表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

お・と・ま・り


 魔王城内には数多くのゲストルームがある。遠くから魔王城に旅行に来たモンスターを格安で泊まれるように準備された部屋だ。その一室に女勇者を案内した。


「この部屋を使うがいい。だが、女勇者が泊るのを知っているのは私と魔王様だけだ」

 他の四天王達には言えるはずがない――。

「魔王城内は夜中でも凶暴なモンスターがウロウロしている。命が惜しければ無駄に部屋を出ないこと。扉にはしっかり鍵を掛けて寝ることだ」

「……分かったわ」

 ゴクリと唾を飲む。怖がらせておかなければ夜中にウロウロしかねない……。温泉宿と混同されてはたまらない。

 まあ……女勇者が魔王城に来られるのも、今日が最初で最後だ……。虹色の井戸がなくなれば、完全に行き来ができなくなる。


「夜中に家が恋しくなり、どうしても帰りたくなったら……帰る支度をして、内線の「5」を押すがいい」

 ホームシックというか……人間界シック? 「帰りたいのに帰れない」と泣かれても始末が悪い。冷や汗が出る。古過ぎて。

「え、内線? 押すとどうなるの」

「……即座に家へと送り返してやろう」

 虹色の井戸まで歩かないといけないのは内緒だ。

「……分かったわ」

「夕食は部屋で食べられる簡単なものを準備しよう」

 魔コンビニのおにぎりとか、ランチパックとか……。

「ありがとう」

「それと、明日には必ず人間界へと帰るのだぞ。魔王城の居心地はいいかもしれないが、女勇者がいるべき場所ではないのだ」

 人は本来、いるべきところにいなくてはならないのだ。

「分かってるって。デュラハンこそわたしがいなくなって寂しがらないのよ」

 ちょっと上目遣いでそう言うのだが……。

「……」

 ……寂しくないぞ、ちっとも。

 女子用鎧が見られなくなるのは寂しいかもしれないが、やはり魔王城に女勇者は……厄介事の塊だぞ――。



 夕食を渡すと、その後、女勇者は大人しく部屋でじっとしていた。

 しばらくは警戒していたが、ずっと扉の近くをウロウロしていると逆に怪しまれてしまう。いつものように魔王様と夕食を食べ、魔王様の肩をもんだり愚痴を聞いたりし、深夜になれば男湯の掃除をした。


 ……今日も……疲れた。

 自室のテーブルの椅子に、壁に掛けてあったオブジェの女子用鎧を置き、テーブルの対面に座る。

 テーブルにテキーラと鬼殺しを置く。こうして女子用鎧と一緒にお酒を飲むのが……ささやかな楽しみなのだ。

 誰にも知られてはならないひと時なのだ――。


「今日もお疲れ様でした。デュラハン様」

「ああ、ありがとう」

 ……独り言を言いながらお酒をコップに注ぐ。

「でも、デュラハン様、女勇者の着ている女子用鎧に夢中だったでしょ!」

「そんなことはない。俺が好きなのは、君だけさ」

 クイっと酒を飲み干した。飲むほど独り言が……進む――。

「ひょっとして、妬いているのかい」

「そんなことないもん!」

「フッ、顔に書いてあるぞ」

 かー。たまらん! こうして女子用鎧と飲み交わす酒は最高だ――。一日の疲れが吹っ飛ぶ――!

「安心しろ。俺が好きなのは君だけさ。さあ、もっと近くへおいで」

「嬉しい」

 女子用鎧が置いてある椅子を近づける。肩を組もうと思えば組める距離が……絶妙だ。


 だが……この鎧がもしあの鎧だとしたら……。あの、「女子用鎧、胸小さめ」だったなら……。――いかんいかん! そんな不埒なことを考えてはいけない!


 思わず女子用鎧をギューっと抱きしめていた。

 ああ……今日は歯磨きせずにこのまま寝てしまおうか……。顔が無いのにどうやって歯磨きをしているのだろうか……。


 冷や汗が出る……むにゃむにゃ……。



 ――カチッ。

 ――!


 ……まさか、本当に内線の「5」を押すとは……。じつは内線電話は通じないのだが、ボタンを押した音が隣の部屋から僅かに聞こえたのだ。


 枕を高くして寝ていないから、ゲストルームにいる女勇者の行動は直ぐに察知できる――。


 自室を出て、隣の部屋へと向かった。小さい声で扉の外から聞いてみた。

「……帰る支度はできているのか」

「あ、やっぱり来てくれたんだ」

 ……。

 扉が少し開き、女子用鎧、胸小さめ……を着た女勇者が姿を現す。

「寝られないの。一緒に……寝て……くれる」

 ……。いま、何時だ。二時五〇分――オー。

「駄目だ。寝言は寝て言うがいい」

 眠れないなら寝言は言えないか。

「じゃあさ、デュラハンの部屋を見せてよ」

「もももも、もっと駄目だ! 片付いていない――!」

 抱き枕にしている女子用鎧が……今はベッドに転がったままになっている~!

「わたしの部屋には入ったくせに、デュラハンの部屋には入れてくれないなんて不公平じゃない?」

「グヌヌヌヌ」

 不公平と言われると……紳士の名に傷がつく――。

「よかろう。だが、1分、いや40秒待ってくれ。支度をする」

「うん」


 慌てて隣の自室へと戻り、一緒にベッドで横たわっていた女子用鎧を壁にかける。

 いかにも騎士の部屋らしくしなくては、魔族の恥をさらしてしまう――! 女子用鎧の通販カタログを慌ててベッドの下へと隠す。

 ああー、ソーサラモナーに借りていた「チッパイ鎧☆単行本の上下巻が、ハードカバーなので本棚に入りきらない~!

「お邪魔しまーす」

「ま、まだ35秒!」

 あと5秒あるのに、女勇者は部屋にノックもせずに入ってきよる――! フライングしよる――!


「うわー、片付いている」

「……当然だ。整理整頓清潔清掃(4S)は魔王軍の騎士として常識だ」

 足でこっそり単行本をベッドの下へと押し込んだ。


「あ、お酒。わたしも一緒に飲みたいなあ」

「未成年は飲んでは駄目だ」

 成長段階の脳細胞を破壊してしまう。私には頭が無いからその心配はないのだが、二日酔いをするとやはり頭が割れるように痛いのだ。ぐわんぐわんするのだ。

「チッチッチ、わたしは童顔だけど、今年、二十歳になったのよ」

 ――二十歳! ぜんぜん見えなかったぞ――!

 逆鯖を読んでいるようにしか思えないぞ――!

 チッチッチって唇の前で指を小さく左右に振る仕草って……冷や汗が出るぞ。古過ぎて。


「鬼殺しって、やっぱり強いの」

「ああ、強い。鬼を殺せるのだから、まさに鬼のようなお酒だ」

「わたし、酔っちゃった」

「まだ一口たりとも飲んでいないのに、酔っ払ったふりをするな……。それより……どうして魔王城なんかに来たのだ。理由を言ってみるがいい」

 何かしらの理由がある筈なのだ。でもなければ若い一人娘がこんな……うさん臭いモンスターや魔王様がいるところへなど、来るはずがない。

 女勇者は紙コップに注いであった鬼殺しを一気に飲み干した。おいおい……。水で薄めているとはいえ、一気に飲むと悪酔いしてしまうぞ。

「じつはね、わらし、人間共が嫌いになったのよ」

「……」

 なんか、たった一杯で目が座っているぞ……。

「人間なんて、金金金なのよ。お金がなきゃ、ヒック――。お金がなきゃ、ヒック――。お金がなきゃヒック……」

 話の先を言って――! しゃっくりでいちいち話を中断しないで――!

「苦労してきたのだな」

「そうなんよ。お金がなきゃ、宿屋からも追い出されてしまうろよ」

 ゴンとおでこをテーブルにぶつけると……突っ伏して眠ってしまった……。

 弱すぎるぞ、酒にも……。魔王軍四天王の部屋で勇者が寝てしまうとは……やれやれだ。


 眠る女勇者に大き目のウエスを肩から掛けてあげた。起きれば自分の部屋へと戻るだろう。座って寝ていても疲れは取れない。

「むにゃむにゃ。もう食べられないわ……」

「……」


 寝ながらその寝言を言うのは、今どき流行っていないだろう……。


読んでいただきありがとうございます!


ブクマ、感想、お星様ポチっと、などよろしくお願いしま~す!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] デュラハンさんがチョロすぎるーーー!!!ww これは押したらいけますよ!w 女勇者たんファイト!!w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ