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奪われた大切な物――


 起きるとテーブルに女勇者の姿は無かった。それどころか、女勇者が大事に身に付けていた鎧が置いてあり……その代わりに、白金の剣が鞘から抜かれてなくなっている。

「……」

 テーブルの上には字が書いてあった。


『ごめんなさい、デュラハン様。

 わたしは人間の勇者なのです。人間の幸せの為に尽くさなければならないのです。

 この鎧は差し上げます。

 決して追い掛けてきたりはしないでください。女勇者』


「――なんじゃこりゃ!」

 冷や汗が出る、古過ぎて。

 テーブルにはメモ紙が置いてあったのだから……テーブルに直接油性マジックで書かないでほしかった。有機溶剤をウエスに染み込ませて擦れば直ぐに落ちるのだが、それでも書かないでほしかった――。

 グヌヌヌヌ……?

 まあ、いいか。

 ずっと欲しかった鎧も手に入ったし、白金の剣もいつかは手元に戻って来るだろう。

 女勇者が白金の剣を手に入れようとしている理由は簡単だ。白金はこの世でただ一つ、魔王様の体を傷つけられる金属なのだそうだ。だが、魔王様には魔力バリアーがあるし、女勇者の剣技なら魔王様とて楽に避けられるだろう。

 いざとなれば四天王もいる。いざという時には頼りになる。……いざという時くらいにしか、頼りにならないとも言う。


 さっそく「女子用鎧、胸小さめ」を壁に掛けて飾り、眺める。ああ……やっぱりいい物はいい!

 流れるようなボディーラインと大き過ぎないフォルム! まさに最強にして最高だ――!

「ハハハ! ようやく手に入れたぞ――! ハハハハハ! うれぴー!」

 笑いが止まらん!


 だが……妙に引っ掛かる。

 なんだ、この後ろ髪を引っ張られるような後口の悪さは……。


 白金の剣が欲しければ、わざわざこの鎧を置いていく必要は無かったはずだ……。女勇者は俺がこの鎧を喉から手が出るくらい欲しがっていたのを知っていた。だが、女勇者にとっても大切な鎧だったはず。この鎧を着て白金の剣を手にしてこそ、魔王様を倒せる希望が生まれてくると知っているはずなのに……。


 人間界には女勇者の他に……男勇者もいた。国王と結託している男勇者……。


 大切な鎧を置いて帰った女勇者……。


 気になる。いったい、女勇者は……何を着て帰ったのだ?

「は! ――ない!」

 普段、抱き枕代わりに使っていた安い女子用鎧が見当たらない――! まあ、あれは防具屋で沢山売っている安物だから、構いはしないのだが……。


 こうしてはいられない――!


 急いで部屋を出ようとしたのだが、鞘に白金の剣が収まっていない違和感に足が止まった。

「剣がないと、なんかしっくりこないなあ」

 部屋の中に捨てずに置いてあった段ボールを見つけると、引き出しからカッターナイフを取り出し、適当な大きさに切った。それを剣の鞘の部分にそっと差し込んでみる。


 ――遠くから見れば、剣を持っているように見える! 段ボールの茶色と剣の握りの部分の色がソックリ……かもしれない。

「うわ、工作って楽しい――」

 もう一本作ってみようとして、ハッとした――!


 こんなことをしている場合ではない――!



 「宵闇のデュラハンを見つけたものは、城へと連れてこい。国王……?」


 人間界の城の前に、そう書かれた看板が立てられていた……。べニア板に竹でくくり付けてある粗末な看板だ。

 私も人気者になったものだ。これならば城下町へは通して貰えるだろう。「宵闇の」って書かれているのが嬉しい限りだ。


「デュラハンだ」

「むむ、顔の無い怪しい奴め。帰れ!」

 城下町の門を守る槍を持った兵士二人が、槍を向けてくる――。

「いやいや、この札読んだ? 国王の命令って書いてあるだろ」

「なになに。はっ! 本当だ! 怪しい奴め、ええっと、こっちへこい!」

「ちゃんと読んでおけ」

「魔族に言われる筋合いはない!」

 手に縄を巻かれることもなく、城下町へと通してくれた。


「顔無しデュラハン! 大変よ!」

「――宿屋のお姉さん!」

 兵士と三人で歩いていると、宿屋のお姉さんが血相を変えて駆け寄ってきた。


「女勇者が城に捕らえられてしまったのよ。助けて欲しければデュラハン一人だけで城内の処刑の間に来いって」

「「なんだと!」」

 兵士が先に答えないで――。

「処刑の間――か。なんて分かりやすい名前だ。ナンセンスだぞ」

「センスはどうでもいいわ。それより、早く女勇者を助けてよ!」

「しかし、我ら魔族と人間は敵対する者。魔王様にとって勇者はまさに敵の真骨頂なのだぞ。そもそも、そんな女勇者を人質にして、何を企んでいるのだ」

「それが分かったら誰も苦労しないでしょ! ――さっさと行け!」

「「はいっ!」」

「……」

 怒られてしまうとは……。引き止めておいて『さっさと行け!』は酷いぞ、宿屋のお姉さんよ。


 城内の衛兵騎士に処刑の間への行き方を聞いた。

 処刑の間は城の地下深くにあり、みんなあまり近寄りたくないらしい。当然と言えば当然か……何か出そうな気もする。仕方がないから一人で行くことにした。

 真夏なのにひんやりする岩肌と薄暗いロウソクで照らされた螺旋階段。文字通り不気味で冷や汗が出る。

 螺旋階段を下りたところからさらに薄暗い通路を抜け、とうとう広い処刑の間へと辿り着いた。

 処刑の間……か。

 この部屋を作った人間のセンスが……酷いぞ。ドSなのが見て取れる。魔王城にはチャペルはあっても、こんな酷い部屋は無い。


 中央の大きな十字架に女勇者が両手を鎖に繋がれて張り付けられていた――。


「来ちゃダメって言ったでしょ! デュラハンの馬鹿!」

 馬鹿って酷いぞ……。バカと言う方がバカだと言ってやりたいぞ。

「白金の剣を返してもらいにきた」

 交換するなら、やっぱりお互いの同意が必要だ。一方的に決めてはいけないだろ。


「ほら、思惑通り四天王が来ましたよ国王様」

「さすがは男勇者じゃ。前の勇者と同じでズル賢いのお」

「国王様ほどではございませぬ。ハッハッハ」

「ハッハッハ、って! 予はお前ほどズル賢くないわい! ゲス!」

「ゲスとは酷いですね。まあ、いい。この白金の剣さえ手に入れば、もう女勇者、顔無しのデュラハン、魔王……そして、国王、あなたにも用はない」

「「――!」」

「なんじゃと!」

「そろそろ世代交代です。いったい何歳まで国王をされるおつもりか」

「……八十六歳くらい……」

「……」

 男勇者は白金の剣を手にしていた。

「くっくっく。この剣で国王を殺せば、誰もが白金の剣を持つ宵闇のデュラハンのせいだと信じるだろう」

 ……。

「さよう。私の名は宵闇のデュラハンだ」

 ようやく顔無しから宵闇のデュラハンと呼ばれるようになり、嬉しい限りだ。

「さらには国王の命など、魔族の私にとってはどうでもいい」

 レベル99の村人と変らぬ。

「――だが、男勇者よ。お前のやり方だけは許せぬ。騎士として、勇者としての恥じらいはないのか」

「恥じらい? ははっは、はっはは!」

 独特な笑い方をすな!

「四天王の一人と言うが、しょせんは魔法も使えぬただの騎士! まずはお前から死んでもらうとしよう」

「剣がなくても、貴様のような勇者、一瞬で葬ってやろう」

 ガントレットをギシギシと音を立てて握る。自慢ではないが、クルミを指で割れる……。

「これを見てもそう言えるかな。出せ!」

 ――?

 男勇者の「出せ」の合図で、なにやら得体の知れない装置が処刑の間の両サイドから姿を現した。


「デュラハンよ、お前がそこから一歩でも動けば、この『自動弓矢発射装置』から無数の矢が放たれ、女勇者と国王は一瞬にして串刺しとなり、天国へと旅立つのだ」

「「――!」」

 得体の知れない装置の先からは磨かれた矢の先端だけが見え、女勇者と国王の頭を確実に狙っている――。バネやゴムといった文明の利器が中に多数仕掛けられているのだろう。

「汚いぞ! それと、ネーミング!」

「はっはっは。汚くはない! 俺は美しい! ビューティホーだ!」

 白金の剣を手に取ると、ゆっくりと迫ってくる。


 少しでも動けば……女勇者と国王の命を奪うとは……正気か――!


読んでいただきありがとうございます!


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