女勇者 VS サッキュバス!
「ええ! あんた、鎧を着たままお風呂に浸かっているの!」
「キャー! 何よモンスター?」
「……」
中から悲鳴やら声が聞こえてくる……。大きな声だから丸聞こえだ。
「まるで制服のスカートの下にブルマ穿いているような女ね、つまんないわ……」
カッポーン!
カッポーンってなに! 何が起こっているの――! ブルマって……冷や汗が出る。古過ぎて。
「わたしは四天王の一人、妖惑のサッキュバスよ。あたなが女勇者ね。うふふ、可愛いからわたしの妖惑の呪文をかけてあげるわ」
「――やだ、怖い!」
「やめろ、サッキュバス! 女勇者に手を出すな!」
だがここから先へは入れない――! 女湯の暖簾をパンチした。これが本当の、「のれんに腕押し」だ――!
なぜ腕押しなのかなんて考えた事もない――!
「たった一人で魔王城に乗り込んで来るなんて、いったい何を企んでいるのかしら。――禁呪文、『脳内垂れ流し!』」
「キャー!」
「やめてくれ――」
禁呪文「脳内垂れ流し」は、考えていることを包み隠さずに口に出して言ってしまう恐怖の呪文なのだ――。
カッポーン……。一瞬、静寂を取り戻した。
「可愛い女勇者ね、キスしてやりたいなあ……」
「――!」
……女勇者があの鎧を着ていたのなら……まさか……。
――禁呪文が跳ね返ってサッキュバスにかかっている――?
「魔王様やデュラハンが玩具にしたいのも分かるわ。可愛いもん。あーキスしたい」
玩具って言わないで――! 物凄く危ない人達に誤解されるから――!
「たすけて~」
半泣きのような声! しかし助けに入れないジレンマ。
「でも、デュラハンもよりによってこんなチッパイが好きだなんて」
――!
「チッパイって言うな――!」
「トリプルA?」
「……ひどおい!」
「女勇者よ! 早く上がって逃げてくるのだ! 妖惑のサッキュバスは敵を微睡わす術に長けているのだ! 喋ってはいけない」
どんどん汚されてしまうぞ――キャラが!
逃げないと顎から鼻にかけてベロチュウされてしまうぞ――!
ガシャガシャと走る音がする。ほんとに鎧を着たまま入っていたのか……。
「あー! せっかくのわたしの玩具が、逃がしゃしないよ」
バシャバシャ!
「キャー! うわー!」
「ヒャ―ッハッハ! 逃げろ逃げろ!」
「……」
中では死闘が繰り広げられている……のか。
「ほーら捕まえた。どお、大きいのって素敵でしょ」
「うううう。ぜんぜん素敵じゃないわ!」
「……」
冷や汗が出る。
「羨ましいでしょ。魔王様もデュラハンも国王も男勇者も、みんな大きいのよ」
「――!」
――違うぞ! 途中で大きい物の対象が別物になっているぞ!
「聞いては駄目だ! 早く逃げろ! そうだ、尻尾だ! 尻尾がサッキュバスの弱点なのだ!」
「え、尻尾なの? って――デュラハン、ひょっとして覗いているの! エッチ!」
うーん……。身の危険を回避するためにアドバイスしてやっているというのに~。エッチって酷いぞ……。
「覗いてなどおらぬ! 女湯の前でモンモンとしているだけだ! 早く逃げて出てくるのだ!」
「だって、まだ服を着ていないわ」
「鎧を着ているのだろ!」
「下着を取って鎧を着たから、また鎧を取ってから下着をつけなきゃ」
――なんて面倒くさいお風呂の入り方をしているのか――!
――脱いで着て入って、脱いで拭いて着てか――!
「あら可愛い下着。後ろが紐じゃない。いやらしい~」
――!
それは……どうだろう。逆に興ざめではなかろうか?
「嘘言わないで~――!」
嘘なんかーい!
「……」
それよりも、本当に大丈夫なのだろうか。R15からR18に引き上げなくてはならないのではないだろうか――! だとすればPVは今以上に下がる。冷や汗とため息が出る……。
「助けて!」
女湯から女勇者が飛び出してきた。
「無事だったか!」
乾かしてない前髪がおでこにくっついている。
「逃がさないわよ~」
後ろからサッキュバスの声が近付いてくる。――怖いぞ! まっ裸で出てこれば、その時点でアウトだ――!
「逃げよう!」
咄嗟に女勇者の右手を掴んで廊下を走った。
「……デュラハン……様」
いやいや、頬が赤いのは湯上りだとしても、手をつないで走るだけでそんなにときめかないで――!
汗がキラキラ輝いたり、拭いてない金髪がキラキラ煌いたり、瞳の中にお星様がキラキラしていたりしても、魔王城内の廊下はそんなにロマンチックじゃありませんから――!
レベル1のスライム達が呆れ顔で見ていますから――!
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「ここまで逃げれば大丈夫だ」
サッキュバスとはいえ、真っ裸で城内を走り回れないだろう。魔警察に補導される。
「やっぱり、……大きな方がいいの」
ズルっとなる。いったい何の話だ――。何の話の続きだ!
「いや、このサイズが良い」
この鎧のサイズが最高なのだ。
「……見たい」
「いや、もう見ているぞ。鎧を」
「……もう!」
バシッと背中を叩かれた。
「ハハハ……」
駄目なのだ。人間とモンスターは仲良くなったとしても一線を越えてはいけないのだ。
そこには種族を超えた問題ばかりがつきまとうのだ……。
「今日は泊まって帰ろうかなあ……」
「……」
言っているそばから次々と――! どうでもいいが、凄く肝の座った女勇者だ。枕が変っても爆睡して寝坊できるタイプだぞ……。
勇者にとって「どこでも寝れる」というのは必要なスキルなのかもしれない……。
「ならぬ。だめだ」
「どうして?」
「どうしてもこうしても、なぜ泊まる必要があるのだ」
ここは魔王城なのだぞ。勇者にとっては四面楚歌。周りは全て敵だらけなのだぞ。
レベル1のスライムばかりではないのだ。
「他にも怖~い四天王が……ウヨウヨとうろついているのだぞ」
中庭には躾の悪い狂乱竜が腹を空かせてウロウロしているのだぞ。飼い主にだって平気で噛みつくのだぞ。
「……それは怖いわ。でも……」
そっと女勇者の指先が、私のガントレットの指先に触れた。
「勇者は怖がってばかりではいけないの、たまには勇気を出さなきゃ。それに……宿屋に泊るお金、ないの」
「……」
一文無し?
魔王城に泊るのも有料だぞと言ってやればよかった……。
人間共の城下町にある宿屋のお姉さん……見た目とは違って、経営熱心だったのだろうか……。
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