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妹のラブレターを代筆したら、無敵美少女アイドルと同居することになった。  作者: 坂井ひいろ
Season2

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226 それが男の生きる道なのだ。

矢内真司やない しんじ視点>


 今日のヘレン様の様子は何か変だ。リビングの椅子の上で奇妙な踊りを舞ってみたり、俺の上に落っこちて動こうとしなかったり。


 いつもなら、遅れてきた俺に対して山ほどの難癖をつけて楽しもうとするのに。叱責しっせきを覚悟していただけに調子が狂う。


 三十センチも離れていない距離で乗っかられて、ヘレン様のお顔に見つめられた。ヘレン様から『ありがとう』なんて言葉をかけられたのは初めてだった。


『執事』としてヘレン様に仕えて本当に良かった。ヘレン様のあの時のお顔、お言葉!俺の一生の宝物なのだ。


 それにしても、風邪でもひいて熱でもあるのだろうか。そういや顔が赤かった。お熱をお測りしよう。


ヘレン様!先ほどはお顔が赤こうございました。お熱を測らせて頂いてもよろしいでしょうか」


「心配するな、熱などない。・・・。いや、まて。あるやもしれん」


「はっ、では体温計を持ってまいります」


「お爺ちゃんが待っているのじゃ。時間が無いぞよ」


 困った。どうする俺。


「こうすればいいのだ」


 ぐおっ!ヘレン様のおでこと俺のおでこが・・・。ヘレン様のお顔が大接近。いや、距離ゼロセンチ。既に接触している。


「ヤナイ!大変ぞよ。お主の方こそ、もの凄い熱だぞ」


「いやっ、これは、風邪とかと言うんじゃなくて・・・」


「とにかくお爺様との会議は後じゃ」


 ヘレン様は暴走超特急のような勢いで、ダン・B・リトル様との大切なテレビ会議を延期してしまった。


「・・・。ダン様は何と・・・」


「心配するな。これから専用機で日本に向かうからよろしく!とのことじゃ」


 ダン・B・リトル様が日本に来る!大変だ。お出迎えの準備をしなければ。お車の手配に、宿の手配。『Be Mine』の社長、森崎弥生もりさき やよい様との初面談の準備も必要だ。


『フォーシーズンリゾート』の進捗報告と・・・。うわー!鈴木総理とのスケジュール調整が・・・。宮本京みやもと けい社長にも会っていただかないと。日本の財界人の方々との面会もだ。


 め、目が回る。めまいがしてきた。しかし、この、矢内真司やない しんじ『執事』としての一世一代の晴れ舞台。これをそつなくこなしてこそ『執事』界のプリンス、裏世界の支配者と言える。


 あれっ?本当に体が怠い。ここの所、国民的無敵美少女Ⅱ『プリンセス真子』こと、矢内真子やない まこのデビューに向けたレッスンやら『フォーシーズンリゾート』の立ち上げに向けて宮本京社長と飛び回っていたせいで、ほとんど寝ていない。


 肉体疲労が重なった上に、ヘレン・M・リトルお嬢様の奇怪な言動からくる心的ストレス。意識が遠のいて行く。


 まだだ、まだ、倒れるわけにはいかない・・・。でも、体がふにゃふにゃと。柔らかい何かに支えられている。


 これはもしや、ヘレン様の胸の中。ふわふわであったかい。耳に伝わるヘレン様の心臓の鼓動が心地よい。抵抗できない。


ヘレン様・・・。すみません。少し眠らせていただきます」


・・・・・・・・・


「うわ!夢か」


 ぼやけた視界が像を結んでいく。サラサラした銀の髪。森に囲まれた湖の様な澄んだ青緑の瞳。絹を凌ぐ滑らかで純白の肌。筋の通った鼻。小さな可愛い唇がささやく。


「目が覚めたか?心配したぞよ」


「ひっ。ヘレン様?」


 ヘレン様が俺のことを心配するなんて、前代未聞。あり得ない。俺は悪い夢、もとい、最高の夢を見ているに違いない。


「服を脱がすのに一苦労したわい」


 なに!ヘレン様が俺なんかの着替えをなさっただと!益々おかしい。大地震の予兆か?ってか、ものすごく恥ずかしい。


「ヤナイは細っこいのー。まるで女の子みたいじゃった。ちゃんと食べなきゃいかんぞ。食事は体の基本ぞい」


ヘレン様。わたくしめのパジャマのボタンの順番が一個ずつズレております。てか、これ、女物のような・・・」


「気にするな。わらわのものだ。それより卵おじやを作ったのじゃ。食べて早く元気になるのじゃ」


ヘレン様が料理?なさったことがあるのですか」


「わらわをバカにするのか!料理くらいあるわい。わらわは英国淑女なるぞ。早う食わんか。冷めてしまうじゃろ」


 スプーンを握ったヘレン様の手が伸びてくる。白くほっそりとした指先にキズ絆創膏がいくつも巻きつけてある。・・・。


 卵おじやを作るのに包丁キズ?何をどうしたらこんなことになるのか。熱で頭が回らない。


 差し出されたスプーンの先を口に含む。甘い?!激甘だ。砂糖と塩を間違えております。それに口の中に大量のジャリジャリ感。


 この感触は玉子の殻?そのまま砕いて入れたのですね。包丁の生傷の原因に一人で納得する。


ヘレン様、とても甘いです。それに歯ごたえと申しますか・・・」


「ぐほっ!うぎっ!ぐえっ!」


 うおっ!やばい。ヘレン様の『幼児退行』、通称『地獄の赤ちゃん帰り』が始まる予兆。体力を失った、今、あの攻撃を食らったら、この矢内真司、生還することは、もはや叶わない。


「誠に美味しゅうございます」


「ウンギャー!んがっ・・・。ほか。なら良かったぞよ。たんと食べて早く良くなるのじゃ。おかわりもタップリあるのじゃ」


 良かった。間に合った。命拾いした。ヘレン様の笑顔が眩しい。そして目の前に差し出されたバケツいっぱいの卵おじや。砂糖の甘ったるい香りが部屋中に広がっていく。


「この御恩は一生涯忘れませぬ。頂かせていただきます」


「ヤナイ、わらわは『執事』のお主がおらんと困るのじゃ」


ヘレン様!わたくしめを『執事』と認めて下さるのですか」


 もう味なんてどうでも良くなった。体のだるさも熱も吹っ飛んだ。俺はバケツおじやに食らいついた。


 むせ返ろうが吐き気をもよおそうが、男ならやらねばならぬ時もある。それが男の生きる道なのだ。


 プルルルル。プルルルル。


宮本社長に渡された矢内真子専用スマートホンが鳴り出した。こんな時に、間が悪いったらありゃしない。


「矢内真子ちゃん。スマホの呼び出しが鳴っとるぞよ。国民的無敵美少女Ⅱ『プリンセス真子』!わらわの為に働くのじゃ」


 ぐっ!俺は男だ。でも、矢内真子は女!男としての俺の意志を粉砕する一言だ。ええい、ままよ。『オレっ娘』キメポーズ。


「ニッ!」

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