哉の邪魔をすることになるかもしれないからな」





 父親はそう言うと、煙草でも吸ってくると、庭の方に出て行った。





 普段煙草なんて吸わないくせに……





 葵とはもうここ何日も連絡を取っていない。葵も自分の立場を理解しているのか、それはわからないが、日に日にメールの頻度は減っていった。





 今の葵は俺の中で消えてしまう。葵はどう思っているのだろうか。相手の気持ちを考えると、自分に無性に腹が立った。





 俺はここに来るべきじゃなかったのかもしれない。やるせない気持ちで、胸が締め付けられそうだった。







 ちょっと時間を戻す。7月9日月曜日、学校が終わり、俺はそのままバイト先へ向かった。





 バイトに行くのは久しぶりだった。店長には無理を言って、しばらくの間休ませてもらっていた。





 その間、俺は今までの経験と28歳まで生きた知恵を絞りながら、東京駅から新宿駅近辺の情報を探った。それらの情報を地図に書き込み、また、装備も整えた。





 久しぶりにバイトに行く理由は、詩穂さんに江の島でお爺さんから貰ったネックレスを渡すためだった。





 それと月美さんにも挨拶をしておきたい。結局皆で集まるには、時間の都合で難しく、個々に電話で対応することになった。





 詩穂さんはネックレスを受け取ると、とても喜んでいた。「ありがとう。これで私たちも、もしかしたら。透哉君ありがとう」詩穂はそう言うと、俺の手をギュッと握った。





 月美さんは、俺たちの話を聞き、やっぱり驚いていた。「透哉君だけならまだしも、詩穂さんもそういう事なら」と半ば半信半疑ながら、信じてくれた。





 なるべく東京から離れること。月美さんにはそれだけを伝えた。




 博人達には、前日に話をした。「お前が、お前でない10年間。笑ったり、泣いたり、喧嘩したり、色々あると思う。それでも、俺は生きていたら、また、お前に会いに行くよ。例え、お前が俺たちの記憶がなくてもな」博人は少し寂しそうに言っていた。





 麻美と将輝は、普段と変わらぬ様子だった。麻美は、まぁ何を考えているかわからないが、将輝の方は、俺が言わなくても、何となくわかっているのかもしれない。「俺は、もし、透哉が未来に戻れるとしたら、10年後が楽しみで仕方がない。ちゃんと戻れるといいな」将輝はそう言っていた。




 あいつらには、この件に関して、直接的にはもう関わってほしくなかった。一緒にいれば、また、ケガをしたり、巻き込まれたり、あまりいいことはないと思う。それならば、いっそ、東京から離れてもらい、生きる確率を上げてほしかった。





 絵理はどうしても一緒に行くとうるさかったが、今回も恐らくトラブルに巻き込まれると説明し、絵理を無理やり説得させた。





 それでも、ぶぅぶぅ言うものだから、俺もなかなかに困った。「10年後、お互い生きていれば、多分また会えるから。だから、東京から離れた方がいい」と俺が言うと、「別に私は会う気はありませんから。それじゃ頑張ってください」とぶっきらぼうに言われ、電話を切られた。




 


 俺は窓を閉めた。本当は、今日、新宿で葵と待ち合わせの予定のはずだった。でも、今回は約束をしていない。その場合、葵はどうなってしまうのだろうか。





 しかし、俺が支度をしていると、葵から電話があった。





「ごめん。なんか、色々思うことがあって、連絡できなかった」





 覇気のない声だった。





「いや、俺の方こそごめん」





「ううん。透哉君は悪くないよ」





 俺はベッドに腰かけた。携帯を右手から左手に持ち替えた。





「私、これから東京に行くから」





 驚いてベッドから立ち上がった。





「お、おま、何言ってるんだ」





「もう、電車に乗るところだから。それじゃまた」





 葵はそう言うと、電話を切った。俺がその後電話やメールをしても、返事はなかった。





 これは葵の運命なのだろうか。人の行動はあらかじめ決められているのだろうか。いや、そんなことはないはず。運命が、未来がわかっているならば、それは変えられるはずなんだ。俺がそうしようとしているように。





 背後からドアが開く音が聞こえた。振り向くとドアの隙間から阿依が覗いていた。





「朝から五月蠅いんだけど」





 眠たそうな声をしている。





「ごめん」





 俺は一言謝ると、阿依を手招きした。阿依は嫌そうな顔をしたが、渋々部屋に入ってきた。





「なんなの?」





 阿依は面倒くさそうに言うと、壁にもたれ掛かった。





 俺はベッドに腰かけた。





「いいか。何も言わず黙って聞いてくれ」





 阿依は妙に大人っぽい話し方の俺に、驚いた顔をしていた。俺はそれが少しだけ面白くて、笑みをこぼした。阿依は頷いた。





「俺は葵を助ける為に10年後の未来から来た。というのも、13時頃に東京で大地震が起きて、葵はそれから10年間ずっと行方不明になっていた」





 阿依はキョトンとしている。





「お前はこれから図書館に行くんだろうが、図書館に行っていれば、助かるから安心しろ」





 俺は続けた。





「それと、10年後に俺が戻れたとしたら、その間の記憶は俺にはないかもしれない」





 阿依は眠たそうに大きな欠伸をした。





「俺はお前に感謝しているんだ。何もかも失った俺をずっと支えてくれた。今回もお前が後押ししてくれたから」





「え? どういうこと?」





「いいか? 俺は何としても、葵を助ける。そして、友達も助ける。その先の未来は変わってしまうとは思うけど。覚えておいてくれ。俺はまた帰ってくるから」





「ちょっと。本当に意味が分からないんだけど」





 阿依が欠伸をしながら、頭を掻いている。俺は立ち上がると、リュックを背負った。そのまま阿依の方に近づいた。阿依が不思議そうに見ている。





 俺は阿依の頭をポンと軽く叩いた。阿依は邪魔そうにそれを振り払おうとした。





「行ってくるよ。それじゃまた10年後にな!」





 俺はもう一度阿依の頭をポンと軽く叩いて、部屋を出た。





 今回で終わらせる。今回で終わらせなきゃリスクが高すぎる。おじいさんの言っていた事は自分なりに整理できた。後は、葵に会って話をしなくてはならない。






いつもお読みいただきありがとうございます。

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