228 僕の背中を冷たい汗が伝う。嘘だろ?
<西宮陽視点>
僕こと西宮陽は国民的無敵美少女アイドル、佐々木瑞菜さん、ボクシングバンタム級世界チャンピオン、八重橋元気先輩と東京ドームに来ていた。
観客席は、早くも立ち見が出るほどの超満員状態。人々の期待が作り出す熱気で溢れていた。
「瑞菜さん、東京ドームで結婚披露宴なんて聞いたことありませんね」
ちょっとしたことでは動揺しないクールビューティな瑞菜さんの顔が、ほんのり桜色に染まって興奮を伝えている。
「はい。私も年に何回かここでコンサートをしますが、こんなに贅沢な舞台は見たことありません」
元気先輩はキョロキョロと周りを見回して、驚きの表情を浮かべている。
「凄いな。野球場を水で満たすなんて。こりゃあ、想像以上に大掛かりなセットだ。俺のチャンピオン戦だってこんなに金をかけたことなかったもんな」
両隣の二人とも東京ドームの観客席をいっぱいにしたことがあるんだった。ずいぶん慣れたとはいえ、一般人である僕にしてみれば二人の凄さを改めて実感させられる。
ヘタレな僕にとって、これだけの観客に注目されるなんて考えただけでも恐ろしい。住んでいる世界が違うと言うか、国民的大スターが二人も横にいるなんて信じられない。
『Be Mine』の社長、森崎弥生さんが用意してくれた特別席を断って正解だった。二人と一緒にされたら大変なことになっていたに違いない。
VIP席には鈴木総理をはじめ、各界の有名人や著名人がずらりとならんでいる。『フォーシーズンリゾート』の件でプレゼンテーションした財界人など見知った顔も招待されている。
勢いとは言え、こんな有名人たちを相手に、大それた計画を持ち出したのだと思うと、今更ながら自分の役割が分不相応だったと実感させられる。
テレビ局などのマスコミも大挙して押し寄せ、会場内を慌ただしく駆け回っている。はじまりを待ちわびる観衆たちのざわめきが場を盛り上げていく。
「なんか緊張してきました。いきなりこんな大舞台、弥生さんは大丈夫なのでしょうか」
「弥生さんなら大丈夫だと思います。とても真の強い子ですから。それに宮本京社長がついてます」
国民的無敵美少女アイドルの瑞菜さんが言うのだから、きっと弥生さんの才能が、うまくことを運ぶだろうとも思える。やっぱり瑞菜さんは側にいるだけで心強い。女神のオーラをまとっている。
「いよいよ始まるみたいだ」
元気先輩の言葉と同時にドーム内が暗転した。いやでも興奮が高まっていく。
会場全体に360度プロジェクションマッピングで水没して荒廃したビル群が映し出される。青い空。小鳥が数羽、天幕を飛び交っている。
ドーン!
大音響と共に、映し出されたビルが崩壊し、巨大な水柱の中を下層階から海中へと沈んでいく。水しぶきが観客に降りかかる。ドーム内に満たされた本物の水だ。
まるで映画のワンシーンのような荘厳な光景に目を奪われる。その迫力に圧倒される。
音楽が流れる中、六メートル以上はあろうかと思われる二体のロボットが、空から現れて高速道路に見立てたステージに降りたった。着地と同時に走り出す。互いに剣を引き抜いて戦いだした。
自然で伸びのある動きに圧巻させられる。あんなロボット技術は、まだ開発されていない。どんなからくりなんだろう。
「カーボンワイヤーを使ったワイヤーアクションよ。ロボットをマリオネットみたいに操っているの。日本の伝統芸能とハリウッドのアニマトロニクスの融合ね。驚いたでしょ」
振り向いた僕たちの後ろに宮本社長が立っていた。気配も何も感じさせない神出鬼没な魔女。いや、ニューハーフでレズビアンの『カマレズ』。
「宮本社長!どこから現れたんですか」
宮本社長は、特撮ヒーロー、マスクライダーのヒロイン、羽佐間恵果の姿で満面の笑みをたたえて解説を続ける。
「陽くんの作ったカフェ『YADOYA』に集まるオタクたちが発案。日本の伝統的な人形劇の一つ『文楽』を使って動きに魂を吹き込んだのよ。アメリカで知りあったハリウッドのアニマトロニクス技術者がコンピューターを使ってワイヤーを制御しているわ」
巨大ロボット同士の大迫力の剣劇が繰り広げられている。これだけでも新しいエンターテインメントとして成り立つくらいの完成度だ。臨場感が映画を凌いでいる。
やがて一体のロボットが戦いに敗れて膝から崩れ落ちる。残ったロボットの胸のコックピットが開く。中からボディスーツに身を包んだ女性が現れる。
彼女はロボットの腕に捕まって立ち上がりヘルメットを脱いだ。長い黒髪が風になびく。憂いを帯びた切れ長の瞳。美しき戦士の登場。って矢内真司くん?
会場全体に国民的無敵美少女Ⅱ『プリンセス真子』コールが飛び交った。地吹雪の様に巻き起こったそれは、次第に熱を帯びて巨大なうねりへと高まっていく。
『オレっ娘』アイドル『プリンセス真子』がキメポーズ。
ニッ!
完璧にアニメキャラになり切っている。流れ出す激しい音楽。『プリンセス真子』はマイク片手にアニメの主題歌を歌い出した。
「新作特撮ヒーローアニメ『バイオメタルドール』の主題歌よ。衣装は全て『Be Mine』の森崎弥生。作詞作曲はこの私、宮本京。歌とダンスの指導は元祖国民的無敵美少女アイドル佐々木瑞菜。演奏はオーケストラに加えて和楽器の奏者も参加しているわ」
和楽器独特の揺らぎを含んだ心地よいメロディに乗せて、スポットライトを浴びて歌い踊る『プリンセス真子』。魂を惹きつける歌唱力と切れのあるダンスに、会場に集まった人々が呑み込まれていく。
「瑞菜さん!ビックリです。『プリンセス真子』って変キャラとかじゃなくて本物のアイドルなんですね」
「はい。真司くん、メキメキと上達するんですよ」
真司くんも凄いけど、こんなに短期間に指導を付けた瑞菜さんもただものじゃない。あらためて女神の存在を意識した。
「陽くん。俺っ、なんか、感動で目が霞んできたよ」
元気先輩!涙もろかったのですか?意外過ぎるチャンプの姿に驚かされた。
「さて、国民的無敵美少女Ⅱ『プリンセス真子』のデビューは上々ね。次はサプライズ!国民の妹、ボクっ子の登場ね」
「えっ!初耳なんですけど・・・」
再び暗転する会場。プロジェクションマッピングで天幕に映し出される銀色の月。白銀の羽を背負った天使が舞い降りる。
西宮月、美少女だけと中身がポンコツな僕の妹がそこにいた。
会場を埋め尽くす期待。嫌な予感が的中し、僕の背中を冷たい汗が伝う。嘘だろ?自慢じゃないが僕の妹、西宮月は歌もダンスも最上級にポンコツなのだ。目まいがしてきた。
横に立つ元気先輩は口をあんぐりと開いたまま固まった。振り向くと羽佐間恵果バージョンの宮本京社長の姿が、音もなく消えていた。
※このお話に出てくる巨大ロボット(実際は人型生物兵器)は、作者の作品『バイオメタルドール』と言うSFの設定を使いました。ロボットアニメが好きな方はぜひ読んでみてくださいね。かなり読み応えのある作品ですが最後はハッピーエンドです。宣伝でした。
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