第三話 魔法
新しく、地味な服を買い、公衆浴場でさっぱりとしてきた。お金は掛かったが全て、ゴロツキの持っていたお金で払えた。
汚れた服をまとめると、看板を抱えて座っている女の子がいた。そこには
『衣類を銅貨三枚で綺麗にします。』
と綺麗な字で書かれていた。
丁度いいと思い、近寄って汚れた衣服と銅貨三枚を差し出す。
「はい!分かりました!少々お待ち下さい!」
と元気な様子で答えて、衣服を受け取った女の子は衣服を持った手を前に出した。
「トルア・トウロウ・トルア・トルア・トルア・ラウアウド・ルーア・ロウデ・リアーグ!」
女の子がその言葉を言うと彼女の手の数十センチ上に魔法陣が生成される。
真ん中から始まって、二重、三重、四重......最終的には六重の円の魔法陣が出来た。
そして魔法陣から手に光が溢れる。その光は衣服を包み、キラキラと光る。
コレが魔法。
そう実感が出来た。それと同時に自分は魔法が使えない事を悔やましいという感情は出てくる。
見惚れていた光は魔法陣ごと、空気に薄れて消えていった。
「どうぞ!」
女の子は綺麗になった衣服を差し出したので受け取る。
『今のはなんて魔法?』
そう女の子に書いて見せる。
「え〜っと......確か名前は『手に持つ浄化』だったと思います!」
名前は誰が考えたんだろうか、魔法の名前ってもっとカッコイイものじゃ無いのかな?
『ありがとう。じゃあね』
そう伝えると女の子はペコリと頭を下げた。
さて、さっぱりしたから、あの優しそうな青年と赤髪の女性にお礼をしに......
と思い、紙を見ると字で埋め尽くされている。コレでは伝えられないのでは?
どうしよう......
そう考えると目には雑貨屋が映った。
そうだ。雑貨屋で紙を買えばいいんだ。
そう思い、雑貨屋に寄る事にする。
雑貨屋に寄ると、石鹸や白い食器などが目立つ場所に置かれている。高価なのだろうか?
色々見て回ると紙があった。A4サイズのほんのり茶色な紙束だ。コレを四等分にしたら丁度いいのでは?そう思ったので即購入。そしたら金貨二枚掛かった。
紙は高価だ。そりゃあそうだろう。だけど、必要経費。しかたない。
それとペン。と言うより筆を買った。今のペンでは細すぎる。コレでは紙を相手の目先まで持って行かなくてならない。
コレは銀貨五枚。それとインクで銀貨二枚の出費。
コレも紙と同じ理由だ。後、最後にショルダーバッグ。袋だけでは厳しいため、購入。銀貨五枚だ。
計、金貨三枚と銀貨二枚。しかし残りの残金に余裕がある。
さあ、急ぐか。エルフを探す時間が惜しいからな。
あの優しそうな青年と赤髪の女性にお礼をしに行こう。あの黒髪の女性、ノノさんは......しなくていいだろう。酒場で騒いでるので近寄り難い事とそれと話が伝わらない。
適当なテーブルと椅子に座り、ペンを走らせる。
『ありがとう』『最後に』『名前を聞いていいですか?』
伝えたい事は区切って書いていく。そうしたら組み合わせられるので紙の削減が出来るだろう。
そして優しそうな青年と赤髪の女性のいるカウンターに行く。
そして手に持った紙を見せる。
『ありがとう』
「仕事ですから」
「困ったらまた来るといい」
赤髪の女性と優しそうな青年がそう返してきたので紙をスライドさせて入れ替えて
『最後に』『名前を聞いていいですか?』
を前に出した。と思ったら、縦書きなので右から読んで言ったら『名前を聞いていいですか?』『最後に』と文章が可笑しくなることに気付いたので慌てて逆にした。
二人はその様子を笑いつつ、その口を開く。
「僕の名前はルクイ。ルクイお兄さんとでも思ってくれ」
「私はナノカ。それじゃあ、ナノカお姉さんかしら?」
そして僕が『ありがとう』と書かれた紙を再度出そうと思った瞬間。優しそうな青年、ルクイお兄さんが続けて口を動かす。
「君の目的はなんだい?まあ、ここは裏の世界。ルールは無いけど喋りたくないならは黙秘していいよ。」
ルクイお兄さんの優しそうな顔が突然怖く感じた。
『ありがとう』
と出しかけていた先程の紙を出した。死の森に行くと言っても止められるだけ。行くと言ったら行く。そう思い、伝えるのを止めた。
なんだか居た堪れない気持ちになって、その場から走って離れる。
来た道、螺旋の石階段を駆け上がるとバーが見えた。その時、レーさんと呼ばれたバーのマスターと目が合うがそのまま通り過ぎる。
さて、ここからだ。馬車に乗って死の森へと向かう。
馬車停留所に行けば、そこから馬車に乗せてもらい、関所を抜ければ......
関所?四方位門......国の四方に存在する門があった。完全に忘れた。どうしようか......
ルクイお兄さん、僕が売った指輪なら四方位門を越えられると言っていたはず......今から戻るか?いや、それは......
や、屋敷にまだあるかも知れない。屋敷に戻ろう。
そしてこれまで来た道を巻き戻って歩くように屋敷へと戻っていった。
今夜はいつも通りと違い、英雄のように冒険が出来ただろう。
ベットの下にバックを隠し、いつも通りに眠りにつく。
嗚呼、早くエルフに会いたい。