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第一話 何故、僕が今ここにいるか

僕はどうやら、みんなが持つ不思議な力、魔法が使えないらしい。


その事に、ようやく気付いたのは僕が四歳になった頃だった。


僕は人と違う。声が無い。声が出すことが出来ない。いくら、沢山のお医者さんも僕を診ても、何も変わりやしなかった。


三歳の頃にお父様に言われた。


「お前には何も期待していない」


そう言われても無知だった僕には、よく分からなかった。


しかし、そう言ったお父様にお爺様は、


「お前は何も分かっておらん」


と言って、僕を連れて屋敷を飛び出して行った。


お爺様と暮らす事になった僕は別荘へと連れられ色々な面白い本や逸話を教えられ、読ませてくれた。


そんな、お爺様が僕は大好きだった。


だけど、それは長く続かなかった。お爺様が倒れ、死んだ。

声にならない泣き声。僕には泣くことしか出来なかった。

死因は長年、お爺様が苦しんでいた持病。どうやら、まだ小さい僕には知らされていない大人だけの秘密だった。

それからお爺様を亡くした僕は、お父様の屋敷へと住むことになった。


その日から、日々が地獄だと感じた。


屋敷にいる使用人には嫌な目で見られ、肉親には最低限の生活に必要な物だけ与えられ、基本に空気扱いだ。そしてすごく厄介だったのは、肉親の子供。

僕の弟と妹だ。蔑んだ目。

一歳しか離れていないのに、僕を馬鹿にしてくる。しかも、彼らは魔法を使える。ウチの家は魔術師の名家で数々の魔術師を輩出してきた。だけど、そんな中で産まれた僕は魔法が使えない。こうして、約立たず扱いだ。


魔法は言霊を使って、魔法を使う。言霊は喋るという事。

つまり、喋れない僕は言霊が使えず、魔法は使うことの出来ない。


こんな僕の唯一の居場所。それはお爺様の書庫だった。別荘にいた時にお爺様に渡された鍵。それが唯一の鍵。

誰も来ないお爺様の書庫で一日中、僕は本の虫となって知識を蓄えていった。








ある日、僕はとある英雄に関する本を発見した。


『デベル=ティアス英雄記』


それは僕に夢を与えてくれた。



__________




英雄デベルは孤児だった。魔力量が極めて少なく、小さな火種を起こせるからどうかのものだった。

魔力が少ない人間は社会的弱者。成り上がったという話は無い。剣の道を極めようが所詮、熟練の魔術師には勝てない。


しかし彼は努力に努力を重ねた。魔術師に劣る剣の道を選んだのだ。


12歳の若さでスラムで恐喝をした厳ついゴロツキを倒した。


13歳、汚職をした騎士を打ち倒した。数時間程、牢に入れられたが容疑が晴れ、その実力を買われ騎士団へと誘われ、入団。

そしてわずか3年で副団長の座に上り詰めた。


デベルは17歳なった頃、運命を感じた。そう、それは一目惚れだった。

街で見かけた豪華そうな馬車の中にデベルの目に移ったのだ。

美しい金髪、白い肌の同い年ぐらいの女の子。

デベルはその子の虜になった。


しかし、それは高嶺の花の存在。この街の領主でもある公爵家のご令嬢、ヘレスト様。

それっきりしか見ていなかったのだが、再び会うことを祈り、デベルは決意をして、騎士団を退団した。


名誉を貰い、己の地位を上げてヘレスト様を迎えに行く。それがデベルの考えだった。


それからデベルは死の森に向かった。

目的はこの世界の魔法基礎を作り上げ、突然に姿を消した"エルフ"。この世界の古代人と言われるほど、昔から存在する人種。


伝説上では、エルフの作った古代兵器はかつての世界の半分を焼き尽くし、焦土とさせたと言われる。


その存在、エルフの情報は副団長の頃の地位を利用して手に入れた。


この世界の森はエルフを探す為、大抵国によって探索された。しかし唯一、探索されてない巨大な森がある。


それは通称『死の森』。

深部に行った一万程の兵士でも生きて帰る事のできなかった事が由来であるが、その深部に行くまででも強力な魔物が蔓延っている為、死者を沢山出す森として恐れられている。


その死の森はこの国の中、では無くギリギリ国境に入っていない。そして、どの国も国境を死の森を通っていない為、この森は誰のものでは無い。


そんな中、森で普通の人間より二倍程大きい耳を持つ人。が目撃されたそうだ。


そこでどうだろう。エルフを連れてきたらとても名誉な事ではないか?とデベルは考えたのだ。


そうして、デベルは死の森のある、東へと旅に向かった。


すると不思議な事に、デベルは自分の折れた剣と共に一回り小さい刃が青い見たことの無い剣。が自分の近くに落ちており、自分は森の中で寝ていたという。


ただでさえ、死の森で生きていた事が奇跡だと言うのにもかかわらず、その後に魔物に一切遭遇せず、森を出れた。


いつの間にか、エルフを会うことを忘れ、デベルは帰ってきた。腰に下げた青い剣と折れた剣と共に。


謎の青い剣を献上すれば地位が上がる?そんな訳が無い。

そう思ったデベルは、必死にどうやれば地位が上がるか考えた。


しかし、チャンス自体がデベルに舞い降りてきた。




『西の大盗賊団』



国の西よりにいる一つの街を容易に落とす事が出来る集団である。S級冒険者も歯が立たず、何人も犠牲となった。


本来ならば、西の関門が有り、その先にいるため。危険はこの街に無いはずだと思った。


しかし彼らはやってきた。


しかし、彼らは運が悪かった。その街には青い剣を持ったデベルがいたのだから。


デベルは元騎士団の副団長である為、容易に共同で作戦を行えた。それでデベルは遊撃部隊隊長を任された。


作戦実行前にでデベルは気が付いた。自分の剣が折れていた事を。しかし、デベルはもう一本剣を持っていたのだ。


盗賊が攻めてきた。奴らは堂々とココを攻め滅ぼすつもりだ。彼らを止めるため、デベルは盗賊へと斬りかかった。

デベルの持つ剣はまるで、空を切る如くサッと鎧ごと盗賊を斬り裂いた。

しかしそれだけでは、鋭さの良い剣。この青い剣はこれからだった。青い剣は斬撃を飛ばし、斬り裂いた先にいる盗賊ごと斬り裂いていった。


デベルはその凄さに驚いたが今は闘いの途中。剣を握りしめ、横なぎに振るう。

斬撃は十数人の盗賊の体が鎧ごと、切断された。

そして、それを目撃した盗賊達は戦意を喪失し、ガンガンと狩られて行った。


被害も少なく、見事な大勝利だった。

勝因は間違いなくデベルにあっただろう。デベルだけで倒した兵は五百を超えた。


国の危険分子であった『西の大盗賊団』を討伐したデベルはすぐに国中の話題となった。


それが国の王様の耳に入り、囲う為に爵位を与えられた。


しかし、それではあの公爵家のご令嬢、ヘレスト様には釣り合わない。


そして、デベルは様々な事を成し遂げる。


龍の谷にいるグレートワイバーンの討伐。冒険者ギルドへと入り、SS級冒険者への昇格。侵略してきた敵国の軍隊を仕留め、敵国を滅ぼした。


気を良くした王様はデベルが好きになってしまったらしい我が国のお姫様との婚約を持ち掛けた。


しかし、それをデベルはキッパリと断った。そして向かった先はもちろん、公爵家のご令嬢、ヘレスト様の元だ。


デベルは直ぐに求婚した。公爵家のご令嬢、ヘレスト様は二つ返事で『はい』と答える。


そして、デベルはヘレスト様と無事に婚約を果たしたのだった。


彼を悪魔。死神。と言う人もいるだろう。しかし、彼は我が国の"英雄"だ。


著者 アルフット=ティアス


__________



エルフ......デベルはエルフに会えたのかな?


会えたよね?青い剣を残していったんだと僕は思う。きっと口止めをされているんだ。


ああ、僕も......人の役に立ちたい。褒められたい。救いたい。"英雄"になりたい。


僕が始めたことはまず、武器の練習だった。


申し訳ないと思うけど、厨房からくすねてきたナイフを持つ。


この屋敷には全く武器が置かれていない。それほどのセキュリティが有るのか。いや、みんなには魔法が有るんだった。


僕はナイフを構える。素人だけど教材は周りに沢山ある。『楽しい短剣術』がタイトルの短剣術の本を片手に僕はその通りにナイフを振る。


型を毎日少しずつ片っ端から覚えまくった。だけどまだうろ覚え。3つ分の型を続けるのはなんとか出来るけど、4つから緊張感でいつも失敗する。


僕が練度を高めていく中、足りないものがあった。それは力と足運び。力は今から鍛え始めればいい。しかし、足運びをどうしようかと悩んでいるとお爺様の本がまたしても役に立った。


『暗殺術 Ⅰ 後ろから気になるあの子を殺る方法』


それには足の運び方、立ち回り、人間の急所が書かれていた。だけど、お爺様はなんでこんな本を持っていたのだろうか。そんな疑問を抱きつつ、全て覚えた。


動きは完璧だ。コレを日課にして、僕が出来ることを探す。


魔術書が見つかった。


忌々しい本だ。だけど、それでも敵を視察しに行くことも大事だよね。とそう思いながら本を開く。




......ダメだ。全く理解出来ない。呪文の何一つ分からない。法則性が見えないし、一つ一つの意味も分からない。


僕は本を閉じた。そして本棚に返す。見なかったことにしよう。


今日もナイフを振るう。


日々の運動で腕がしっかり、してきたような気がする。


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