青い鳥
神様、どうか僕の願いを聞いてください。
一つだけでいい、彼女に、
彼女に会わせてください…。
「僕と結婚してください」
彼の声は震えていた。小刻みに肩を震わせて、
まっすぐ腕を伸ばす。
手のひらには可愛らしいサイズの箱。
「喜んで」
彼女はニコリと微笑んだ。その瞳は少し潤んでいて
今にも溢れそうだった。
彼女と僕は結ばれた。
とても、とても幸せだった…。
それから数日後
彼女はこの世から去った。
突然の知らせだった。
三日後には結婚式を挙げる予定だった。
「うそ…だ」
僕は、目の前の現実を受け入れられずに
しばらく呆然としていた。
時は経ち、僕は新しい家庭を持った。
三才になる娘がいる。今日は小春日和だったので
公園に連れて行った。
僕は罪悪感を抱えていた。
この場所は前によく”彼女”と訪れていた場所だ。
まだ忘れられないでいた。
このベンチで二人でよくお弁当を食べて、お話して…
「ルリハ、ちょっと滑り台で遊んできなさい。
父さんはここにいるから」
「はーい」
ルリハはパタパタッと走って行く。
ああ、僕はなんてだめな男だ。
まだ彼女が忘れられずにいる。
彼女の名前もルリハだった。
未練なのか断ち切ることができず、娘の名前につけた。
”神様
お願いです
彼女に一目でいいから
会いたい”
バサバサッと背後から音がした。
青くて綺麗な鳥だ。
人懐っこくて僕の肩に乗ってきた。
「よしよし、お腹減ってるのかい?
ご飯をあげよう」
「…い。…れな。い…」
「え?」
確かに人の声がした。
いや、鳥が覚えた言葉なのかもしれないな。
「…し…あわせ…なって…」
!!!
間違いない、彼女の声だ。
「ルリハ!?
ルリハなのか?」
鳥の姿はもうなかった。
代わりに
僕の手には、ルリハに渡したはずの
婚約指輪が残されていた。
「お父さん?」
「お父さん、泣いてるの?」
そんなことないよ、と言って娘の頭を撫でた。
そうだな。
いつまでも縛られてたら、幸せになれないもんな。
ありがとう、ルリハ。
ありがとう…
幸せの青い鳥は
遠い遠い空の果てまで
飛んで行ったーーーー
fin.