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そうして今日、私はペットになった。

◯月△日

マンションの下で子猫を拾った。雨も降ってるし放っておけなくて、部屋に連れて帰った。とても気の強い子で、実際は可愛い女の子だけど。本当の猫みたいに威嚇してきた。何があったか知らないが髪もボサボサで、傷を負っていた。今も部屋の角でこちらを睨み警戒している。きっとまた傷つけられると思っているんだろう、早くこの部屋に慣れてくれるといいのだけれど……



*********


「あなた、名前は?」

「……凛です」

「ふうん、凛ちゃんか……私は瑞希。よろしくね」


瑞希さんは気さくな感じでそう言った。

目の前の女性はとても綺麗な人だ。白い肌に一重の切れ長の目で少し冷たい印象。とても色っぽくしなやかな体格は全体的に細く、高い雑誌に出てくるモデルさんみたいにスタイルがいい。服は無地のシンプルな物を着ているが完璧に着こなしている。きっと学校ジャージのようなダサイ服を着ていても似合うに違いない。

髪は真っ黒なストレートで、動くたびにサラサラと揺れている。

猫っ毛で雨のお陰で、さらにクシャクシャになってしまっている、私の髪とは正反対で羨ましい。


「……はい」


警戒しつつも私はそう答えた。

私は色々あって家出をしている最中だ。

今までは友達の家に泊まり歩いていたのだが、とうとう泊まれる家が無くなってしまった。

雨も降ってきたので適当なマンションで雨宿りをしていたそんな時、瑞希さんに声をかけられたのだ。

事情を話すと『良かったらうちに泊まる?』と気軽に提案され、今にいたる。

雨も止みそうにないし、どんどん暗くなっていたから部屋について来てしまったが、今更ながら知らない人についてきてしまったことに、不安になってきた。

私はソファの端っこで、借りてきた猫よろしく座っていた。


「それにしても、私が声かけなかったらどうするつもりだったの?」


「……ネットで探そうかと。そういう掲示板あるし……」


もごもごとそう答える。すると瑞希さんは呆れた表情になる。


「掲示板って……どんな人がいるかわからないのに危ないわよ。家出の女の子泊める板見てる人間に、まともな人なんているわけないじゃない。見たところ高校生くらいでしょ?襲われたらどうするつもりだったの?」

「別に……大したことじゃないし……」


頭ごなしに言われて、ムッとした私はそう言った。

瑞希さんは信じられないって顔で今度はため息をついた。瑞希さんが呆れるのもわかる。

私も好きでそんなやつの家に泊まりたいなんて思ってない、でもそれ以外に方法が無かったのだ。

普通なら私もついていかない、危ないこともわかっている。でも、改めて言われるとムカついてしまった。


「……まあ、いいわ。とりあえず冷えてるだろうし、お風呂に入って。食事は……デリバリーでいい?」

「……はい」


ムッとしながらも泊めてもらう以上、何も言えない。

私は素直にお風呂を借りることにした。

瑞希さんの部屋は間取り2DKのシンプルな部屋だ。女性的な華やかさのある装飾品は少ないけれど、落ち着いた色調の家具で揃えられていて嫌な感じはしない。


「ふう……」


少し緊張していたのか、暖かいシャワーを浴びると少しホッとする。

先の事はわからないがとりあえず、今晩はどうにかなりそうだ。

サッパリして体も温かくなったのでお風呂から出る。


「あ、出た?服はある?良かったらこれ着て」


体を拭いていると、そう言った瑞希さんがいきなりドアを開けた。


「きゃあ!」


私は慌ててタオルで体を隠す。すると瑞希さんは少し驚いた顔をした後「何?女同士なんだから恥ずかしがる必要ないじゃない」と笑った。


「べ、別にそういうわけじゃ……」


そう言ったものの顔が真っ赤になっているのがわかる、瑞希さんは可笑しそうにクスクス笑いながらも服置くとドアを閉めた。

私は弁解も出来ず、仕方なく体を乾かし服を借りる。

気まずい気分で部屋に戻ったが、瑞希さんは普通の表情だ。

食事が終わり瑞希さんもお風呂に入った、しばらくすると寝る時間になる。


「じゃあ、あなたはこっちのソファで寝て。毛布はそれで足りる?」

「はい……」


瑞希さんの言葉に私は頷く。

外は寒いが部屋は暖かい。ソファを借りられるだけでありがたい。


「じゃあ、おやすみ」


瑞希さんがそう言って電気を消した。私はソファに横たわり、毛布を首までかけ目をつぶる。

しかし、なかなか眠りにつけなかった。

流石に知らない人の部屋は中々慣れない。

真っ暗で静かな部屋の中にいるからか、だんだん不安が膨らんでくる。

しばらく何度か体勢を変えながらも眠ろうと努力したが、眠ろうと思えば思うほど目が冴えてしまう。

私は溜息をついて起き上がる。


「水でも飲もう……」


そっとキッチンに向かい、コップを借りて水を飲む。しかし相変わらず落ち着かない。

部屋に戻ってソファに座って、もう一度溜息をつく。

どうせ眠れないならとスマホを取り出そうとしたその時、ドアがかちゃりと開いた。


「どうしたの?眠れないの?」


瑞希さんが伺うように顔をのぞかせ言った。起こしてしまったみたいだ。

薄明かりのなか白い首筋がやけに色っぽくてドキッとする。


「すいません。大丈夫ですので……瑞希さんは寝て下さい」


そう言ったのだが、瑞希さんは何か思いついたような表情をした後、私に近づくと手を取った。


「じゃあ、一緒に寝よう」

「え?」


そう言ってそのまま強引に寝室に連れ、私をベッドに寝かせると。

瑞希さんも一緒にベッドに入った。

そうして、私をぎゅっと抱きしめる。

いきなりの抱擁に私は硬直する、女の人だからと安心していたのに、まさかこんなことになるとは思っていなかった。

何が起こるのかとドキドキしていた。しかし、瑞希さんは私の頭を撫でるとにっこり笑うと「おやすみ」と言って目をつぶってしまった。

私は少し呆気に取られて。ドキドキしてる事が恥ずかしくなってくる。

しかも余計に目が冴えてしまった。眠れそうにない。

瑞希さんは細いのにしっかり付いているところは付いていて。全体的に柔らかくて、なんだかいい匂いがする。

そう思っているとなんだか良くない気持ちが湧き上がってきて、さらに落ち着かない気持ちになる。

しばらくそうしていたが、それでも人肌の温もりのおかげか私はいつのまにか眠っていた。

どれくらい経ったのだろう、何かの音で私は目を覚ました。


「ん?」


カシャリ、カシャリと音がする、ぼやけた頭で何の音だろうと思って目を開ける。しかし、何故か眩い光が目に入り何も見えない。


「何?」


目を瞬かせ、なんとか目を開けようとする。


「あれ?起きちゃった?」


その声は瑞希さんだった。

私は目を疑う、なんと瑞希さんはスマホのカメラを私に向けて写真を撮っていたのだ。カシャリという音はシャッター音だった。


「な、何を……あれ、私……」


驚いて起き上がろうとしたら、自分が裸だということに気が付いた。慌てて布団を引き寄せる。

しかし、その瞬間また写真を取られた。


「や、やめて!」


私は必死に手で顔を隠す。


「ふふ、撮れた」

「な、なんでこんなこと……」


何が起こっているのかわからない、慌てる私をよそに瑞希さんはクスリと笑った。


「見て、いっぱい撮れたよ」


そう言って私にスマホの画面を見せる。


「……っなんでこんなこと……」


そこには、裸の私が顔を隠している姿が映っていた。それでも顔は隠しきれていなくて、私の顔も写っている。


「ネットって便利よね。ボタン一つで知らない人と知り合ったり、データーを送ったり出来るんだもんね」


瑞希さんの意味深な言葉に、私は血の気が引く。


「な、何を……」

「ネットタトゥーって言葉知ってる?一度流れてしまった情報や映像はそう簡単には消えなって意味」


瑞希さんは小首を傾げてまた笑う。そして続けて言った。


「これがネットに流されたらどうなるんだろうね?」

「や、やめて……お願い」


私は必死に言う、そんなのを流されたら困る。


「どうしよっかな……」

「お、お願いします」


そう言うと、瑞希さんはニヤリと笑った。


「じゃあ、貴方は今日から私のペットね。逆らったら、これネットに流すから」

「え……」


私は唖然とする、まさかそんな事を言われると思わなかった。

瑞希さんは私の表情を見てさらにクスクス笑う。混乱しているせいか、そんな表情でもやたら色っぽいな、なんて見当違いの事を考える。


「高校生って言っても、まだまだ子供ね。あっさり騙されちゃって……まあ、知らない人間の部屋にのこのこ来る時点でおつむは弱そうだったけど」

「っ……」


瑞希さんはそう言って、持っているスマホを見せつけるように振り言った。


「よろしくね」


そうして今日、私はペットになった。

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