極刑ざまあ
男勇者の手を鎖で繋いだ状態で魔王様は時間停止の禁呪文を解除した――。
「死ね~! って、あれ、な、なんだこれは! なんだこの段ボールは!」
「プー、クスクス」
……いや、笑ってられてほんとに良かったと思う。もう少しのところで、誰かは犠牲になっているところだ。
「男勇者の刑は人間で決めるがよい」
魔王様は失禁して濡れたズボンを気にしている国王にそう告げた。
「――極刑だ」
「――!」
……当然だな。国王と女勇者を殺そうとしたのだ。いくら男が勇者とはいえ、この罪は大き過ぎる。魔王様が来なかったら、どちらにしても国王は確実に死んでいた……。
「バカチン!」
「――!」
魔王様は国王の頭をしばいた。
「あいた! 暴力反対!」
極刑と言っておいて暴力反対とは……なんだか違和感を抱くぞ。
「今回の事件にて、誰一人犠牲者は出ておらぬ。それをこれから出してどうするつもりだぞよ?」
「――!」
……。タップリ剣で切り付けられた私は、魔王様にとって「犠牲者」には入っていないらしい。シクシク。体のあちこちに貼られたガムテープからは独特のガムテープ臭がするが……嫌いではない。
「――やられたらやり返すことは時として必要だ。だが、やり返し過ぎてはならぬ――。恨みは増すばかりとなろう」
その怨念は代々に受け継がれる。決して忘れてはならない怨念として……。
倍返してザマアなど、してはならぬのだ――。
「では、どうすればよろしいのでしょうか、魔王様」
恥ずかしそうに内股で喋る国王は、まだ濡れたズボンを気にしている。湯気出てる……。
「だーかーら、それを人間共でもう一度考え直すのだ――!」
「はい!」
何事も考える事が平和への第一歩となるのだ――。
処刑の間を後にした。
ここには二度と来たくない……。血生臭いのと……国王のおしっこ臭いから……。
「魔王様、甘くはございませぬか」
魔王様の瞬間移動で女勇者と魔王城へと帰ってきた。
「予は甘い。だが、甘くて何が悪いのかデュラハンよ。それに、デュラハンも甘い。昨夜……女勇者と一緒に何をしておったのだぞよ」
「――! なにもしておりませぬ」
魔王様が細目で見る。悪い顔をしていらっしゃる――。
「……ポッ」
いやいや、いやいやいや! 女勇者よ、カーっと赤くならないで――! 本当に何もしていないから――!
「……一緒に、部屋で映画を見ていました」
適当に誤魔化してみた。
「ほほー。なんの映画じゃ」
「……プロジェクトα」
「プロジェクトα!」
ガチなアクションものだ。冷や汗が出る、古過ぎて……。
結局、白金の剣が手元に戻ってきたから「女子用鎧、胸小さめ」は女勇者に返すことにした。この女勇者は最強の鎧くらい着ていないと、危なかしくて外も歩かせられない。
「わたし、騙されやすいのかなあ。勇者なのに……」
「なに」
女勇者が虹色の井戸の前で呟く。
「宿屋のお姉さんと話をしていたら急に男勇者が脅しに来たのよ。『宿屋に無料で女勇者を泊めるのなら、それ相応の働きをさせろ。じゃないと罰金を取る!』と……」
……なんとしても白金の剣を手に入れてこい! ……と。
「……」
男勇者の方が、モンスターの私よりも恐かったのだろう……可哀想に。
極刑にはするなと言われていたが、人間の国王からそれ相応の罰を与えてほしいぞ。
「タダで宿屋に泊るなんて、食い逃げするサラリーマンと同じだって言われて……泣いちゃった」
サラリーマンって……。舌をペロッと出すその仕草が……羨ましい。
「女勇者が騙されやすいのではない。騙す人間が多過ぎるのだ」
「え?」
「騙される方が悪いなど、本来はあってはならない」
「あってはならない……?」
「ああ。自転車の鍵を掛けていなかったから盗まれたのに、『鍵を掛けていない方が悪い』など、絶対におかしいのだ」
「おかしい……の? それ」
首を傾けるな――。
「絶対におかしいのだ。騙されるのが悪いのではなく、騙し合いがある世の中に何一つ疑問を抱かない世界全体がおかしいのだ――。その悪が消えない限り、この世界から争いは無くならない」
盗みがなければ鍵などは必要ない――。
ハッキングがなければ……長ったらしいパスワードや暗証番号は必要ない――。
誹謗中傷やなりすましなどの不正がなければ……個人情報の保護も必要ない――。
皆が交通ルールを守って運転していれば……覆面パトカーは覆面を被らなくてもいい――!
「……」
「人間共は魔族よりもズル賢い。だが、それでは決して幸福は訪れない」
不幸に陥れようと策ばかりが巡り、我ら魔族よりも先に人間が滅ぶだろう。
「魔王様が求める争い無き真の平和のために何ができるかを考え、勇者として行動するがいい」
そうしていれば、魔族とて人間をむやみに襲いはしない……。苦しい時には助けてやることもできる。
命懸けででも……。
「……分かった。ありがとうデュラハン……色々と」
フワッと女勇者が近付いてきたかと思うと、チュッとキスされた……。
「……一番大切な物……奪われちゃった」
「……」
開いた口が塞がらなかった……。それ? ……だったの。
「じゃあね」
「ああ。精進するがいい」
「最後まで、話しが硬いわ」
「全身金属製鎧なのだ。致し方ない」
にっこり微笑むと、女勇者は虹色の井戸へと飛び込み人間界へと帰ってしまった。
頑張れ、女勇者よ――。
しばらく人間界へ行くこともないだろう。虹色の井戸にペール缶に汲んできたスラッジをドボドボと入れると、虹色の水面が……真っ黒の汚い古井戸へと変わった。これであちらからもワープはできなくなる。
入った途端に体中が油汚れでギトギトになる――。
「見ちゃったわよ」
ドキッとした!
「――貴様! サッキュバス!」
黒いキャットスーツ姿で尻尾をクネンクネンと揺らしながら草むらから姿を現す。大きな黒猫かと思っていた……。サッキュバスには小さな黒い羽が生えているのに……。
「いいなあ、わたしも『チュッ』とかして、読者をキュンキュンってさせたいなあ~」
「……」
……不可能だ。とは言わない。露出多目で登場したキャラは、それ以上の露出ができなくなった時点で敵わないのだ。とも言えない。
それ以上露出してはならない。胸元が大きく開いたキャットスーツにも呆れてしまう。熱中症になるぞ……。
「あ、もしかして、また胸元見ていたの?」
「見ていない。そもそも私には顔が無いのだ」
顔がないのだから視線がバレる筈がないのだ。
慌てて空を見上げると、ポップコーンのような小さな入道雲が青空にポツンと浮かんでいる。
今年の夏も、もう終わってしまうのか……。
「だったらデュラハン、あんたいったいどこにチュッってされたの」
「――はうっ!」
そうだった……忘れていた。
いったいどこにキスされたのだろう……首から上は無いのに……。
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