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人生という名の・・・

作者: 優しさに感染した男

人生という名の・・・




気が付くと電車の中にいた。

ガタガタと揺れる車内。私の座っている座席の左右には見知らぬ男性と女性が座っていた。

いや、どこかで見たことがあるかもしれない。

「お目覚めですか。」

左の女性が微笑みながら私を見つめた。引き込まれるような優しい、柔らかい声だった。

「ええ。でもなぜ私はここに・・・」

私は言いかけて黙った。

「すいません、あなたが知る訳もないですね。」

「実は、私も分からないのです。気づいたら、ここに。」

「そうなんですか。」

「ええ。」

困ったように女性は微笑んだ。

「ここに乗っている人はみんなそうみたいですよ。僕も、そうだ。」

今度は右の男性が口を開いた。少し緊張感のある、でもやはり優しい声だ。

「ここに乗っている人・・・」

私は辺りを見渡す。

私の座っている座席には今話した女性、男性の他にも多くの人々が乗っていた。

向かいの席、その隣、その向かい、その隣・・・

めいっぱい体を曲げて遠くを見たが、車両がどこまで続いているのか分からない。

「沢山人がいますね。」

「僕は君の左にいる、女性を見つけて話すうちに意気投合していたんですよ。そして気づいたら君がここに。」

「はあ・・・」

頭がぼーっとするようだった。あまり考えても仕方のないような気がしてきた。

「私、少しこの車内を探索してみます。」

立ち上がると左の女性が引き留めた。

「一人で平気?心配だわ。」

「いえ、大丈夫です、それに、」

それに、一人で行かなければならない気がした。

私がここにいる意味、この電車に乗ったいる理由が知りたい。

「君なら大丈夫さ、きっと。」

「はい。」

「気を付けてね。そして、きっとこの席に戻ってきてね。」

「いってきます。」

私は席から立った。

右へ行こうか、左へ行こうか。

決めるのは自分だ。



 この電車には実に色々な種類の人間がいる。

優しそうな人、怖そうな人、各々が何かを探しているのか。

さまよいながら、席に座りながら、皆、何かを考えている。

時折、魅力的な人を見かける。

カッコウが良くて、つい引き込まれそうになる。

でも、時折嫌な人もいる。こちらを睨んだり、嘲笑したり。

ただ、そのどちらの人間もすれ違ってしまえば、どうということはない。

どこにでもいるのだろう。

重要なのは、すれ違う人ではなく、対岸にいる人ではなく、最初に会ったあの優しい男性と女性のような、私の隣にいる人だ。

「ねえ、そこの人」

不意に声をかけられた。まさに今すれ違おうとした座席に、私を見る女性がいた。

「はい。」

「隣、座らない?なんとなく、あなたと話がしたいの。」

この女性の声はまた、優しく、引き込まれる。ただ、最初に会ったあの二人とは少し違った。

違う安心感というか、

「いいですよ」

私は女性の隣に座った。

「あなたも自分がなぜ、この電車にいるのか分からないの?」

「はい。それを知りたくてこの車内を探索しているんですが、なかなか。」

「そうなの。私も色々と探索して、いろんな人と会話もしたんだけど、分からなかった。」

女性は俯きながら微笑んだ。

「もしかしたら、答えなんてないのかもね。」

「そう、ですね。」

「君、隣、いいかな。」

突然、見知らぬ男性が女性の隣に座った。

「失礼するよ。」

私達の返事も聞かず、男性は座った。

「今歩いていたら、君たちの話が耳に入ってね。僕も色々と探しているんだけど、答えが見つからない。」

男性はにこやかに話した。

「そこの君が言った、『答えなんて無い』っていうのが答えなのかもね。」

「あなたもそう思う?」

女性が目を輝かせながら男性を見る。

「良かったら僕と一緒に車内を探索しないか。」

私は何か嫌な予感がした。この男についていってはいけない。なぜか、そう、思った。

「あの、ちょっといいですか。」

私は割って入る。

「何だよ。君は関係ないだろう。黙っててくれ。」

男性は訝しげに私を見た。

「いえ・・・」

私はその威圧感に気圧されてしまった。

「そういう言い方はないんじゃない?」

女性が男性を睨んだ。

「ごめんなさい。気が変わったわ。あなた何か嫌な感じ。」

「そうか。ふん、好きにすればいいさ。」

男は大きくため息をつくと立ち上がり、背を向けて歩き出した。

私はハッとした。

男の後ろのポケットにナイフのような光るものがあったからだ。

女性も気が付いたのか、唖然としている。

「ありがとう。あなたがいなかったら私、あの男についていってた。」

女性が私に頭を下げる。

「いえ、良かったです。なにも無くて。」

「私、そろそろ行こうかな。」

女性が立ち上がった。

私も立ち上がった。

「ありがとう。私と出会ってくれて。短い間だったけどね。」

「こちらこそ、ありがとうございます。」

「また、会えるといいね。」

「はい。」

私と女性は反対方向に歩き出した。


しばらく車内を歩いていると何度も先程と同じような経験をした。

呼び止められて、呼び止めて、色んなことを話したり、色んなことを言われたり。

助けたり、助けられたり、傷つき、傷つけ、

強引な人もいれば優しい人も。最初は印象が悪かったのに話すうちに大切な人になったり、

その逆も。

でもその人たち全てが私から離れていった。すれ違っていった。

後ろを振り返るとそこには彼ら彼女らの姿は無い。

すべて私の心の中にあった。

間違えなく、彼ら彼女らは私の一部になった。




繰り返しの果てに私はある座席に座った。

隣に座っている男性は、今まで出会った人とは違う。

そう、心を許してもいいと感じた相手だった。








気が付くと電車の中にいた。

ガタガタと揺れる車内。僕の座っている座席の左右には見知らぬ男性と女性が座っていた。

いや、どこかで見たことがあるかもしれない。

「あ、目が覚めた。」

左の女性が少し嬉しそうな顔で僕を見つめた。引き込まれるような優しい、柔らかい声だった。

「ここは・・・どこ?」

僕は尋ねた。







最後までお読みいただきありがとうございます。

ぜひ、コメントよろしくお願いいたします。

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