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妹のラブレターを代筆したら、無敵美少女アイドルと同居することになった。  作者: 坂井ひいろ
Season2

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223 俺は彼ともう一度戦ってみたいと思った。

八重橋元気やえばし げんき視点>


 帰ってくるなり挨拶もそこそこに、いきなりサイン攻めとは驚かされた。西宮新にしみや あらた西宮沙希にしみや さき夫妻、西宮月にしみや つきちゃんから聞いていたけどパワフルなお人達だ。あの、宮本京みやもと けい社長も鈴木総理もタジタジにしてしまう。


 ボクシングバンタム級世界チャンピオンとは言え、浮き沈みが激しいスポーツの世界に身を置く俺のことを認めてくれたばかりか、つきちゃんとのことを応援するとまで言ってくれた。正直、反対されると思っていたのでホッとした。


 久しぶりに会った西宮陽にしみや ようくんと佐々木瑞菜ささき みずなさんの二人は、更にオーラが増したような気がする。鈴木総理がお忍びで訪れるなんて、普通じゃ考えられない。でも、なぜかこの二人がすることならすんなりと納得できる辺り、ポテンシャルの違いを思い知らされたような気がする。


「さて、西宮ご夫妻がフランスに戻られたと言うことで本題に入らせていただこう」


 リビングに集った面々に鈴木総理が切り出した。テレビでは昼行燈ひるあんどんとか呼ばれてぼんやり顔にしか見えなかった総理の目が鋭く光った。何人も戦ってきたボクシングの挑戦者の目だ。この人はファイターなのだと実感した。


「実は例の『フォーシーズンリゾート』の件だが、東京湾に浮島を創る海洋都市計画が浮上している。建設予算はおよそ十二兆円。各シーズン毎に浮島を創り出す。四つの各都市に約一万人、総勢四万人が暮らす街となる。リゾート施設だけでなく、オフィスビルや商業ビル、大学などの研究機関を設けるので日中の人口は五倍、二十万人規模になるだろう」


「鈴木総理!すごいことになりましたね。『YADOYA』の仲間たちもビックリしますよ」


 陽くんの瞳がキラキラしている。俺がいないこんな短期間にとんでもないことが進行している。しかし、あまりに荒唐無稽で夢物語にしか思えない。


「そんなとんでもないものに税金を使って失敗したら、国民の反感が大変なものになりませんか?」


 俺は思わず声に出してしまった。


「おお、チャンプ。よくぞ聞いてくれた。この計画に税金は一切投入しない。民間の資金だけでまかなうつもりだ。島水建設が大学と一体となって構造研究を進めていたものをベースにした。賛同する大手企業も加わって議論が盛り上がっている。ITも最新医療も遅れをとった我が国再生の一大プロジェクトなんだよ」


 鈴木総理はタブレット端末を取り出して説明を始めた。まるでSF映画の様な世界がそこにあった。奇想天外な発想が次々と飛び出して、画面をのぞき込む僕はただただ驚くばかり。


「既に基本設計と安全性などの構造試験は終えている。地震にも津波にも耐えられるぞ。その気になれば2030年に実現できる。どうだ。ワクワクするだろ」


 鈴木総理は子供みたいにはしゃいで続ける。


「これが日本本来の底力だ。日本は変われる。それができなかったのは悪しき習慣だ。我々、つまりリーダーと呼ばれる年寄り連中の意気地なさなんだ。西宮陽くんの一言で我々は目覚めた。日本を元気にするぞ!私はこの事業の実現に向けて政治生命をかけたいんだ」


「八重橋元気くん。元気か、良い名だ。チャンプ、キミならこのチャンスをどう生かすかな?」


 突然降って湧いたような大胆な計画。しかし、この人は本気だ。俺を本気にさせた西宮陽くんは、内閣総理大臣を本気にさせた男になっていた。そればかりか日本を本気にさせる男になろうとしている。


「スポーツバカの俺には分かりません。が、スポーツ選手の寿命はとても短いです。一つの世界を極めても、三十歳になる前に引退するものまであります。それはそれで、次の世代が活躍する場ができるのだから大切なことです。しかし、引退した選手が指導者として協会に残れるのはほんの一握りです。俺はこうした選手が違う世界に飛び出せる場があったらと思っています」


「セカンドライフか!いいじゃないか。私も政治家を引退したら別の何かをしてみたいものだ。親から引き継いだ地盤に乗っかって総理になったが、俺は、本当はお笑い芸人になりたかったんだ」


「そっ、総理がお笑い芸人ですか!鈴木ちゃん、とてつもないカミングアウトですよ、それ」


「宮本くん!茶化さないでくれ。私は本気なのだ」


「鈴木総理。『YADOYA』に集まる人たちを見ていて思うんです。若者だけじゃなく、本当はみんな何かになりたいと思っています。でもなれない。夢をあきらめるのは何故でしょうか」


 西宮陽くんが真剣な眼差しでみんなを見渡す。


ボクだって元気や弥生やよいちゃん、瑞菜さんみたいに輝きたい!だけどボクには才能がないから・・・」


 西宮陽くんの妹、僕の彼女、西宮月ちゃんがうつむいた。僕はそっと彼女の手を握る。


「一番じゃなくったっていいじゃないですか。夢を仕事にできなくったっていいじゃないですか。みんな自分の好きなこと、やりたいことをやる。その上で、世の中に役立つ仕事もする。それができる場所が『フォーシーズンリゾート』なんです」


「そうか、そうだったな。政府は働き方改革なんて言っているが、結局は掛け声だけ。本格的なAI時代が到来すれば、嫌でも職業の多くが奪われる。それに向けた人減らしでしかない。経済の先が見えない時代に、労働時間だけ短縮しても不安になるだけだ。経済を活性させて、AIにできないコミュニティ産業を育成する。金持ちじゃなくても、やりたいことをやりながらちゃんと生活できる場所だったな」


「そうです。大企業の夢の実現は、それはそれで大切です。ですが、参加している人たちがブラック企業とか社畜なんて言っている内は良いモノも良いコトも生まれません。中小企業や個人が分け隔てなく語り合い、切磋琢磨してこそ新しい時代なんだと思います。経済の再生も重要ですが、僕はそれ以上に日本の文化を創造することが優先されるべきだと思います」


「日本文化の創造か。その気持ち、忘れてはいかんな。宮本くん!帰るぞ。皆に伝えなければならない。金のかかる箱ものばかり考えるのも悪くないが、中身も考えんとな。西宮陽くん。『YADOYA』のみんなにも伝えてくれ」


「もちろんです。僕はそれくらいしかできませんから」


 西宮陽くん!やっぱり面白い男だ。時代を創り出すことのできる天才。俺は彼ともう一度戦ってみたいと思った。

久しぶりにチャンプの登場でした。

チャンプは良い男なのです。ファンレターを募集中です。

ところで今回のお話に登場する海洋都市は某ゼネコンが発表したものをベースにしております。

中身はもっととんでもない品物で2030年に実現することが可能とか。

夢があってよろしいのですが、そこに暮らす人のイメージがやっぱり残念な感じなのでした。

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