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妹のラブレターを代筆したら、無敵美少女アイドルと同居することになった。  作者: 坂井ひいろ
Season2

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92/99

224 笑っちゃうだろ

正月特番とでも言いますか。

ちょっと長めになってしまいました。

ラブコメ的、あまあまのお話なのです。

お正月ですから『元気』いっぱいでヨロシクなのです。

八重橋元気やえばし げんき視点>


 俺こと八重橋元気やえばし げんき西宮月にしみや つきちゃんと遊園地に来ていた。初めて守りたいと思った年下の女の子。自分の事をボクと呼ぶその子はいつもおかしなことばかりしているけど、そこがかわいい愛されキャラなのだ。


 長かった海外遠征。俺はこの日の為にずっと戦ってきた。防衛戦を勝ち続けてこられたのはこの子のおかげだ。チャンピオンになった時に一度、目標を失いかけたことがある。勝負の世界は少しでも迷ったヤツが負ける。一度頂点まで上りつめたものは、いつかはその座から引きずり降ろされる。落ちることはあっても、これ以上は登ることのない世界なのだ。


 俺は自分が負けて、みじめな姿をさらすのが耐えられなかった。何度も自分がぶざまな姿でマットに沈む悪夢で目覚める。挑戦者だったときは一度も見たことが無かった夢。この恐怖は登りつめたものにしか分からない。そして、戦っている限りその日は確実に訪れる。俺が引退をほのめかした時だった。


『そんなの一番になったことがあるか、なれる才能を持った人間が言う事だよ。ボクは違うと思う。ボクみたいに、何にもなれない人間の方がいっぱいいるんだよ。元気先輩にだって、これからもずっとチャンピオンでいて欲しいんだょー。だから、そんなこと言わないでよー。ぶぇーん』


 彼女の涙が俺を奮い立たせた。そうだ。負けたって良いじゃないか。全力で戦ったのだから、ぶざまな負け方をしても恥ずかしくない。その事に気付かせてくれた女の子。彼女の繊細な心に俺は恋をしている。


 俺の力は俺だけのものじゃない。みんなのものだって教えてもらった。だからそれ以来、挑戦者のリクエストは必ず受ける。俺はつきちゃんの笑顔を見る為に戦い続けるのだ。負けた時のことはその時考えればいい。大切なのはチャレンジし続ける事なのだ。


「元気はさあ。世界チャンプなのに、何でジェットコースターの前に来ると素通りするのかな。ぐふふ。いい歳してまさか怖いんちゃうよね。これってラブコメ的展開なのじゃ。ぶひゅっ」


「べ、別にそんなことないさ」


「ふーん。声がひっくり返っているのじゃ。んじゃ一番前に乗るのじゃー。ボクは最前列しか座んないから。ぎゃはは」


 可愛い顔をして迫られても、俺にだって苦手はある。いや、むしろ苦手ばかりだ。小学校の時にボクシングジムに通いだすまでは、臆病で直ぐに泣いて逃げ出す子供だった。あの時の記憶が蘇る。


「子供っぽい遊具は嫌いなんだ」


「無理しているのがバレバレなのね。元気って嘘つくとすぐに顔に出るから。そういう顔が、またボクの大好物なんだけどね。ぐへへ」


 なんか俺、弄ばれているような気がする。


「くっ。チビって泣いて抱きついて来ても助けてやんないからな」


「うほ!その言葉を待ってたのね。じぁあ乗ろう。楽しみなのじゃー」


「・・・」


 結局、年下の、しかも中三の女の子に手を引かれて、ジェットコースターの順番を待つ列に並ぶはめになった。下から見上げると余計に怖い。何でみんなあんなものにお金を払ってまで乗るのだろうか。考えないようにしよう。目をつむって座っていれば一瞬だ。列が少しずつ進む。処刑台に引き立てられる死刑囚の気分だ。


「むっ、二列目だ!」


 ちょっとホッとする。こればっかりはどうにもならない。


「ねっ、ねっ!係員さん。ボクシングバンタム級、世界チャンピオン、八重橋元気が最前列に座りたいと言っておるぞ」


つきちゃん。そう言うのはマナー違反だから・・・」


「うおっ!八重橋元気さん。俺、大ファンなんです」


 係員さん、声が大きい!お忍びなんだから・・・。


「マジかよ。チャンプじゃんか」


「うっそー。写真撮って良いかなー」


 大注目じゃないか。困った。弱った。逃げ出したい。


「チャンプ、僕らの席を譲りますから、サインをお願いできませんか」


 ぐっ。余計なことを!ラブラブのカップルが嬉しそうにしている。こいつらの前で醜態をさらすのはごめんだ。


「ハイハイ。降りたらサインするからねー。ありがとなのじゃ」


 恐怖の最前列確保作戦!狙っていたのか。逃げも隠れもできない。俺はつきちゃんと二人、最前列に座らされた。


 引き上げ時の、ゴトゴトと言う振動が恐怖をあおる。鉄骨の間を通り過ぎて行く風が髪をかき乱す。地上が遥か彼方に見える。恐ろしすぎる光景。心臓が爆発しそうだ!


「なあ、つきちゃん。これって一回転するんだろ。ベルトはどこにあるんだ」


「ぐふふ。元気はジェットコースターに乗ったことないでしょ。バレバレなのね。このバーに捕まっていたら、おっこったりとかしないのじゃ」


 隙間だらけじゃんかよ。信用できない。って、もう頂上につくか?ガツンと衝撃が俺を襲う。やばい!想像以上の高さだ。下を歩く人が小人に見える。


 ガガガガー。


 うっ。一瞬、重力が消えた。俺の意識も同時に消えた。


「元気!楽しかったな。やっぱり、ジェットコースターは遊園地のチャンピオン。最高なのじゃ」


「・・・?あっ、うん。アッという間だったな」


 全く記憶にない。気を失っていたのか、俺?


「さて、写真を見にいくぞ」


「写真って?」


「遊園地側が勝手に撮影して売りつけるのじゃ。あれっ、元気!知らないんだ」


「チャンプ!約束のサインをお願いします」


「お、おう」


 俺は最前列を譲ってくれたカップルが差し出した写真を受け取った。そこには、彼らの前で白目をむいて気絶する俺の姿がしっかりと映っていた。・・・。なんてことだ。


「うひひ。いい写真が撮れたのね。元気がサインしている内にボク買ってくるから」


 はめられた。完全に弱みを握られた。戻って来たつきちゃんが手にしていたものは、俺の恥ずかしい写真を収めたペンダントだった。いつの間にそんなレトロなものを持ち込んでいたのか。謎が謎を呼ぶ。


「ぐふふ。元気を操る魔法のペンダントなのじゃ」


 いや。魔法なんかじゃない。単なる脅迫アイテムじゃないか。


「それは脅しだよね」


ボクの大切な宝物なのじゃ!帰ったら兄貴と瑞菜さんに見せるのじゃー」


「分かったから。言うことを聞くから中身は絶対に誰にも見せないでくれ。二人だけの秘密だ」


「おにょ?二人だけの秘密!じぁあ胸にしまっとく」


 あれっ?つきちゃんらしくない。顔が真っ赤だ。恥ずかしいのは俺の方なのに・・・。


「大観覧車に乗ろっ!これは命令なのじゃ」


 つきちゃんが手を伸ばしてくる。俺はそれを握って大観覧車へと向かった。


 ゴンドラの中で二人っきり。こう言うのは初めてだから何を話したらいいものか。二人の共通の話題と言ったら、自然とつきちゃんの兄貴、西宮陽にしみや ようくんの話になる。


 西宮陽くんと再会したのは、彼が高等部に入学してきた時だった。俺は高二の春に私立修学館高校ボクシング部キャプテンになった。当時、高校ボクシング、バンタム級で全国優勝を果たした俺は新一年生を獲得して、部員仲間に良いところを見せようと意気込んでいた。


 体育館で、小学校の時に『神童』と呼ばれていた陽くんを見つけて声を掛けた。彼ははまるで精気のない男になっていた。だけど陽くんを試そうと放ったパンチが全て交わされて、ついつい本気になってしまう。ところがカウンターパンチを食らって床に沈んだのは俺の方だった。


 俺はその時に刻まれたあごの傷に手をあてた。俺のおごりを打ち砕いたパンチは、チャンピオン迄上りつめる為のエネルギーを生み出した。今となっては、くじけそうな心を奮い立たせる勲章みたいなものだ。


 チャンピオンになってから、陽くんと再び戦い彼の妹、つきちゃんと出会った。以来、限界だと思っていた俺のボクシングは変わった。愛する者の為に、相手に全力でぶつかっていく。出し惜しみも力の温存もなし。ただただボクシングを楽しむ。変な気負いも恐怖もなくなった。


 たとえ試合に負けても、俺には帰る場所がある。あたたかく迎えてくれる仲間といとしい彼女。今、俺の横につきちゃんがいる。それだけで心が安らぐのだ。


「やっぱすげえな。お前の兄貴。後輩だけどかなう気がしない。鈴木総理迄その気にさせちゃうんだものな。ああいうのを本当の天才って言うんだろうな。ボクシングバカの俺とはスペックが違い過ぎるって言うか」


「そんなことないよ。つきは元気の方がカッコいいとおもうぞ。でへへ。つきはね。頑張っている元気にベタ惚れなのじゃ。『金松堂のいちご大福』より愛しているのだ」


つきちゃん。俺のライバルは『金松堂のいちご大福』なのか?」


「うん。甘くってほんのりすっぱい『金松堂のいちご大福』。至福の大福。ボクの唇を独り占めにするのじゃ。でも、元気にだったらあげてもいいよ」


 つきちゃんが可愛らしい唇を尖がらせて目を閉じた。


つきちゃん!それってキスをねだっているの?」


「うひょ。ボクのファーストキス。でへへ。元気の唇って『金松堂のいちご大福』より柔らかそうなのじゃ!」


 丁度その時、花火がなった。閉園の合図。夜空に光の花が咲き乱れる。俺はつきちゃんの両肩に手を添えて、そっと顔を近付ける。唇と唇が触れるだけの軽いキス。小さな体をギュッと胸に抱きしめる。


「ねえ、元気の心臓の音が聞こえるょ。なんかバクバク言っているぞ」


「あのさー。今のが俺のファーストキス」


「うん。知っている。元気はボクシングバカだもん」


「笑っちゃうだろ」


「ううん。元気って兄貴以上にウブだけど、ボクはそんな元気が大好きなのじゃ」


 ありがとう。つきちゃん。俺の大切なちっちゃな彼女。大観覧車のゴンドラは、星が瞬き始めた夜空の中をゆっくりと回り、地上へと降りていった。

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